ファッション解説にとどまらない!菅田将暉『着服史』は、プロフェッショナルたちの情熱と覚悟に背中を押される一冊

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公開日:2022/7/22

菅田将暉『着服史』

 俳優としてはもちろん、歌手、また今年4月まではラジオパーソナリティーとしても活躍するなど、多様な分野で高い評価を得ている菅田将暉さん。彼は洋服、特に古着好きとしても知られ、その影響力の高さから“現代のファッションアイコン”とも言われる存在です。本書『着服史』(ワニブックス)は、そんな菅田さんが2017年から2021年までの5年間に着たコーディネートを紹介する、文中の言葉を借りれば「スタイリングをよく知りたい人に向けた資料集」。しかし本書を読み終わって思うのは、この本はただのスタイルブックではないということです。なぜならこの本には菅田さん、そして彼をファッションの側面で支える人々の、洋服と仕事への愛と情熱が詰まっているから。そしてそれが私たちに仕事へのモチベーション、明日への活力を与えてくれるからです。そんな資料集以上の力を持つ本書の魅力を紹介していきたいと思います。

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その日最高のパフォーマンスをするために作り上げられた、231のスタイル集

菅田将暉『着服史』

菅田将暉『着服史』

 まずは本書のメインである、菅田さんが5年間に着た洋服のスナップ写真たちから231枚を選び、本人のコメントを添えて掲載する「着服スタイル231」。表彰式などでバッチリキメた姿から部屋着のようなラフなスタイルまで、普段菅田さんがどんな発想、計算式でコーディネートをしているのかが紹介されています。またドラマ『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』『ミステリと言う勿れ』などの撮影中は、オフの洋服も役の雰囲気と似たものになったり、“役作りコーデ”なるものが登場したりと、菅田さんにとって役作りと洋服が密に関係していることがわかる嬉しい発見も。

菅田将暉『着服史』
菅田将暉『着服史』(ワニブックス)

私服&ノベルティからわかる、菅田将暉の圧倒的なセンス

 本書には、先ほど述べたスタイル集以外にもファッションにまつわる企画ページが多数登場。普段なかなか着る機会がないけれども、強い思い入れのある私服を中心にコーディネートした「私服蔵出し10コーデ」や、ジーンズのカスタマイズに挑戦する「世界にひとつだけのデニム」など、菅田さんのセンスが光るページが並びます。

 中でも注目なのが、本人が考案したドラマや映画のノベルティグッズ(スタッフさんや役者さんに配るもの)を紹介する「菅田将暉考案! オリジナル非売品ノベルティグッズ10」。例えば映画『糸』では、物語の舞台である“平成”にちなんだものをTシャツにプリントするなど、作品のテーマについて考えながらデザインされたアイテムたちが並びます。その写真と紹介文は、菅田さんが多忙な毎日の中でも楽しみながら制作をした様子がうかがえるものばかり。菅田さんのものづくりへの愛が伝わってきます。

菅田将暉『着服史』

菅田将暉『着服史』

プロフェッショナルたちのアツい仕事術も満載

 私が本書の中で一番感銘を受けたのが、菅田さんとファッションを通して交流を持つ人々へのインタビューが掲載された「ヴィンテージショップスタッフのプレミア証言集」「“菅田将暉”を彩る精鋭7人の逸話集」です。どの方が語る菅田さんからも、彼の洋服への愛と、仕事への妥協のなさが伝わってくるインタビューたち。しかしこの企画の魅力はそれだけではなく、インタビューを受ける側の人々の仕事への情熱も伝わってくるところです。例えばスタイリストさんだったら、“一瞬映るか映らないかのアイテムのために、膨大な候補を現場に揃えていく”など、普段どんなことをしているのか知らない分野の、それも一流の人々の仕事術には感嘆するばかり。

 また、そんなプロフェッショナルたちと菅田さんが、まだキャリアの浅い段階から恐れずに意見を交わし合う様子が話の随所に出てくることも必読ポイント。世間にその存在を知られるずっと前から自分自身の表現の芯を確立し、仕事への覚悟を持って取り組むその姿に胸を打たれました。

 さまざまなプロフェッショナルたちの仕事への矜持が伝わってくる本書。ファッションに詳しくなくても楽しめる、そして仕事や勉強など自分のなすべきことを「明日からもっと頑張ろう!」と背中を押してくれる一冊です。

文=原智香

菅田将暉『着服史』
※帯・表紙カバー裏撮影:永山瑛太
ワニブックス刊