思い出が詰まった食べ物がくれる、あたたかな気持ち『めぐり逢いサンドイッチ』/佐藤日向の#砂糖図書館㊼
公開日:2022/7/9
私にとって食べ物は、食べるだけで思い出深く残っている情景が簡単に思い出せる、魔法のような存在だ。卵焼きを食べるとお母さんの味を思い出す。このハンバーガーは仲直りをしたときに食べた――。そんな風に、食べ物で思い出す大切な記憶は、きっと誰しもにあると思う。
今回紹介するのは、谷瑞恵さんの『めぐり逢いサンドイッチ』という作品だ。本作は、大阪の公園にひっそりと佇むサンドイッチ屋さんが舞台となっている。作中に登場する姉妹ふたりで、このサンドイッチ屋を切り盛りしており、サンドイッチを通して出逢うお客さんとの関係が、まるで食パンのような柔らかさで包み込むように描かれている。
谷さんの作品を読むのは本作が初めてだったのだが、終始優しい雰囲気と、ふわふわとした文章で紡がれていて、読んでいるだけで心がほっこりして、自分に休息をあげられる作品だと私は感じた。普段、食事をするとなると、現場と現場の間におにぎりを詰め込んだり、現場のお弁当を食べることも多い私だが、「食べること」は何よりも大切にしている。母が作ってくれる手料理はどんな料理よりも大好きだ。きっと、私にとって思い出が詰まっている食べ物は、母の手料理なんだと思う。
たとえば、母が作ってくれたお弁当を見ると、これまでの学校のイベントごとはもちろん、初めて立った舞台の日のことや、これまでの舞台の初日を鮮明に思い出せる。私にとって母の手料理が原動力になるのと同じように、『めぐり逢いサンドイッチ』を読む人にも、「これを食べるだけでもう少しだけ頑張れそう」と思わせてくれる食べ物はあるのだと思う。
本作に登場するサンドイッチには、誰かを優しく包み込む、まさしくサンドイッチのような包容力があり、読み進めながら登場人物たちの関係性が少し羨ましくなった。私は人見知りも激しく、誰かとご飯を一緒に食べることがあまりなかったこともあり、お店の人や常連さん同士で面識が生まれて、コミュニケーションをとれる関係というのは、小説の中でしか体験したことがないため、読み進めながら憧れの気持ちが強くなっていった。
こういった作品を読むと、私は決まって「私もいつか自分の心の拠り所になるお気に入りのパン屋さんを見つけてみたい」という気持ちになる。まだまだ臆病な私に優しく寄り添ってくれた本作は、きっとこれからも私のお気に入りのサンドイッチ屋さんであり、ページを捲ればいつだって会いに行ける、優しい場所だ。是非、本作のふわふわとした優しい空気に包まれてほしい。
さとう・ひなた
12月23日、新潟県生まれ。2010年12月~2014年3月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして活動。卒業後、声優としての活動をスタート。主な代表作に『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)、『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク』(暁山瑞希役)。ニコニコチャンネル「佐藤さん家の日向ちゃん」毎月1回生配信中。