かまいたちのM-1決勝秘話、バカリズムのセンス論──東京03と芸人たちの熱くて深い本音お笑いトーク
更新日:2022/7/2
近年、『あちこちオードリー』や『やすとものいたって真剣です』など、お笑い芸人が本音を語るトーク番組が人気を集めている。どちらも聞き手が芸人とあって、同業者ならではの経験や心情に基づく質問が投げかけられ、一般的なインタビューとは違った角度、深度の話を聞けるのが醍醐味だ。
ラジオ番組『東京03の好きにさせるかッ!』(NHKラジオ第1 毎週木曜20:05~)も、芸人たちの本音が語られるトークバラエティのひとつ。芸人や声優、俳優をゲストに招き、東京03とラジオコント&スタジオトークを繰り広げる人気番組となっている。
このたび発売された『東京03の好きにさせるかッ!: 傑作トーク選』(竹書房)は、数々のゲストの中からお笑い芸人11組17名のトークをまとめて収録。このゲスト陣の豪華なこと! バカリズム、矢作兼(おぎやはぎ)、田中卓志(アンガールズ)、剛・礼二(中川家)、富澤たけし(サンドウィッチマン)、小峠英二(バイきんぐ)、井戸田潤・小沢一敬(スピードワゴン)、ハナコ、空気階段、山内健司・濱家隆一(かまいたち)、塙宣之(ナイツ)と、若手からベテランまで錚々たるメンバーが名を連ねている。
こうしたトップ芸人と日本一のコント師・東京03が語り合うのだから、トークがスイングしないはずがない。バカリズムなら「センスのある人・ない人」、中川家の剛なら「東京から見た関西 関西から見た東京」など、ゲストごとにトークテーマが設定されているのだが、時にはテーマを大きく逸脱して話が盛り上がることも。
中でも熱いのが、かまいたち山内が2019年の「M-1グランプリ」に出場した際のトークだ。本来のトークテーマは「休みの日の過ごし方」だったが、東京03の飯塚は「興味ない」と一蹴し、「M-1」話を進めていく。2017年の「キングオブコント」で優勝を飾り、2018年の「M-1グランプリ」で「これで最後にしよう」と決めていた彼らは、なぜ2019年の「M-1」に出場したのか。急遽ラストイヤーでの出場を決めてから、どうやってネタをブラッシュアップし、決勝に勝ち進んでいったのか。優勝を飾ったミルクボーイの快進撃をどう見ていたのか。種明かしのように裏話が語られ、お笑いファンならゾクゾクするような興奮を味わうだろう。
さらに、「M-1」出場を申し出た張本人であり、渋る山内を説き伏せた濱家が何を考えていたのかも、別の回で明かされる。彼らのようにコンビ芸人が別々に登場する回は、それぞれの視点でお笑い論やターニングポイントが語られるため、両方の言い分を照らし合わせ、答え合わせができるのも面白い。
こうしたトークの数々から、東京03のお笑い観やそれぞれの人柄も浮かび上がってくる。トークを主導する飯塚は、言葉の端々からコント&お笑い愛があふれ、活字だけでもゲストの話を前のめりで聴く姿勢がうかがえる。ウケるとすぐ調子に乗るけれど奥ゆかしくてチャーミングな角田、ひょうひょうとしているようで努力家な豊本と、メンバーの個性も浮き彫りにされ、ますます東京03を好きになるはずだ。
お笑い談義に限らず、アンガールズ田中のコンプレックスとの付き合い方、スピードワゴン小沢の自分を貫く人生など、心に残るトークが盛りだくさん。お笑いファンや芸人志望者はもちろん、仕事や進路、生き方に悩んでいる人も、トップ芸人のエピソードから多くを学べる一冊になっている。
文=野本由起