「先に死んでしまった娘の日記を一枚一枚どんな気持ちで読んだことか」/山本千尋の読書日記①『アンネの日記』

文芸・カルチャー

更新日:2022/8/19

山本千尋氏
映画『キングダム2 遥かなる大地へ』やNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に出演中の山本千尋さん

 私にとって読書とは、人生においてのガイドブックです。尊敬する先生方が本を通して教えて下さる言葉の数々と尊い世界を、このコラムを見て下さる皆様に少しでも興味を持って頂けるきっかけになれば嬉しいです。

①アンネの日記

アンネの日記
アンネの日記』(アンネ・フランク:著、深町眞理子:訳/文藝春秋)

 罪なき人々が命を落としています。今世界が混乱していて辛いニュースを毎日見ないといけない。同じ地球で同じ時を過ごしているのに。無力な自分が悔しい。でも伝え続けないといけない。失っていい命なんてひとつもない。

アンネの日記』を初めて知ったのは、小学校低学年くらいでしょうか。その頃伝記漫画が大好きで、よく買ってほしいと母におねだりしました。

 当時読んだアンネ・フランクの伝記漫画が子どもながら「なんて可哀想な女の子なんだろう」という感想を抱いたことを覚えています。伝記漫画に登場する人物は、天才だとか努力で勝ち上がったとか、どこかヒーローのように感じるキャラクターが多く、アンネ・フランクがごく普通の女の子に見えたからこそ逆に衝撃だったのかもしれません。

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 また、『アンネの日記』を改めて読もうと思った理由は池上彰さんの「世界を変えた10冊の本」の1つで紹介されていたからです。

 池上さんは「若いうちに目標を持って勉強と読書に打ち込むことの大切さを、アンネの短い生涯を通して伝えてくれている」とおすすめされていました。

 それからでしょうか。本を大事に取っておいてまた読み返すようにしているのは。同じ本でも不思議と環境の変化や心境の変化で受け取り方が違ってくるように思えます。

『アンネの日記』は世界で3000万部以上出版され、戦争が如何に愚かで繰り返してはいけない事か、ナチスの迫害を受けたユダヤ人の悲劇を強く訴えています。出版を踏み出したのはアンネの父、オットー・フランクです。アンネの家族の中で唯一収容所から帰還した生存者でした。父・オットーの意向で初版の『アンネの日記』はアンネの家族への悪口や思春期の性的記述、他にも色々と消去されています。お父さんですもの。載せたくない気持ちは理解できます。たった1人生き残り、自分より先に死んでしまった娘の日記を一枚一枚どんな気持ちで読んだことか。想像しただけで涙が出ます。でも伝えないといけないと思い、本にして下さった父は偉大です。

 そして時は立ち、10年程前に原本に近い形で再出版されました。そこには年頃の女の子特有のお母さんには反発しちゃうけど、お父さんは怒ると怖いし、悲しませたくない。女の子はその時から女の子なんだなと思える可愛らしさ。好きな男と子が出来たこと。身体が女の子から女性に変わっていく不思議な気持ち。私も経験したごく普通なこと。でもその普通が如何に美しく、愛おしいことか。普通の女の子の成長を見ているだけなのに読めば読むほど胸がえぐられる気持ちになります。何故なら私たちはアンネの結末を知っているから。悲しい悲しい結末を。この日記がたくさんの人の手に渡り心を痛め、二度とこんな事が起きてはいけないと思ったはずなのに、今また世界では同じ事が繰り返されている。本当に悲しくて悔しいです。今こそ『アンネの日記』から言葉を使わせて頂きます。

“希望があるところに人生もある。
希望が新しい勇気をもたらし、再び強い気持ちにしてくれる”

 私は世界平和への希望を諦めません。

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<プロフィール>
山本千尋(やまもとちひろ)/1996年、兵庫県生まれ。中国武術、アクション、殺陣を特技とし、JOCジュニアオリンピックカップ武術太極拳大会では3種目、3連覇の優勝経験を持つ。2014年にヒロインを務めた映画『太秦ライムライト』では、第3回ジャパンアクションアワードのベストアクション女優賞を受賞。近年は、ドラマ『未来への10カウント』や『着飾る恋には理由があって』、『誰かが、見ている』、音楽劇『GREAT PRETENDER』、舞台『INSPIRE陰陽師』などに出演。

<告知情報>
2022年7月15日公開/映画『キングダム2 遥かなる大地へ』羌瘣の姉・羌象役として出演
三谷幸喜さん脚本/NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』善児に育てられた孤児・トウ役として出演

<第2回に続く>

【お詫び】一部事実と異なる記載があり、記事公開後に内容を変更しております。