「僕の人生をロバートと切り離すことはできません」――ロバート“ガチ勢”がテレビ局員になってロバート秋山の番組を作るまで《インタビュー》

文芸・カルチャー

公開日:2022/6/25

篠田直哉

 小学5年生でお笑いトリオ・ロバートと出会い、ロバートに青春のすべてを捧げた青年が、ロバートの番組を作るためにテレビ局に就職!? そんなロバートへの異常な愛情を綴った『ロバートの元ストーカーがテレビ局員になる。 ~メモ少年~』(篠田直哉/東京ニュース通信社)が発売された。

 ライブ会場でネタやトークをノートにひたすらメモし、ロバートの秋山竜次さんから「メモ少年」と命名された彼は、いかなる人生を歩んできたのか。その半生をひもとくはずが、気づくとロバートの話にすり替わっているという、世にも奇妙な1冊に仕上がっている。これぞ全オタクのバイブルにして、令和の奇書。この本が生まれた経緯やロバートへの熱い思いについて、著者にインタビューを行った。

(取材・文=野本由起 撮影=川口宗道)

僕の人生、全部ロバートだな……

――著書を読ませていただきましたが、なんとも数奇な人生を歩んできましたね……。

篠田直哉さん(以下、篠田):いや、普通に生きてきただけなんですが……。まさか自分の人生が本になるなんて思っていなかったので、変な感じですね。

――篠田さんは、入社2年目のテレビ局社員です。本が出版されることになったのは、YouTubeチャンネル「テレビ局の生活」で公開された動画「【ロバート秋山】元ストーカーがテレビ局員に。職権濫用で番組に呼ばれる」がバズったことがきっかけだったそうですね。

篠田:はい、動画が公開され、再生回数が伸び始めた時にお話をいただきました。

――この動画はロバートの秋山さんと篠田さんが出演し、『激レアさんを連れてきた。』のパロディのような形で、篠田さんのロバート愛、メ~テレ(名古屋テレビ)のディレクターになるまでの道のりを紹介するものでした。動画がバズったのは、なにかきっかけがあったのでしょうか。

篠田:動画を公開したところ、Twitterで共有されてどんどん口コミで広がっていきました。どうやらアニメやアイドルなど、全界隈のオタクの方々に観ていただいたようです。YouTubeは、共有される回数が多いとAIが「おすすめ動画」と判定してくれるようで。その効果もあったのか、一気に拡散されました。

――これだけ再生回数が伸びるというのは、予想していましたか?

篠田:いえ、思ってもいませんでした。あの動画は、ロバートの秋山さんに出演していただいた番組『低迷するテレビ業界 ~沖田コンサルの奇跡~』を宣伝するためのものでした。本編を観ていただくための宣伝動画ですから、普通はそこまで再生回数が伸びないんですよね。こんなに多くの方に観ていただけるとは思いませんでした。

――「本を出しませんか」というお誘いが来た時も驚いたのでは?

篠田:まず「誰が読むんだ?」って思いました(笑)。「僕の人生なんて面白くないけど、どうしよう」「売れないですけど大丈夫ですか?」って今でも思ってます。

――この本は、篠田さんへのインタビューをもとに構成されたとのことですが、インタビューは30時間近くに及んだそうですね。

篠田:ロバートさんの話をしはじめると止まらないんですよ。本の中身もそうですけど、インタビューもほぼロバートさんについて話していました。本にも入らなかったロバートさんの話も含めて、たくさん話しました。

――本を読んでいても、ロバート愛があふれて話が止まらなくなっていくのが垣間見えました(笑)。篠田さんご自身の話をしていたはずが、いつのまにかロバートのネタの話になっていて。

篠田:そうなんです。僕の人生の話をしているはずなのに、どんどんロバートさんのネタの話になってしまって。「この時、どうしてこういう行動を取ったんですか?」とライターさんに質問されても、「こう思ったからです。というのも、実はロバートのネタにこういうのがあって……」とか「ロバートがこうだったから、僕もこういう行動を取ったんですよ」みたいなことが多くて。その説明をするために、「そのネタっていうのは……」と自然とロバートさんの話になっていくじゃないですか。ですから、本の中にもロバートさんの話がめちゃくちゃ入っています。

――ロバートと切り離せない人生だから、自分のことを話そうとすると必然的にロバートの話が出てきてしまうんですね。

篠田:その通りです。確かに、不思議な本ですよね。気持ち悪いと思います(笑)。「コイツの人生を知ってやろう」と思ったら、どんどんロバートさんの話になっていくわけですから。結果的に、ロバートさんの布教活動に適した本になりました(笑)。

――本を出版するにあたって、ロバートのみなさんとはどんなお話をされましたか?

