助けたスズメが人に化けてやってきた!? ぽんこつ可愛い“おチュン”の、現代版恩返しストーリー!
公開日:2022/7/28
童話やおとぎ話でよくある、大切にしていたペットや助けた動物が人の姿になって恩返しに来るという話。願い事を叶えてくれるというワクワク感はもちろん、普段会話のできない動物とのコミュニケーションができるという特別感も相まって、多くの人が一度は憧れるのではないだろうか。筆者もそうした、いわば「擬人化友達」がほしいと何度思ったか分からない。
『チュンの恩返し』(梵辛/双葉社)は、そんなおとぎ話のような出来事が実際に起こってしまった主人公の生活、そして鳥側の世界を描いた物語。本作は、口下手同士の出会いと攻防 戦を描いて大好評となっている『くちべた食堂』(KADOKAWA)の作者・梵辛さんが手掛ける意欲作。
主人公は、絶賛スランプ中の画家兼イラストレーター・江垣流一。ある日、自分の描きたいものが何なのか分からず頭を抱える流一の家の窓に、1匹のスズメが激突してくる。流一がスズメの怪我を治療して外へと放ったところ、その夜、着物姿の女性が家を訪れた。その女性は恩を返すためにやってきた昼間のスズメらしく、「『おチュン』――とお呼びください」と言ってきて――。ここから、流一とおチュンの交流が始まっていく。
恩返しとは言っても、おチュンはよくあるチート能力や魔法、スキルの類が使えるわけではない。使える能力といえば、人間の姿に変わることくらいだ。日本円も持っていないため、お金のかかることも無理。それでも流一のために何かしたいと、「資料」になったりカパカパになったお米を食べたり、本人なりに健気に尽くしてくれる。
その「小鳥なりに一生懸命やっているけどどこかぽんこつ」という具合が残念可愛く、まるで幼い子どもを見守るかのような気持ちで読み進めてしまう。流一も、何だかんだであっという間におチュンの虜に。しかしその結果、なんと宣伝した画集が売れ、マンネリからも脱却。結果的にしっかりと「恩返し」になっているのがすごい。
また、2話以降では鳥サイドの生活も描かれる。どうやら鳥の世界にも学校があり、人間のように勉強や宿題をこなしているらしい。人の姿に化ける「化け学」を学んだ生徒には、「人間社会に溶け込む実習」もある。流一のもとへ行くたびにしているコスプレも、授業で習ったものなのだろうか。おチュンが「つるかめ算」や「点P問題」への疑問を呈する様子には、思わず共感し笑ってしまった。
中盤以降では、おチュンといることでほかの鳥との交流も生まれ始める。そして気づけば、「鳥絵師」としてTwitterフォロワー数も伸びていき――。
鳥が恩返しをする話というと真っ先に思い浮かぶのが『鶴の恩返し』だが、おとぎ話が現代版になるとこんな感じなのか、と思わず内容を比較してしまった。昔は家事をしたり布を織ったりとアナログな手作業が多かったが、現代の日本ではそうはいかない。つまり、恩返しにも工夫が必要になってくるわけだ。しかし流一とおチュンは、だからこそお互いをよく知ることができ、まるで友達のような関係を築けたように思う。そう考えると、この現代版恩返しも悪くないなと感じる。
1巻終盤では、ある鳥の裏切りにより、おチュンたちが暮らす「お鳥の里」への危機も訪れる。
おチュンたちは無事危機を乗り越えることができるのか、いったいどうなっていくのかにも注目だ。『チュンの恩返し』はまだまだ始まったばかり。流一の画家生活や鳥たちの生活、流一とおチュンの関係がどうなっていくのか、引き続き注目していきたい。
文=月乃雫