「第一声から、この子しかいないんだなって思いました」――TVアニメ『ユーレイデコ』川勝未来×永瀬アンナ 十代のダブル主人公対談
公開日:2022/7/30
現実と仮想空間が重なる情報都市・トムソーヤ島にはユーレイが出る!?
この島の住人たちは、視覚情報デバイス「デコ」を身に着け、リアルとバーチャルを行き来した生活を営んでいた。そこで島のシステムを揺るがす不思議な事件が起こる。
ベリィとハック、フィンたちは、システムの外側の存在「ユーレイ」となって、この事件の真相を探っていく。
本作の主人公ベリィは「らぶい!」が口癖の元気な女の子。彼女は装着した「デコ」の不調がきっかけとなり、ユーレイと呼ばれるハックと出会う。もうひとりの主人公ハックは「ガジガジ」「ギラギラ」といった独特なしゃべり方をする不思議な子ども。はたしてふたりは、このトムソーヤ島でどんな冒険をするのだろうか。
ベリィ役を務める川勝未来、ハック役を務める永瀬アンナはふたりとも十代の新人声優。フレッシュなふたりは、先輩となる声優・入野自由の支えも受けながら『ユーレイデコ』の独特な世界を見事に表現した。オリジナルアニメ作品に挑んだ、ふたりの思いを存分に語っていただいた。
同い年の声優が務める、ダブル主人公作品
――今回、おふたりがオリジナルアニメ『ユーレイデコ』に参加することになったきっかけは何だったのでしょうか。
川勝:音響監督の久保(宗一郎)さんに「こういう作品があるんだよ、ベリィっていう子がいるんだよ。やってみないか」ってオーディションの話をいただいてそれで「はい、やります」って。最初はベリィのセリフを演じたものをテープで送って。そうしたら、スタジオに行ってね。
永瀬:そうそう。私もまったく同じです。久保さんから「十代の声優をキャスティングしたいから、オーディションに呼んでもいいかな?」と聞かれて。「じゃあ、やってみます」って言ったんです。
川勝:(永瀬)アンナは最初からハック役を受けたの?
永瀬:そう。スタジオオーディションに行ったとき、私よりも先にオーディションを受けている人がたくさんいたんです。しばらくしたらオーディションを受け終わった人が録音ブースから出てきたんですけど、たぶんそこで(川勝)未来とすれ違っているんですよ。
川勝:……そうらしいね。
永瀬:未来とは吹き替え作品で一度一緒に仕事をしたことがあったから、「ああ、あの子だ」って分かったんです。私がオーディションでハック役を演じているときに、(スタッフが先に収録していた)未来の声もいっしょに聞いていたみたいで。もしかしたら声の相性とか関係性みたいなものをスタッフさんは聞いて判断していたのかなと。でも、そのときに何度も何度も演じるように言われて、これは落ちたなって思っていたんです。
川勝:私もオーディションは散々でしたよ!
永瀬:スタジオで後ろ(調音ブース)を振り向いたら、大人の人ばっかりで緊張しまくってこれはまずいぞって思いながらやってたんです。終わってからすごく悔しくなって。なんか、やりきれなかったなという感じしかなくて。
川勝:そう、悔しかった。悔しかったから、立ち去るようにスタジオを出たんです。だから、待ってる人の顔なんて見てなかった(笑)。
――合格して。おふたりは相手役を知ったということですね。
川勝:最初にスタッフさんに「ハック役はどなたなんですか?」って聞いたんです。「永瀬アンナさんです」って聞いて、知ってるぞ、この人って。1回会ったことあるし、同い年じゃんって。
永瀬:それは思った。私も「オーディションに合格しました」と教えてもらったときに「ダブル主演のお相手が川勝未来さんです」って聞いて。あの子だと思って。……あなたです(笑)。
川勝:でも、最初はめっちゃ不安だったんです。アンナはどんな子なんだろうって。
永瀬:ほかの作品の、私が落ちたオーディションで、未来が合格していたことがあったから……。
川勝:その話する!?
