すべては相手を敬う気持ちから。理由とともに解説する、知っていて損はない日本の礼儀作法

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更新日:2022/7/6

日本の礼儀作法 宮家に伝わる7つのおしえ
日本の礼儀作法 宮家に伝わる7つのおしえ』(竹田恒泰/マガジンハウス)

日本の礼儀作法 宮家に伝わる7つのおしえ』(竹田恒泰/マガジンハウス)は、言葉・食事・人付き合い・お金などについて、日本の礼儀作法をレクチャーする一冊だ。著者の竹田恒泰氏は明治天皇の玄孫で、小さい頃から厳しいしつけのもとで育ってきた。当然、礼儀作法には詳しい。そんな竹田氏が、日本人なら知っておくべきとされる礼儀作法の数々を、なぜそうするのかという理由も含めて記している。

 まずは、身近な例からひとつご紹介しよう。

 客先の会社や人の家を訪問する際、約束の時間の前に到着するのがいいのだろうか? それともぴったりの時間に着く方がいいのだろうか?

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 会社の場合なら、相手の仕事を邪魔しないように約束の時間ぴったりに着くのがよいとのこと。人の家なら、訪問先の家がこちらの訪問のために何らかの準備をしている可能性を思い、時間より5分ほど遅れてチャイムを鳴らすのがよいそうだ。外での待ち合わせならば約束の時間より少し早く着くように心掛けるべきだが、相手先を訪れる時は時間より早いのは避ける方がよく、これは、相手の行動を邪魔しないようにという心遣いからくるマナーだという。

 竹田氏は正しい作法について、次のような内容を述べている。

 礼儀・マナーはシステムであり、知っていれば誰でも使えるが、知らないと損をするものである。大事なのは「自分が他者のために何ができるか」という心構えだ。

 この心構えは、日本の礼儀作法全般の内にあるもので、他人を尊重することこそが「和の精神」なのだそうだ。「和の精神」は、奪い合うのではなく分け合って暮らすために、祖先たちが長年積み上げてきた英知の結晶。かしこまった特別な場だけのものではなく、普段の日常にもその精神は生きている。

 例えば、日本では当たり前のように「お父さんの湯飲み」「お母さんのご飯茶碗」「私の箸」が区別されるが、世界の中ではこのような習慣は珍しい。西洋はもちろん同じアジア圏内のほとんどの国が、自分の使った食器類は、次の日には家族の別の者が使い、自分もまた前日別の者が使った物を使う。いわば、食器類が個人に属さないのだ。ところが、日本では口を付ける物は自分の分身といった感覚が古くからあり、幼い頃から箸でも茶碗でも自分専用の物がある。これは、自然の恵みを肉体に摂り入れることは、己が神から力を授かる行為だと考えられてきたからだ。神と己とのやりとりの間に、余計な物を廃した100パーセントの力が注ぎ込まれるように、他者の享受を邪魔しないように、と根付いた習慣だと考えられる。

 なかでも箸は、自然の恵みと自分とを「はし渡し」する道具なので、たくさんのマナーがある。迷い箸はいけないとか、料理に箸を突き刺してはいけないとか、私たちも親に注意されてきたあれこれだ。箸には神からの恵みを直接私たちに運ぶという大事な役割があるということを知ると、箸を持ったときの意識が変わるのではないだろうか。 このように、礼儀作法とその理由を一緒に説明されると説得力がある。

 礼儀やマナーというと、堅苦しさや苦手意識を持たれがちだ。しかし、その裏にある意味がわかると、私たちはすんなりと受け入れることができるのではないか。竹田氏も言うように知らないことで恥ずかしい思いをするのは損であることは確かなので、本書を通して知的興味を満たしながら身に付けるのはいかがだろう。

文=奥みんす