篠田:みなさん快諾してくださいました。秋山さんはすでに読んでくださったようで、「形になってよかったね」と言っていただきました。

――秋山さんの感想はいかがでしたか?

篠田:まず「こんなディープな本ないよ」って。ネタに関しては、「誰も覚えていないようなロバートのネタについて、こんなに書いてある本はまずない」と言っていただきました。僕自身については、確かに15年近くライブに通っていますが、当然秋山さんは僕の家庭環境や家族のことまでは知りません。テレビを1日1時間しか見せてもらえない家庭で育ち、その中でロバートを選んだこと、親が厳しかったことについては、「そういう経緯だったんだね。知らなかった」という感想をいただきました。

――長年ライブに通っていても、直接ロバートのみなさんと話ができるのは出待ちの時ぐらいだったんですよね。

篠田:お話できるのは、タクシーに乗るまでの10秒くらい。秋山さんからすると、そういう短い会話を15年くらい続けてきたヤツの人生を知るわけですからね(笑)。それが面白かったみたいです。

――改めて1冊にまとまったご自身の半生を振り返り、どう思いましたか?

篠田:「僕の人生、全部ロバートだな……」って(笑)。ロバートさん以外の話がほぼ出てこないんですよ。まだロバートさんと出会う前の幼稚園の話も入っているんですけど、出会ってからはほぼロバート。ロバートさんありきで動いていたなと改めて思いました。

見過ごしそうな違和感をネタにする、ロバート秋山さんの着眼点

篠田直哉

――まだこの本を読んでいない人のために、ロバートの魅力を紹介していただけますか?

篠田:ネタを作っている秋山さんに関して言うと、誰もがおかしいと思っているけれど、言葉にしなかったようなネタを引っ張ってくることです。例えば……って、こうやって例えを出しはじめるから、この本みたいにロバートさんのネタの話が広がっていっちゃうんですけど(笑)。例えば、「情報解禁」っていう言葉があるじゃないですか。でも、秋山さんは「いや、知らねぇヤツの情報解禁なんて知らねぇよ。『情報解禁しろ!』って街で暴動起きてねぇヤツが、情報解禁なんて言うな。普通に情報を言え」って言うんです。あと「公式ブログ」に対しても、「いや、非公式の偽物がいるならわかるけど、大したことないヤツの公式ブログなんて知らねぇよ」って。すごい目線ですよね。確かに違和感があると言えばあるし、その違和感に気づいてネタにするのが秋山さんのすごさだと思います。

 あと、ロバートさんって人柄がすごくいいんですよ。人柄がいいのに、ねじ曲がったネタを作るのもすごいなと思って。「クリエイターズ・ファイル」(秋山さんが架空のクリエイターになりきる企画)も、そういう人たちを馬鹿にしているんじゃないかと言われがちなんですけど、人柄がいいので悪く見えないんです。人柄がいいことを知ったうえでネタを見ると、より笑えるんですよね。

――この本からも、3人の人柄の良さがあふれ出ていました。篠田さんが受験する時や進路を決める時も、その後の人生まで見据えたうえで優しい言葉をかけてくれています。

篠田:本当に、3人ともみなさん優しくて。10秒くらいしか話せない中で、いつも優しい一言をくれるんです。大学の学園祭でロバートさんだけをお呼びした時も、帰り際に3人とも「学園祭がやれてよかったね」「用意してくれてありがとう」と気遣ってくださって。また次も追いかけようという気持ちにさせる、ストーカーを作りやすいタイプの方々ですね(笑)。僕が言うのもなんですが、ストーカーには気を付けてほしいです。

――ネタはもちろん、3人の人柄に惹かれるファンも多いのでしょうか。

篠田:そうですね。「3人の仲の良さが好き」という方は多いです。秋山さんと馬場(裕之)さんは幼稚園のゆり組から今までずっと一緒。NSC(吉本興業の芸人養成所)に通い始めてから博(山本博)さんが加わるんですけど、秋山さんがそこから“博いじり”をするようになって。しかも、馬場さんはそれを寂しがるわけではなく、むしろせいせいしているんですよ。(馬場さんが)昔、おじいちゃんからもらったポケットがいっぱいついた釣りジャンパーを着ていたら、(秋山さんに)「釣りジャンパーの歌」を作られて、学校で流行ってしまって、そのジャンパーを着られなくなったりしていたんですけど。今は博さんの「ひろしソング」をたくさん作るようになったので、自分がターゲットにならなくなってせいせいしているんですね。それでいて、秋山さんと博さんも仲が良いし、3人のバランスが取れているんです。

