フィリピンには台風が冬に来る!? 気候現象の不思議。被害をもたらす台風・集中豪雨・竜巻の発生メカニズムは?
公開日:2022/7/16
天候に関心のない人は、おそらくほとんどいない。しかし、上空では何が起きているのかを知る機会も少ない。
気象予報士の資格を持つサイエンスライターの著者による書籍『面白いほどスッキリわかる! 世界の気候と天気のしくみ』(今井明子/産業編集センター)は、世界各国の気候や大気の現象、それらに伴う災害について分かりやすく解説している1冊だ。その中から、日本でも甚大な被害をもたらす「台風」「集中豪雨」「竜巻」に関する話題を取り上げていく。
フィリピンのシーズンは冬? 台風の上陸時期が地域で違う理由
熱帯低気圧のひとつ、台風が発生するのは「熱帯」だ。日本にやってくるのは「おもに8月の後半から10月にかけて」だが、同じアジアでありながらフィリピンでは、「11月や12月に台風による災害のニュースがよく報道」されるというのは驚きだ。
なぜ、台風の上陸する時期が地域ごとに異なるのか。そもそも台風には、「自分で移動する力は弱く、上空の風に流されて移動」するという特徴がある。「太平洋の赤道付近で生まれた台風」はまず「赤道付近の上空で吹く貿易風によって北西に移動」するが、このときに太平洋で発生する「太平洋高気圧」にはばまれるため「その縁を回り込むようにして移動」していく。
この「太平洋高気圧の勢力が季節によって違うこと」が台風の上陸時期に差が出る理由のひとつとされている。夏は「太平洋高気圧が日本付近にまで張り出している」ため日本へ接近しづらくなり、「晩夏から初秋にかけて太平洋高気圧の勢力が弱まる」時期になると、日本へ上陸してくるという。
甚大な被害をもたらす集中豪雨。発生の原因は積乱雲
日本も含む東アジアでは、「梅雨の末期や秋雨、台風の季節」に集中豪雨が発生しやすくなる。洪水だけではなく、山あいなどで土が一気に流れる土石流、斜面の土地が滑り落ちる地すべり、斜面が崩れ落ちる崖くずれなどの災害を引き起こし、日本でも甚大な被害をもたらしている。
集中豪雨が発生するのは、夏に見られる入道雲など、空中の上昇気流によって発生した積乱雲の「世代交代」が原因だという。
積乱雲は「暖かく湿った風(暖気)が山にぶつかったり、寒気と出合ったり」したときに「暖気が上昇して」発生する。そして、「積乱雲が発生しやすい場所」で「暖かく湿った風」が吹き続けると、次第に「同じ場所で次々に積乱雲が発生しやすくなる」という。
さらに、積乱雲は「最盛期」になると雲の中に「冷たい下降気流が発生」する。このとき、積乱雲を移動させる上空の風と「地表付近を流れる暖かく湿った風が同じ方向」を向くと、積乱雲が「上空の風に流されて移動」し、元の場所で「冷たい下降気流と地表付近を流れる暖気」が出合う。そうすると、同じ場所で何度も積乱雲が生まれる「バックビルディング現象」が発生し、「大雨が続く」ことになるという。
竜巻の発生原因は「スーパーセル」。北アメリカには「竜巻街道」も
集中豪雨だけではない。積乱雲は「竜巻」も発生させる。積乱雲の寿命は「通常30分〜1時間」とされているが、甚大な被害をもたらすほどの「勢力の強い竜巻」を発生させるのは、生まれてから「数時間程度」の寿命を持つ「スーパーセル」と呼ばれる積乱雲だ。
通常の積乱雲の寿命が短いのは、「上昇気流によって発生した積乱雲の中でそのうち下降気流が生まれ、その下降気流が上昇気流を打ち消すことで雲が発達できなくなる」のが理由だ。一方のスーパーセルには「雲の中で上昇気流が発生する場所と下降気流が発生する場所が違う」という特徴があり、気流同士で打ち消し合うことがないため、寿命が長くなる。
そして、スーパーセル内の上昇気流は「メソサイクロン」と呼ばれており、この下では「竜巻が発生しやすい」とされている。
日本でもニュースで話題にのぼるが、世界的に見て竜巻の発生数が多いのは北アメリカだ。アメリカは「多くの地域が平地」で、地理的に「メキシコ湾からの暖かくて湿った空気や、砂漠地帯の熱くて乾燥した空気、そして北の平原からの冷たく乾燥した空気、さらにロッキー山脈を越えて吹いてくる乾燥した空気」が、平地でぶつかる特徴がある。
種類の異なる空気がぶつかり、スーパーセルが発生しやすい環境であるため、自然と竜巻も発生しやすくなっている。アメリカの平地にはその出現頻度から「竜巻街道(トルネードアリー)」と呼ばれる地域もあり、ときに、現地で甚大な被害をもたらしている。
日本だけではなく、世界の天候や地理を学べるのも本書の醍醐味だ。ニュースでもよく見る「熊谷が猛暑の街である理由」など、ユニークな切り口のテーマもたくさんあるので、ぜひとも目を通し、身近な気候の不思議に思いを巡らせつつ、災害への備えに役立ててもらいたい。
文=カネコシュウヘイ