「どんな場所も、あなたといれば日向だ」綿矢りさの新境地! 女性同士の鮮烈なる恋愛小説を読書家たちはどう読んだ?

文芸・カルチャー

公開日:2022/6/19

生のみ生のままで
生のみ生のままで(上・下)』(綿矢りさ/集英社文庫)

 出会ってしまったら、もうどうしようもないのだ。真剣な眼差しに射抜かれてしまえば、抗いきれない引力に誘われる。胸が切ない気持ちで満たされ、触れずになんていられない。そんな運命とも宿命とでも呼ぶべき強烈な恋心をあなたは抱いたことがあるだろうか。

 第26回島清恋愛文学賞を受賞した『生のみ生のままで(上・下)』(綿矢りさ/集英社文庫)は、まさにそんな恋愛を描き出した物語だ。作者は、芥川賞受賞作『蹴りたい背中』や大江健三郎賞受賞作『かわいそうだね?』などの作品で知られる綿矢りさ氏。綿矢氏の新境地ともいえるこの作品で描かれるのは、女性同士の鮮烈な恋愛だ。同性同士の恋愛小説を読んだことがないという人でも、息をするのも苦しくなるほど、彼女たちの恋愛模様に惹きつけられてしまうのではないだろうか。抗いきれない恋心。迫られる決断。読書家たちに大きな衝撃を与えている話題の恋愛小説なのだ。

 主人公は、携帯電話ショップで働く25歳の逢衣。彼女は、恋人と出かけたリゾートホテルで、彼の幼なじみと、その彼女・彩夏に出会う。美しい顔立ちの彩夏は、芸能活動をしているというが、何だか不機嫌そうで、不躾な視線で逢衣を見るばかり。逢衣は彩夏に苦手意識さえ抱いていた。だが、4人で行動をともにするうちに、逢衣と彩夏は次第に打ち解け、さらに東京に帰ると、たびたび2人で会うように。しかし、ある時、逢衣と恋人との間に結婚の話が出始めると、彩夏は突然、逢衣の唇を奪い、「最初からずっと好きだった」と告白する。困惑する逢衣だったが、次第に、逢衣も彩夏に惹かれていき、やがて2人はそれぞれの恋人と別れ、交際を開始する。心と身体のおもむくままに求め合い、一緒に暮らし始める逢衣と彩夏。だが、幸せに満ちた濃密な日々は長くは続かなかった。

advertisement

 この作品はとにかく冒頭から文章が美しい。

青い日差しは肌を灼き、君の瞳も染め上げて、夜も昼にも滑らかな光沢を放つ。静かに呼吸するその肌は、息をのむほど美しく、私は触れることすらできなくて、自らの指をもてあます。

 繊細な描写に魅了されているうちに、瞬く間に物語世界に没入させられる。読書家たちも綿矢氏が美しい表現で紡ぎ出すひたむきな恋愛物語に心奪われたようだ。

だーやまさん
綿矢りさは女同士を描くのが上手いと思う。友情も、恋愛も、性愛も。

cuchicoさん
出だしの文章で惹き寄せる。今作は特に詩的で、けれども無理に比喩表現を駆使してる感なく心地いい。

LUNE MERさん
著者の文体や言葉選びがやはり好きだなぁ、と改めてしみじみ思う。彩夏の猪突猛進ぶりも逢衣の抗えなさも感情移入してしまう部分がかなりあり、完全に引き込まれてしまった状態。

金木犀さん
面白くて一日で読み終えた。「これが恋でないと言うなら、あなたは一体何を恋と呼ぶのか。」という言葉は、一言で物語全体を表現していて心に残った。また、本作は恋愛を描いている物語ではあるけど、社会の中を生きる逢衣の心の持ち方も参考になった。綿矢りさ作品をもっと読んでみたくなった。

 本作を読むと、読書家たち同様、逢衣と彩夏の恋愛に心を奪われてしまう。まるで自分が恋をしているかのように、胸が締め付けられ、何度もため息をつき、何度も涙を流してしまう。この情熱的な恋物語をぜひとも体感してみてほしい。ああ、人を愛することは、こんなにも美しく、こんなにも苦しいことなのか。こんな風に全身全霊をかけて誰かを愛することができたなら、どんなに幸せなことだろうか。読み終えた時、きっとあなたの心にもそんな思いが宿るに違いない。

文=アサトーミナミ