永瀬:ちょっと意識するところはあったかも(笑)。
一同:(笑)。
――同世代の声優ならではのライバル感があったんですね(笑)。
ベリィ役を演じたことで、自分自身も変わることができた
――『ユーレイデコ』の舞台は住人が視覚情報デバイス「デコ」を装着している、独特な世界観です。おふたりは、この作品の舞台をどのように受け止めていましたか。
永瀬:最初は割と理解が追い付かなくて(笑)。先進的で突飛な印象があったんです。ただそれをキャラクターを通して見ていったり、掛け合いのお芝居していくうちに、『ユーレイデコ』は、この先にあるかもしれない未来の姿を描いているのかなと。私はそう思いましたよ。
川勝:私も最初はなんかよくわかんないけど、現代よりは楽しそうな世界だなって感じましたし、同時に怖いなって思うところがありました。とくに「らぶ(トムソーヤ島で生活するために必要な評価係数)」って数字じゃないですか。数字でいろんなことが可視化されてる世界だから、数字で全てを判断されてしまうのは怖いですよね。テストの点数みたいにはっきりわかっちゃうから、上下関係が生まれやすそうだし。それが気になったのが第一印象でした。
――おふたりが演じるベリィとハックについてはどんな印象がありましたか。
川勝:収録は大変でした! ベリィは元気な子だし、ストーリーも楽しいから、私自身は楽しくやろうと思っていましたけど、自分に足りないところがたくさんあって。そういうところはかなり頑張ったと思います。
永瀬:そうだね。
川勝:ベリィをやったことで、私自身が人間としても、演じる人としても、突進できるような丈夫さを備えることができたかなと感じました。
――ベリィ役を演じたことで、川勝さん自身にも人間的な成長があったんですね。
川勝:ベリィを演じている時期って、いろいろなものに関心をもつようになったし、いろいろなものがかわいいなって、心が動くようになったんです。それも嬉しかったなって思います。あなた(永瀬)はどうなんですか? (ハックは)奇想天外なキャラでしたけど。
永瀬:設定資料を見ても、全然見たことがないタイプで。よくわからない擬音語で「ガジガジ」とか「ギンギラ」とかって言っていて。でも、それはハックにとって、日常で普通に使う言葉なんですよね。だから、ナチュラルに聞こえるには、どうしたらいいのかって考えました。ハックは自分に有益じゃないと思ったら行動しないタイプで、そういうところを見ると意外に大人の考え方をしているところもあるのかなって。ベリィとハックがいっしょにいると子どもと子どもだけど、ハックのほうが大人っぽい気がしたんです。冷静な考え方もできるし。
――ふたりで掛け合いをしてみて、お相手の印象はどうでしたか。
永瀬:ベリィはこの子(川勝)しかいないんだなって思いました(笑)。第1話の第一声から、スタッフさんはわかっていたんだなって。私がベリィをやるなら、と考えていたことの斜め上をいく演技で。これはすごいと。私も負けないように頑張らなくちゃって思いながら、グイグイ行きました。
川勝:私も同じこと思ってたよ。(永瀬が演じる)ハックは面白かったから、これは私も頑張らなくちゃって思ってた。
永瀬:ふたりで収録していると、すごく楽しかったよね。
川勝:ふたりで落ち着いてできたしね。
――いま、永瀬さんが「川勝さんは第一声からベリィだった」というお話をされていましたが、第1話はかなり練習をして収録に臨まれたということなのでしょうか。
川勝:全体的に「作り込まないで、そのまま素直に自然にやってください」っていう指示があったので、本当に自分が思ったことをそのまま出せるようにしようと、頑張らないで頑張りました。だから、第一声もそのまま、ポンって。
永瀬:スタッフさんからのディレクションは、作り込んでいくんじゃなくて、自然なお芝居のキャッチボールを大切にしているのかなというのがうかがえて。ベリィのお芝居に、いろいろな対応ができたから、とても楽しかったです。
川勝:楽しかった!
――ハックには「バチバチ」や「ジリジリ」など独自の言葉づかいがありますよね。そこはどうアプローチしたんですか?
