“時間が戻ったら子どもを産まない人生を選びたい”23人の母親たちの声――世界中で話題の書籍がついに日本で刊行!
公開日:2022/7/31
20代前半まで希望に満ちたものに見えていた人生のさまざまな選択が、20代半ばに差し掛かると、急に呪いのように感じることがある。
結婚、仕事、そして子ども……自分は結婚をするのか、結婚をしたあと仕事はどうするのか、子どもを持つのか、持ちたくても授かれなかったらどうするのか。それぞれの選択を尊重するべきだという声を耳にすることもあるが、その中に「自分の意志で子どもを持たない人が含まれていないな」と感じることが多々ある。
私自身が、自分にとっては子どものいない人生のほうが充実していると感じるチャイルド・フリーであり、実際に30代半ばの今も子どもがいない。それを公言するようになってようやく「私も子どもがほしくなくて」と打ち明けてくれる友人が増えたが、30代前半までは「子どもがいるほうが人生楽しいよ」とか「子どもを産まないとあとで後悔するよ」といったアドバイスをされていた。
そして、私と同じように子どもを持つことに興味を持てない人が、「まわりの人から産まないと後悔するって聞いて」と言って子どもを持った女性もいた。
もう連絡をとっていないが、母親になった彼女は今、どんな気持ちでいるだろうか。
そんな過去の会話を、『母親になって後悔してる』(オルナ・ドーナト:著、鹿田昌美:訳/新潮社)を読んで思い出した。本書は、「今の知識と経験を踏まえて、過去に戻ることができるとしたら、それでも母になりますか?」という問いに「ノー」と答えたユダヤ系イスラエル人の女性23人にインタビューした報告書だ。私は原書を読んではいたが、少子化が進む日本で出版されることはないと思っていた。
著者は彼女たちが「ノー」と答えた理由を追求することに意味を見出していない。それよりも「なぜ出産をしたくなかった彼女たちが母親になったのか」に焦点をあて、インタビューによって社会の抱える問題を浮き彫りにする。
「時が戻せるなら母親になりたくなかった」と答えた母親たちのほとんどは、「子どもへの愛情」と「自らが母であることへの憎しみ」を区別して考えている。
彼女たちは子どもを“独立したひとりの人間”としてその存在を尊重し、育ててきた。
今いる子どもへの愛情は別として、子どもを産む前に母親になるかどうかを選択したかったというのが彼女たちの本音だ。
インタビューを受けた女性の中には自分が子どもを持ちたいかどうか考える前に授かってしまい、産まない選択ができなかった女性も含まれている。イスラエルのユダヤ人社会では男女ともに兵役がある。子どもを作り兵士として世に送り出す責任も伴っているため、社会の中で出産は女性の義務だととらえられており、自分で選択できるものだとは思ってもいなかったのだ。
著者はとりわけ30歳以上の女性に「あなたは後悔するはずだ」という圧力がかかると述べている。“今はほしくなくても、産まなければほしくなったときに後悔する”という論理で、これは日本人である私もよく耳にしてきたことだ。
そして、「産まない選択をしている」と言うと「なぜ」と聞かれる。著者は、産まない理由を問うことに意味はなく、理由を想像したとしてもそれがすべてではないケースがほとんどだと論じている。
子どもがいる人、独身の人、不妊治療をしている人、子どもがほしいと思えない人。人それぞれ、十人十色の人生のかたちがある。しかし、親しい関係、たとえば家族であっても、相手が何を考え、出産という大きな選択に対して何を感じているのかはわからないものだ。でもそれは、相手の人生に思いをはせることで理解が広がるのではないだろうか。
男女問わず多くの人が、本書を読むことで多様な人生について考える機会を得られるはずだ。
文=若林理央