自分を振り返るときに開きたい、インド滞在記。『JK、インドで常識ぶっ壊される』/佐藤日向の#砂糖図書館㊻

アニメ

公開日:2022/6/25

佐藤日向

 高校生にとっての”3年”という決められた時間は、大人になってから過ごす3年よりも濃密で、大人になってからも色濃く思い出という形で残り続ける。

 今回紹介するのは熊谷はるかさんの『JK、インドで常識ぶっ壊される」という作品だ。本作は、著者である熊谷はるかさんが、中学3年生の終わりに父の転勤をきっかけに、多感な時期である高校生の期間をインドで過ごし、そこで見たものや感じたことが現役女子高生である熊谷さんの言葉で瑞々しく綴られた、インド滞在記である。

 タイトルに惹かれて手に取った本作だったが、熊谷さんが実際に見たインドの景色たちがリアルに描かれていて、読了後にはまるで私もインドに行ったような感覚に陥った。「インド」と聞いて思い浮かぶのは、カレー、ターバン、映画……。人それぞれ思い浮かべるものは違うと思う。だが、それはインドを知らない私たちが持つステレオタイプなのだと気付かされた。作中に描かれているインドは食文化や生活環境など、まったく異なる部分はありつつも、たくさんの言語が入り混じる場所だからこそ、言語の壁がない人同士の繋がりやコミュニケーションを取ることの大切さを、本書は教えてくれた。

 私の高校生時代は、この連載でも度々綴っているように、少し特殊なものだった。中学までの私は、価値観や大切にしたい時間のギャップを勝手に同世代の友達に対して感じてしまい、何を話せばいいのか分からず、仕事がない日に教室にいる異分子のような存在になってしまっていた。だからこそ芸能校に通えて、初めて同世代の友達とちゃんとコミュニケーションが取れたような気がしたし、理解ある先生方に会うことができて、仕事にも活かせる自分の強みを作る、という考え方が出来るようになった。

 高校2年生までの私は大学進学なんて全く考えておらず、漠然と”未来”という見えない大きな壁にぶつかっていた。そんな時、担任の先生が三者面談のたびに、「大学に行った方がいい」と何度も直接言葉で伝えてくれたから、私は学び続ける道を選べた。私が芸能の仕事をしているというフィルターでは見ずに、ひとりの高校生として、17歳の生徒の将来を先生が真剣に考えてくださったからこそ「英語を本気で学ぶ」という決意が出来た。

 正直、第二言語を学ぶことは簡単ではないし、「なんで二刀流が出来ると思ったんだ、あの時の私!!」と思う機会がなかったかと言われたら、それは嘘になる。何度も、出来ない自分に呆れて泣いたし、それは現在進行形でもある。だが、ソーシャルメディアを通じて海外のファンの方とコミュニケーションをちゃんと取れた時、苦労やつらい気持ちなんてものは消えて、心の底から「やり続けてよかった」と思える。

『JK、インドで常識ぶっ壊される」に登場する現地の人々は本当に多種多様で、読み進めながら今の自分が置かれている環境をいま一度見つめ直せたと私は感じた。文字を読んで、勉強する場もあって、それを何かに活かすことができる、無限の選択肢を持つ私は、とても贅沢なのだろう。驕らずに、ひとつひとつの積み重ねを大切にしたいと思わせてくれる、自分を振り返れる本書を是非沢山の方に読んで頂きたい。

さとう・ひなた
12月23日、新潟県生まれ。2010年12月~2014年3月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして活動。卒業後、声優としての活動をスタート。主な代表作に『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)、『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク』(暁山瑞希役)。ニコニコチャンネル「佐藤さん家の日向ちゃん」毎月1回生配信中。