前田誠二「悩んでいた昔の自分に『今、頑張ってるで!』と言ってあげたい」声優図鑑
更新日:2022/7/26
キャラクターの裏に隠された自分自身をありのままに語る、ダ・ヴィンチWebの恒例企画『声優図鑑』。第291回に登場するのは、『カードファイト!! ヴァンガード外伝 イフ-if-』の橘タツヤ役、『アルゴナビス from BanG Dream!』の的場航海役などを演じる前田誠二さん。
10代の頃に夢中になったアニメや漫画の話、声優とは全く違う仕事をしていた2年間のエピソードなど、「自分が好きじゃなかったけど、自分を肯定してもいいかも」と思えるまでのこれまでを振り返りながら、お話を聞きました。
子どもの頃から体を動かすのが好き
——20歳の頃に大阪から上京して、声優として活躍していますね。子どもの頃から20代前半まではどんな日々を過ごしていましたか?
前田:子どもの頃は、地元でサッカーをしているクラブチームのコーチが父親と知り合いで、「今度遊びに行くか」と言われて行ったら、いつの間にか参加することに(笑)。父親もコーチをして、小学校1年から5年まで親子でサッカーをしてました。
——(笑)。思いがけないきっかけですが、5年間も続いたんですね。
前田:はい。でも高学年になると、楽しむだけじゃなくて勝つための練習が増えて、勝つことには興味がなかったので…。体を動かすのは好きだったから、今となっては感謝してますけど。
——それ以降も体を動かしていたんですか?
前田:中高はテニス部で、それも遊び感覚でした。当時はやっていた『テニスの王子様』の影響で友だちから誘われて。部活でテニスをやり、友だちの家でもゲームでテニスを(笑)。今もチャンスがあればフットサルやテニスをやりたいですね。
声優を目指すきっかけは「ああ、あれね」と言われる作品
——そんな学生時代を過ごす中で、声優を目指したと。
前田:目指そうと思ったのは高校の卒業間近ですね。7割くらい就職する就職率が高い高校だったのに、特にやりたい仕事がなくて。大学に行くのもな〜…と漠然と思っていたところ、声優やお芝居には興味があったので、卒業後は専門学校に。
——それまでにも声優やお芝居にふれていたんですね。
前田:両親が共働きで、夜は家にいないことがザラにあったのと、高校卒業まで門限18時だったので、学校から帰ったらだいたい外国の映画やアニメを観ていたんです。門限18時といっても、バイトは遊びまわっているわけじゃないから別でしたけど。
——その頃の思い出深い作品は?
前田:『新世紀エヴァンゲリオン』は、声優を目指し始めるきっかけにもなった作品です。アフレコ現場で先輩方に話すと「ああ、あの作品ね」って言われます。
——どんなところにはまったんですか?
前田:前向きなだけじゃないところですね。主人公が内向的で、思春期ってこういう感じだよなあ…と思いつつ、ロボットを操縦するところに憧れたり。特撮も好きだったので、使徒にも引き込まれました。
——特撮も好きだったんですね。
前田:子どもの頃は『忍者戦隊カクレンジャー』『激走戦隊カーレンジャー』『電磁戦隊メガレンジャー』あたりを観ていて、変形合体ロボットを集めては、ひたすら合体と分解を繰り返してました。やっていることは、いかついリカちゃん人形みたいなものですね(笑)。
——アルバイトはどんなことを?
前田:ファミレスとかコンビニです。一番長かったのはラーメン屋さんで3年くらい。実家はお小遣い制ではなかったので、お小遣いに回したり、部活で使うスポーツ用品を買ったり、上京するための費用にしていました。
上京してから2年、声優とは全く違う仕事を
——上京はどのタイミングで?
前田:大阪の専門学校を2年で卒業した後、東京の養成所に合格していたので、その時に。でも、卒業間際に担任の先生から大衆演劇の仕事を紹介されて、2ヶ月間くらいでしたけど、養成所と並行しながら旅公演で北海道にも行ってました。もともと専門学校で殺陣を習っていて、大衆演劇でも殺陣をやっていましたし、上京してからも殺陣チームに入って舞台やイベントに出てました。
——声優とはちょっと違うお仕事をしていたんですね。
前田:2年間くらいは声優とは違う道を歩んでいて、25歳くらいまでにお芝居で食べられなければ一旦やめようと思っていたんです。そんな時に、今の事務所のオーディションに合格しました。そのオーディションのナレーションをしていたのが事務所の先輩で…。
——へ〜。どんなナレーションだったのか気になりますね。
前田:森嶋秀太さんなんですけど、「○○ぼしゅーちゅうっ!」みたいな盛り上げる感じのCMが衝撃的すぎて(笑)。台本を読みながらテレビを流してたんですけど、思わず巻き戻してしまいました。すごいエネルギーだなと。今でも先輩とその話をすることがあります。
ファンの熱い声援に負けてられません
——CMとして大成功ですね(笑)。事務所に所属されてから様々な作品に出演されていますが、これまでのお仕事で印象深いものは?
前田:どの作品もそうですけど、1つ選ぶとしたらアルゴナビスプロジェクトです。リアルバンドでも活動しているので、やっぱり思い出が多いですね。
——アルゴナビスではベースのご担当ですが、もともと経験は?
前田:学生の時、9mm Parabellum Bulletが好きな友だちとコピーバンドを組んでベースを担当したんですけど、バ〜ッで暴れるところがカッコよくて、そんな部分ばっかり真似していたからちゃんと弾いてなくて。首からぶら下げてたくらい(笑)。
——ということは、リアルバンドが始まってから本格的に練習を?