永瀬:そうですね。とにかく自分がハックになるしかないと思っていました。この擬音はどういうニュアンスなんだろうと自分なりに考えて。私自身もわかっていないものがいくつかありますけど(笑)、ハックだったらどんな気持ちで、この言葉を口に出しちゃうのかなって思いながら、お芝居の流れでポロッと出たものがオンエアに乗っているんです。
川勝:すごい!
一同:笑。
――ライブ感のある現場だったんですね。
川勝:「あまり練習しすぎないようにしてほしい」って言われましたもん。
永瀬:(役を)あんまり作り込まないでほしい、って言われたんです。
川勝:練習しすぎないで、役を演じるってどうしたら良いんだろうと思って、入野(自由)さん(フィン役)に「どうしたらいいんですか?」って聞いたんです。そうしたら「じゃあ、2回だけV(リハーサル用の映像)を見て、そのまま収録に来ればいいんだよ」と言われたから、そっかと思って。それで収録現場に行ったら、めっちゃ怖かった(笑)。でも、なんとか収録できたから良かったなと。
永瀬:入野さんの存在は大きかったよね。収録が終わった後、帰り道で入野さんに「なんでキャラを立たせて、ナチュラルにお芝居ができるんですか」と聞いたんです。そうしたら、「普通の日常で動いているようにするんだよ。転ぶシーンなら実際に転んでみたりするんだよ」と。リアルな動きに、リアルな声がつくからキャラクターが立って見えたり、生きているように見えるんだなって。すごく感動して、次から頑張るぞって思えたんです。
川勝:入野さんがいろいろと教えてくれたから。自分なりのやり方でやってみたりして。『ユーレイデコ』だけでなく、他の作品の現場でも試してみたりして。入野さんと出会えて良かったなと思います。吸収させてもらったなって感じです。
――入野さんの演じるフィンはいかがでしたか。
川勝:もう最高ですよ、最高ですよ。はい。
永瀬:すごい好きだよね。
川勝:フィンは美しいから好きなんです! 美しいから、彼は! 歩く美!
――入野さんとも掛け合うシーンが多かったと思いますが。
川勝:多かったね。
永瀬:たくさんあった。
川勝:入野さんにはご迷惑をたくさんおかけしました。
永瀬:最初はふたりだけで収録を進めていくのかなって思っていたんです。そうしたら入野さんが加わってくれて、ユーレイ探偵団(怪人0と0現象を追う、ユーレイたちによる探偵団)のメンバーや依頼人役の方がどんどん入ってくれて。毎回刺激を受けました。
川勝:そうなんだよ。あの人たちはみんなパッとすごいお芝居をするから。私だって私だってって思うけれど……。
永瀬:大先輩のみなさんは、自分が納得できなかったところを、スタッフさんとお話しするんです。自分の考えをちゃんと述べたうえで、あらためて新しいお芝居をされるので。これは私も見習おうと思いました。
川勝:本当に勉強になりました。いっぱい贈り物をもらってしまった。すばらしい現場でした。
ハック役を演じたことで、役者としての心構えを得ることができた
――この作品はキャラクターの名前も含めて『ハックルベリー・フィンの冒険』や『トム・ソーヤーの冒険』、あと「少年探偵団もの」がモチーフになっています。こういったジュブナイル作品はお好きですか?
永瀬:自分のキャラクターの名前が『ハックルベリー・フィン』から来ているって、そもそも知らなくて。収録している最中にいろいろ調べていたら、その由来を知って。未来と入野さんに伝えに行ったら、ふたりとも気づいていて……。知らなかったの私だけ!? って(笑)
川勝:私も収録の前に、ママから『ハックルベリー・フィン』の話を聞いたの。
永瀬:私、江戸川乱歩さんの「少年探偵団」シリーズがすごい好きで、全巻持ってます! 小6のときに読破して、短編集も電子書籍で読んでます。
川勝:少年探偵団!?