――奇跡的なバランスですよね。

篠田:珍しいですよね、ネタを作っている人がひとりしかいないトリオって。だからこそ、秋山さんが100%を出せるんでしょうね。僕が言うのもなんですが、この3人に関してはこのバランスがよかったんだろうなと思います。

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ロバートから「メモ少年」と呼ばれたことで、人生が変わった

篠田直哉
本書にも登場する、ロバートゆかりの“ギター型パネル”

――篠田さんがロバートのみなさんに認識されたのは、ライブ会場でメモを取っていたことがきっかけでした。著書には「書くことが好きで、何でも文字にしたいという欲があったのだと思います。文字化して、自分専用の資料を作りたがる人間なのでしょう」と書かれていましたが、メモを書き続ける原動力は?

篠田:子どもの頃から、ロバートの番組は録画して何度も繰り返し観て、全部DVDに残していました。でも、ライブは録音も録画もできません。じゃ、どうやって残すかとなったらメモするしかないんですよ。録画したDVDを観るような感覚で、家に帰ってからメモを見返して笑うっていうことをしていました。

 だから、会場での僕はメモを取るのに必死らしくて。ロバートさんからは「必死にメモしてるせいで、お前、全然笑ってないんだよ」っていつも突っ込まれていました。「今ここで笑いなさいよ。それ、めちゃくちゃもったいない遊びだから」って。

――それでも、やっぱりメモせずにいられないんですね。

篠田:ロバートの知らないトークやネタがあるのが悔しいので。今はネタを書き留めたノートも30冊近くになりました。

篠田直哉
「メモ少年」のメモぎっしりのノートたち

――今もノートを見返すことはありますか?

篠田:あります。秋山さんの番組を作った時にも、「番組にできそうな昔のネタはないかな」と思ってメモを見返しました。ロバートさんとご一緒させていただく機会があるのであれば、今の仕事にも生きてくると思います。

――篠田さんはテレビを観られるのが1日1時間という家庭で、その限られた時間でロバートの番組だけを観ていたから、ロバートにどんどんのめり込んでいったということですが、その一方で、夏休みにロバートのライブに連れていってもらったり、お父さんが代わりにロバートのライブでメモをしてきてくれたりと、ご両親には寛容なところもあります。不自由なようで、自由でもある環境だなと思いました。

篠田:親もちょっとおかしいんでしょうね(笑)。子どもの頃は何がダメで何がいいのか、親の基準がわかりませんでした。そもそもテレビは1日1時間というのも、だいぶ厳しいですよね。

 でも、ロバートさんに関することは確かに寛容だったかもしれません。そもそも中学時代は携帯も持たせてもらえなかったのに、「博さんとしかやりとりしません」と約束してTwitterのアカウントを開設するのを許してもらいましたから(笑)。逆に言うと、博さんはOKでも、他の芸人さんにはリプライを送ることができないんですよね。そうやって、ロバートさんに関しては狭い道ながらも許されてきたわけです。ロバートさん以外のエンタメは閉ざされていたわけですから、ますますロバートさんにのめり込んでいくのも当然の流れですよね(笑)。

――これまでの人生で、転機になることはいくつもあったと思います。例えば、ステージ上の秋山さんから「アイツ、必死にメモってるぞ」と言われた時、ステージに上げられて一緒にコントをすることになった時などがそうです。その際、臆せずに対応しているのがすごいなと感じました。篠田さんは小5まではおとなしかったのに、いざとなると恥ずかしがらずにちゃんと行動している。それは、なぜでしょうか。

篠田:ロバートさんに関することだけは恥ずかしくなかったんですよね。確かに小5まではめちゃくちゃ暗くて人前に出るのも苦手でしたが、ロバートさんのことだけはしゃべれるし、行動を起こすこともできるんです。なんででしょう……。やっぱ、本当に好きだからでしょうね。

――現在は、テレビ局のディレクターとして、秋山さんとの番組も制作しています。これまでいろいろな経験をしていますが、今振り返って一番大きな転機は?

篠田:ロバートさんに、「メモ少年」と名付けてもらったことですね。メモを取っていたことから「マネージャーになれば?」と言われ、「そうか、ロバートさんと一緒に仕事するという選択肢があるんだ」と気づけたわけですから。「メモ少年」と命名していただいた時が、一番のターニングポイントだったと思います。