契約のために10万円自腹……“中年住宅営業マン”の苦闘のドキュメント

ビジネス

更新日:2022/6/23

住宅営業マンぺこぺこ日記
住宅営業マンぺこぺこ日記』(屋敷康蔵/フォレスト出版)

 注文者が思い描く理想の住まいを提案し、一緒に作り上げていく“住宅営業マン”。多くの人が「ノルマがきつい」「しつこく営業をかけないといけない」「顧客最優先なので休みがない」といった”過酷な仕事”というイメージをお持ちではないでしょうか?

 今年5月に発売された『住宅営業マンぺこぺこ日記』(屋敷康蔵/フォレスト出版)は、某ローコスト住宅メーカーに中途で入社した中年社員の著者が、住宅営業マンとして働いた日々を赤裸々に綴った日記形式のドキュメントです。店長や顧客に振り回され、“ぺこぺこ”と頭を下げる毎日が記録されています。本書を読んで、住宅営業マンは“想像通り”どころか、“想像以上”にハードな仕事なのだと感じました……。

 たとえば、住宅メーカーと契約する際に必要になる“契約金”のトラブルについて。通常、本書で著者が勤務する住宅メーカーでは、契約時に最低でも100万円の契約金が必要になります。「家を建てよう」という意思がある人ならそれくらいの蓄えはあって当然かと思いますが、著者の屋敷さんが担当してきたお客様の中には、契約の段階で100万円の用意ができていない人もいたのだとか。

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 その日の屋敷さんのお客様は、30代前半のご夫婦でした。「契約金が100万円必要」という説明をした瞬間、ご夫婦は揃って当惑の表情を浮かべます。そこで「特例措置として最低10万円あれば契約は可能」と伝える屋敷さん。それでも2人の表情は曇ったままで、「お前の親から借りられるか?」「そんなの無理だよぉ」と相談を始めました。困った屋敷さんが店長のもとへ相談に行くと、なんと店長は「お前が個人的に10万円を貸してやれ」と言うのです! 結局屋敷さんは奥様に小言を言われながらも、後日お客様に10万円を貸し、無事(?)に契約へ漕ぎ着けたわけですが、「契約を取るためにはここまでしないといけないのか……!」と衝撃を受けました。

 ブラックな住宅営業マンの世界にも、胸があたたかくなるエピソードもあります。屋敷さんが、ある4人家族のマイホームを担当したときの話です。そのご家庭には2人の娘さんがいるのですが、下の娘さんは病気で、余命わずかという状態でした。下の娘さんが元気なうちに家を完成させたいお父さん。しかし、当時屋敷さんが担当していたエリアは福島県、それも東日本大震災の翌年でした。建築ラッシュ真っ只中で、どこも着工まで1年待ちが当たり前という状況のなか、屋敷さんは「このご家族の家を最優先で着工させてほしい」と、同僚や上司たちに頭を下げます。住宅営業マンとは、ただ家を建てるだけではなく、お客様の気持ちや人生そのものに寄り添う仕事なのだと、感動しました。

 他にも、初めて展示場へ来たお客様に翌日契約をしてもらう同僚の商談テクニックや、貴重な休日を潰して行われた社内レクリエーションで起きた悲劇など、“事実は小説より奇なり”な内容が盛り沢山でした。笑いあり涙あり、そして「働くこと」の意味を考えさせられる『住宅営業マンぺこぺこ日記』を、ぜひ手に取ってみてください。

文=ますだポム子