教育現場で起きるわいせつ行為の裏にある、現代ならではの要因。いま教育現場では何が起きているのか
公開日:2022/7/20
教員による児童生徒へのわいせつ行為を防ぐ「わいせつ教員対策新法」が2021年5月に成立し、2022年4月に施行されるなど、近年は教育現場で起きるわいせつ被害への問題意識が少しずつ高まってきている。
『わいせつ教員の闇 教育現場で何が起きているのか』(読売新聞取材班/中央公論新社)は、新法の成立までの道程と、教育現場での性被害の実態を深く追求した1冊だ。
本書では被害者の声を交えて、さまざまな事案を取り上げ、わいせつ行為が発生する背景や被害を防ぐ術を考察している。
わいせつ行為の裏には空き教室の増加やSNSの広まりが
子どもにとって教員は、世の中のルールや勉強を教えてくれる指導者。子どもの多くは先生が悪いことをするという発想がないため、被害自体を認識できず、大人になってから初めて気づくケースが多いという。
現に、小学5年生の時に男性教員から複数回呼び出された50代男性は、下着を脱がされて下半身を触られたり、写真を撮られたりした当時、何をされているか理解できず、「先生が変なことをするわけない」と思っていたそうだ。
だが、中学生になってから自分がされたことがわいせつ行為であったと認識。大きなショックを受けたという。
一体なぜ、学校という環境で、子どもへのわいせつ行為は起きるのか。その要因のひとつとして、本書は空き教室の増加や教育現場でのSNSの広まりに着目している。
少子化の影響により、空き教室ができている学校も少なくない。文部科学省によると、全国の公立小中学校の空き教室は計約8万室にも上る。一部の教員は、わいせつ目的で空き教室を悪用しているというのだ。
例えば、2019年7月、北九州市では中学校講師が空き教室で女子生徒にわいせつな行為を繰り返したとして懲戒免職に。栃木県では2020年11月、女子児童が体操着に着替える際に使う空き教室に小学校教員がスマホを設置し、複数の児童の着替えを盗撮していたことが発覚した。
目が届きにくい空き教室は、いわば「学校の死角」。卑劣な性被害を防ぐには学校全体で密室や死角を作らない取り組みをしたり、空き教室のドアなどを外してオープンスペースにしたりする対策が求められる。
そして、SNSが悪用されるケースでは、教員と生徒との間で私的なやりとりが交わされ、わいせつ行為が起きていると本書は指摘。読売新聞の全国調査によれば、2019年度までの5年間に教え子へのわいせつ行為などで懲戒処分を受けた公立学校教諭496人のうち、少なくとも241人が被害者生徒らとSNSなどで私的なやりとりをしていたことが判明。
実際、京都府では2017年7月、公立中学校の男性教員が部活動で指導する女子生徒と連絡網としての電話番号の交換を手始めに、LINEのやりとりを開始。ドライブに誘ったり、キスをしたりし、懲戒免職となった。なお、この教員は「LINEでやりとりをするようになり、好意を持ってしまった」と語っていたという。
こういった事案を受け、文部科学省は2021年4月、SNSでの私的なやりとりの禁止や密室状態での指導の回避などの「対応指針」をまとめ、全国の教育委員会に通知した。だが、最終的には教員ひとりひとりのモラルに頼らざるを得ないという、歯がゆい現状がある。
このようなもどかしさを解消するためにも、まずは教育現場で起きている性被害の実態を知ることが大切だ。本書には、教育委員会への取材を通して浮かび上がった、わいせつ教員を罰する上での課題や英国・米国が行っている対処法なども綴られており、「自分たち大人にできること」を考えるきっかけとなりそうだ。
苦しみを抱える子どもを増やさないためにも、手に取ってほしい。
文=古川諭香