前田:そうですね。稼働してからライブまでそんなに時間がなくて、しかも、その頃はドラムとボーカルがいない3人だけのバンドで。インストかな? と思うけど、そんなことはなく。10曲くらいの歌は持ち回りで、ライブまでの練習期間が3~4ヶ月を走り切ったので、頭は真っ白でしたけど終わってみれば楽しかったなと。
——プロジェクトが始まってから4年、音楽性やメンバーの関係性が熟してきた感覚はありますか?
前田:曲はいろんな方が作ってくださって、ストーリーに紐づけて僕らも置いていかれないように食らいついていくので、もともとレンジは広いんですけど、音楽性はさらに広がっているなと。メンバーはみんなアラサーだから落ち着いているし、音楽経験者の2人から教えてもらいながら力を合わせるという、いい関係だと思います。
——たくさんバンドがある中でも、アルゴナビスの人気はすごいなと思います。
前田:メディアミックスで、ファンの皆さんと一緒に作り上げていけるのはやっぱり魅力だと思うし、僕らはいつも「皆さんに届け!」という想いでステージに立っていますけど、皆さんのエネルギーもすごいんです。ライブ前に「バンド解散の危機が…」みたいな不穏な動画があがった時も、心配しながらライブを盛り上げてくれて。そういう姿を見ていると、長く続けられるように頑張らないとな、負けてられないぞって思います。
——秋にはワンマンツアーが開催されますね。
前田:新アルバムを引っ提げてのツアーだし、いろんな場所を回らせてもらえるので、まだライブで披露したことがない曲を含めて、いろんな側面をお届けできたら。コロナ禍を経て、たくさんの人たちの前でライブができることのありがたみを感じながら、健康に気をつけて制覇したいです。
『金色のガッシュ!!』が人生のバイブル
——好きな本や影響を受けた漫画を教えてください。
前田:たくさんありますよ! でも一つに絞るなら『金色のガッシュ!!』。人生のバイブルですね。
——どんな学びが?
前田:主人公のガッシュがパートナーと本気でぶつかって高め合っていく成長物語ですけど、読んだのが小学校の頃なのでストーリーはそれほど理解できたわけじゃなくて…。呪文を唱えたり技を使うのがカッコよくて、真似したりして楽しんでました。
毎日1ツイート、無事に終わりました
——次に、前田さんが普段大切にしている「3つのルール」を教えていただけますか?
前田:ライブや舞台で、1公演ごとに流れを毎回おさらいします。小道具のチェックとか、出るタイミングの確認とか。昼の部では大丈夫だったけど、小道具が所定の場所に戻ってなかったらどうしよう…とか気になるので。本番前や準備時間に何をするのか、スケジュールをもらった時に決めてしまいます。
——マメですね。
前田:いえいえ、要領が良くないから落ち着かなくて。
——2つ目はどうですか?
前田:500円貯金をしてます。お財布の中身を軽くしようと思って。よくある「100万円」って書かれた貯金箱で(笑)。
——よく見かけますね(笑)。100万円貯まったら何に使いたいですか?
前田:引っ越したいです。自炊しようと思うんですけど、ミニキッチンなので洗い物が大変で、普通のサイズのキッチンがいいなと。
——自炊をするんですね。
前田:料理は嫌いじゃないけど片付けは好きじゃなくて。やりたい時にすっとできる環境があったらいいなと。
——ちなみに得意料理は…。
前田:一番よく作るのはハンバーグ。一気に作って冷凍したりします。
——3つ目のルールはどうでしょう。
前田:もう終わっちゃったんですが、7月1日の誕生日までは毎日1ツイートを続けてました。同じようなことをしていた友だちを見て面白そうだなと思って、誕生日まではやり切ろうと。最初の1ヶ月あたりで「なんでこんなこと始めたんだろう…」と思いましたけど、半年を超えたあたりから「もう半年か〜」と。絵日記にしなくて良かったです(笑)。
——終えてみて、気づいたことは?
前田:何かをしたっていう直接のツイートというより、その時に思ったことをツイートしているので、「そういえば、こんなことあったな」と思い出せるような日記的な役割を果たしてくれたし、共感してくださるようなコメントをくれる方もいて嬉しかったですね。
受け入れられて、自分を肯定できるようになった
——声優になれて良かったことは?
前田:自分が子どもの頃に憧れた先輩方と一緒にお仕事できますし、自分の人生だけじゃ経験できない何かや、自分じゃない誰かを演じられることに興味を持って始めた仕事なので、それをできている今は、悩みの多かった昔の自分に「今、頑張ってるで!」と言ってあげたいですね。
逆に言えば、自分にないものも自分の中から捻り出すので、どこまでも自分から逃げられない葛藤もありますけど。もともと自分が好きではなかったので、そんな自分を受け入れてもらえる嬉しさもあります。
——受け入れてもらった、と感じるのはどんな瞬間ですか?
前田:一番は、お声をかけていただいたり、お手紙をいただいたりする時。そういうところから少しずつ、自分を肯定してあげてもいいのかも、と思えるようになりました。
——これから声優としてやってみたいことはありますか?
前田:先輩方を見ていると、小さい頃から見ている方も多いのに、それを感じさせないくらいパワフル。僕も先輩方のように、この仕事を続けられたら。それが応援してくださる皆さんにお返しできるものなのかな、と思うので、長く続けたいですね。
——前田さん、ありがとうございました!
次回の「声優図鑑」をお楽しみに!
前田誠二
◆撮影協力
撮影=山本哲也、取材・文=吉田あき、制作・キャスティング=吉村尚紀「オブジェクト」