予想だにしない結末が待ち受ける! 黒い噂のある優等生×平凡オタク男子の秘密と友情のバディーミステリー
更新日:2022/7/1
誰にだって秘密がある。どれだけ親しい人にも明かせないことがある。本当は知ってほしいけれど、知られたら離れてしまうのではないかと思うと、恐ろしい。どんな人にもそんな隠し事があるのではないだろうか。
『学園の魔王様と村人Aの事件簿』(織守きょうや/KADOKAWA)を読むと、まさにそんなことを思わされる。この作品は、よからぬ噂のあるイケメン優等生と、彼に憧れる平凡オタク男子が織りなすバディミステリー。「100%騙される」と話題のミステリー『花束は毒』で新境地を拓いた織守きょうやさんによる最新作だ。
主人公は、ライトノベルが好きなごく普通の男子高校生・山岸巧。ある時、山岸は落とした本を拾ってもらったことをきっかけに、別のクラスの御崎秀一と関わりをもつようになる。御崎は、顔がよくて頭がよくて、その他、すべてにおいて秀でた完璧な優等生。だが、ヤクザの孫だとか、先輩をたたきのめしたなどの不穏な噂があり、「何をするかわからないから近づかないほうがいい」と恐れられ、孤立していた。しかし、山岸は、どうしても御崎のことが気になってしまう。ふとしたことから御崎の秀でた推理力を知った山岸は、彼の助手として学校や町で起こる事件の解決に挑むことに。
「……僕に探偵の才能があるかどうかはわからないけど、山岸くんには、探偵助手の才能がある」
容姿端麗かつ頭脳明晰な“魔王様”御崎と、その助手“村人A”山岸は、一体どんな真実にたどりつくのだろうか。
この作品は、とにかく2人の友情が微笑ましい。はじめは不穏な噂に惑わされていた山岸も、すぐに御崎の魅力に気づき、憧れを抱き始める。御崎が敬遠された理由は、眉目秀麗な彼自身のまとう近寄りがたい雰囲気のために違いない。いざ、関わりをもってみれば、御崎は、雨の日に猫を助けたり、山岸に勉強を教えてくれたり、心優しい人物だ。並外れた推理力をもちながらも、どこか浮世離れしていて、なんだかちょっぴりズレた感覚をもっているというのも愛らしい。
「君は勇気ある人間だ。尊敬する」
「御崎くんには、俺がいるからね」
ストレートにお互いへの思いを言葉にする2人の姿に思わずニヤニヤ。次第に友情を育む彼らは気づけばともに行動するのが当たり前になっていた。
だが、この作品は、彼らの友情に癒されるだけの物語ではない。『花束は毒』同様、この作品は、私たちを予想だにしない結末へと導いていく。いつも片方の個室だけが使えないトイレ。犯人を見たのにどういうわけだか名乗り出ない目撃者。寮から転落死した先輩。半グレの仲間割れ殺人事件…。少しの違和感を見逃さずに御崎が事件の真相にたどりつけば、それは、さまざまな人たちの秘密に繋がっていく。
「僕は君たちより少しだけ、悪人の行動や考え方に詳しいだけだ。そういうものを目にする機会が多かったから」
友達だって家族だって、何もかもを打ち明けなくてはいけないなんてことはない。誰にだって大なり小なり、秘密はある。それを共有できるかどうかで関係の深さが決まるわけではないが、もし、秘密を共有できたとしたら、きっとその関係はより強固なものになるに違いない。
育まれるかけがえのない友情と、迫り来る危機、毒がにじむような事件の真相…。2人の関係にキュンとさせられたかと思えば、意外な事実にハッと驚かされ、しみじみと考えさせられる。甘酸っぱい友情だけが描かれるわけではないからこそ、その深みに惹き込まれる。予想外の結末が待ち受けるこのバディミステリーをぜひともあなたも体験してみてほしい。
文=アサトーミナミ