2021年本屋大賞ノミネートの話題作がコミカライズ! 本に没入する感覚を疑似体験できる『この本を盗む者は』
公開日:2022/6/30
「本の世界に飛びこみたい」。読書好きなら一度は思い描くその夢を物語にし、2021年の本屋大賞にノミネートされた小説『この本を盗む者は』(深緑野分/KADOKAWA)。本好きを魅了するストーリーと惹き込まれる世界観を持つ本作は、読書家の間で一躍話題となり、“このぬす”ムーブメントが巻き起こった。
それから約1年経った2022年6月、コミック版『この本を盗む者は』(深緑野分:原作、空カケル:漫画/KADOKAWA)の1巻が発売に。改めてコミック版を手に取り、これは“本を読まない人たち”に届けたいと強く感じた。その前提で、あらすじと魅力を紹介しよう。
舞台は書店や本好きが集う“本の町”読長町。その中心にある巨大な書庫、御倉館を守る血筋に生まれた深冬(みふゆ)は、その生い立ちや故郷と反して本が好きではない。本を大切にするあまり偏った思想を持つ親族が主な原因だ。ある日、現管理人である深冬の父親が居ない間に、御倉館の蔵書が盗まれる。御倉館の蔵書には防犯のため“ブック・カース(本の呪い)”が仕組まれており、本が盗まれるとその呪いが発動するという。深冬は呪いにかかった読長町を救うため、本の世界へと飛びこむ。
まるで読書体験そのものを物語にしたような本作には、作中作がいくつも登場する。コミック版はその設定のおもしろさを、文字の表現とはまた別の形で楽しむことができた。本をめくりながら別世界に飛びこむシーンでは、文字のフォントを効果的に変えたり、大胆なコマ割を取り入れたりすることで、別世界へ誘われる感覚が一層強まっている。
また、登場人物の描写が魅力的だ。物語を進行するふたりの少女、深冬と真白(ましろ)は原作でも大好きな存在だったが、漫画となってふたりが交わす言葉を表情の変化と共に読むことで、躍動感のようなものを感じられた。
読書家たちが愛した“このぬす”の世界は、今回のコミック版リリースを機に、さらなる広がりを見せていくのではないだろうか。たとえ文字を読むのが苦手だという人でも、コミック版を読みながら文学作品に没入する感覚を疑似体験できるからだ。多くの人の本棚にこの作品が並び、本が手招きする魅力的な世界への案内役になってくれることを願う。
文=宿木雪樹