永瀬:超面白いんだよ。小林君が良いんですよ。
川勝:明智小五郎が出ている作品だよね。私も読んでました。
永瀬:私は少年少女たちが活躍する話が好きで、映画だと『スタンド・バイ・ミー』とか『グーニーズ』が好きなんです。やっぱり子どもにしかできない冒険をするというのが、夢があっていいですよね。
川勝:私も『ヒックとドラゴン』が好きでした。大人たちと違う価値観で、子どもたちが自分たちの道を切り開いていくのはすごく希望があって。凝り固まった価値観を壊していくワクワクが好きで。やっぱり世界を変えていくのは子どもたちなのかなって思います。
――きっと『ユーレイデコ』もジュブナイル作品のひとつとしてラインナップされることになりそうですね。
川勝:そうですね。最終回とか……頑張ったよね。
永瀬:最後まで見ていただいた方に、そういうふうに感じてもらえたら嬉しいですね。
川勝:ベリィたちも、私たちも頑張りました。ここで我々も負けていられないぞ、って。
永瀬:みんな頑張りました。
――印象に残っているシーンがあればお聞かせください。
川勝:動くシーンですね。ベリィは走ったりジャンプしたりけっこう動くんです。しかも、そこが異空間(劇中では「超再現空間」)で。自分では体験できないことを、映像の中ではやっているから、想像力を働かせて動いた声を演じていたんです。アドリブですよね。最初に収録に行ったときに、セリフに描かれていないことをたくさんやったので。こんなにたくさん入れていいんだって。そういうところは大変でしたけど、面白かったです。
永瀬:ハックは基本的に元気で明るくて、ぶっきらぼうなところもあるけど、かわいいなって思えるキャラクターなんです。でも、最終話はちょっと違った一面が見えるんですよね。ハックが気づいてないだけで、心の奥底には切なる願いが、気持ちがあったのかなって考えさせられました。そこにベリィがいることで……。
川勝:最終話、良かったよね。
永瀬:良かったよ。ある方といっしょに掛け合いでアフレコしたとき、相手の台詞に心がグッと揺れたんです。今まで体験したことのない感覚で、それに従って自然と台詞を返すことが出来て。もしかしたら、自分の役者としてのスキルや心構えが変わった瞬間だったのかなと。
川勝:まさか、隣でそんなことが起きていたとは(笑)!
永瀬:これからも頑張りますって思いました。
――おふたりは『ユーレイデコ』の舞台であるトムソーヤ島に行ったら、どうしますか。
永瀬:無理……。私、無理だな。
川勝:トムソーヤ島では「デコ」を身体に入れないといけないんでしょ……。義務だもんね……。無理かな。
永瀬:私、ユーレイになります。
川勝:私もユーレイになって、(ミスター)ワトソンに会いに行きたい。だって「デコ」を付けてると、ずっと「らぶ」が数字として表示されるじゃないですか。それがイヤ。自分の「らぶ」の数字も見られたくない。
永瀬:でも、デコレーションできるのはちょっと憧れる。
川勝:それはたしかに! ゲームをプレイするときは、キャラクターのデコレーションとかには時間かけるもんね。美味しそうなもので世界を満たしたい(笑)。
――そんな独特な世界が描かれる『ユーレイデコ』を、視聴者にどのように楽しんでほしいと思いますか。
川勝:私は、ユーレイ探偵団のメンバーを知っていただきたいです。フィンというイケメンもいるし、ネコ好きの方にはミスターワトソンっていう大きなネコがいるよって(笑)。あとは、純粋に絵が柔らかくて、色も美しくて、音楽も良いし、難しいことを考えなくても、楽しめる作品なので楽しんでほしいと思います。
永瀬:『ユーレイデコ』は「目に見えるものだけが本当じゃない」っていうキーワードがあって。見ているだけでもワクワクできるけれど、じっくりみるとさらに面白いものが見えてくるんです。今までに見たことのない世界観になっています。今はたくさんのアニメ作品がありますけど、その中でも個性的な一本になっていると思います。ぜひ楽しんでほしいです。
川勝未来
かわかつ・みら/声優。プロダクション・エース所属。外画、海外ドラマで活躍。TVアニメでは本作『ユーレイデコ』で初主演を務める。
永瀬アンナ
ながせ・あんな/声優。81プロデュース所属。アニメ、吹き替え作品で活躍。TVアニメ『サマータイムレンダ』小舟潮役などを務める。
取材・文=志田英邦
TVアニメユーレイデコ
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