十代の新人声優とともに臨んだ、刺激に満ちた収録とオリジナルアニメへの思い――TVアニメ『ユーレイデコ』入野自由インタビュー

アニメ

更新日:2022/8/26

ユーレイデコ
©ユーレイ探偵団

 現実と仮想空間が重なる情報都市・トムソーヤ島にはユーレイが出る!?

 この島の住人たちは、視覚情報デバイス「デコ」を身に着け、リアルとバーチャルを行き来する生活を営んでいた。そこで島のシステムを揺るがす不思議な事件が起こる。

 この島の少女ベリィは、ユーレイと呼ばれるハックと出会い、ベリィとハック、フィンたちは、システムの外側の存在「ユーレイ」となって「ユーレイ探偵団」を結成し、この世界に起きる不思議な事件の真相を探っていく。この「ユーレイ探偵団」の中心人物がフィンだ。どことなくミステリアスな外見のフィンを演じるのは、入野自由。

 彼はベリィ役を務める川勝未来、ハック役を務める永瀬アンナのふたりとともに収録をして、本作のドラマを作り上げた。十代のころから活躍していた彼にとって、十代の川勝と永瀬のふたりはどう見えたのか。そして、自身にどんな刺激を与えたのか。『ユーレイデコ』の収録現場の模様を語っていただいた。

©ユーレイ探偵団

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参加のきっかけは、サイエンスSARUの作品への興味

――今回、入野自由さんが『ユーレイデコ』にフィン役として参加することになったのはどんなきっかけがあったのでしょうか。

入野:今回はオーディションではなく、フィン役の候補というかたちで企画書をいただいたんです。それを読ませていただいて、これは面白そうだなと思いました。やはり佐藤大さんの脚本で、湯浅政明さんの原案ということが大きかったです。

――企画書を読まれて、この作品にどんな印象を抱かれましたか。

入野:キャラクターデザインや色味、キャラクターの個性を知るたびに惹かれていったという感じですね。いつも、その作品に関わっているスタッフや、作品に惹かれるところ、企画書を読むときは、そういう感覚的な部分で判断して、参加を決めることが多いです。

――視覚情報デバイス「デコ」やその評価係数「らぶ」などのシステムがあり、本作の世界観はとても独特です。こういった世界については、どんな印象でしたか。

入野:10年ぐらい前だったら考えられないような技術が、この数年は自分たちの日常と身近になっていますよね。この作品の世界観も「見たことのない世界」ですけど、きっとこうなるのかもしれないなと感じるところがあるんです。「らぶ」も呼び名こそ違えど、いま僕たちがSNSで身近に使っていることですよね。だから、この作品を見ているとちょっと楽しみな部分と、恐ろしい部分と、想像もつかない部分があって、その間で揺れ動く感じがありました。

――入野さんがご担当されているフィンというキャラクターには、どのような印象をお持ちになりましたか。

入野:最初は、人間味のない不思議な幽霊のような存在だなと思っていたんですけど、そんな存在にどうしたらリアリティをもたらせることができるか、キャラクターじゃなくて「そこにいる、生きている人間」として感じてもらえるのかということを考えていました。収録は大変でしたが、主役のふたり(ベリィ役の川勝未来、ハック役の永瀬アンナ)と絡んでると、フィンの人間味だったり、本質的なところが垣間見えてくる。彼も同じ人間だし、彼の変化が感じられていくのが面白かったです。この『ユーレイデコ』という作品は主人公ふたりの成長物語でもあるんですけど、違う目線で見ると、フィン自身の成長もしっかりと描かれています。

――フィンにどんな過去があって、このキャラクターになったのかが気になりますね。

入野:じつは中盤のエピソードで彼の幼いころの話が描かれるんです。子どものころに何事もなく大人になれたら、彼の能力がいろいろなところに活かすことができて、もっと社交性があって、みんなの人気者になっていたかもしれない。でも、彼はそういう本質的な部分を、自分自身の中に隠すことになった。それを表に出していない。見た目には何もないように見えるけど、中には何かがある。もちろん、あらかじめ全部説明をしていただいたわけではないので、自分なりに解釈しつつ。その引き裂かれている部分を、キャラクターの中でどんどん大きくしていく作業が大事でした。

ユーレイデコ

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十代の新人声優とともに臨んだ、刺激に満ちた収録現場

――主人公のコンビ・ベリィとハックにはどんな印象をお持ちでしたか。

入野:彼女たちがいたからこそ物語が動くし、それぞれの役割がすごくはっきりしていて、主役然としたふたりはとても魅力的でした。ベリィとハックの声を担当していたふたりにも重なる部分があって。いっしょに収録をしていて、応援したくなりましたし、ともに旅をしているような感覚がありました。いっしょに旅をする仲間というか、家族のような。そんな気持ちがあったような気がします。

――川勝さん永瀬さんはお二方とも十代の新人声優です。おふたりとごいっしょした収録現場はいかがでしたか。

入野:収録現場は楽しかったですね。彼女たちのために時間をかけて、じっくりと録っていった現場でした。彼女たちが収録現場で向き合っている迷いや悩みには、僕自身もとても共感できるんです。やりたい方向性はわかっているのに、上手くできない苦しみやモヤモヤとした悩みに彼女たちはぶつかっていて。それがベリィやハックといったキャラクターと重なる部分や、キャラクターに影響する部分があった。内容やかたちは違えど、本質はつながっているようなところがありました。そんなふたりを見ていると、とても刺激的だったし、面白かったですね。振り返ってみれば、自分も十代のころに、収録現場で先輩からいろいろと教えてもらったり、見守ってもらったりしていたんです。そういう過去の自分と重なり、懐かしい気持ちになりました。

――ときには、おふたりにアドバイスされたこともあったそうですね。

入野:役柄を演じるうえで、こうしなきゃいけないということはないと思うし、何かに縛られることはないと思う。もし自分に何か思うところがあっても、押し付けちゃいけない。そうやって見守っていくところはワクワクしましたし、彼女たちからどんなものが出てくるのか楽しみでした。

――川勝さんと永瀬さんには、キャラクターをあまり作り込まないように指示があったそうですね。そのために「あまり練習しすぎないようにしてほしい」と。

入野:そうですね。そのときは、最低限のチェックだけをして、その収録の場で出たものやそのときに感じた感覚的なものを重視してみたらという話をしたんです。成功することも失敗することも含めて、今しかできないチャレンジですから、大変だと思うけれど、やってみてほしいという気持ちでした。

ユーレイデコ

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オリジナルアニメへの思いと、参加する醍醐味

――この作品はキャラクターの名前も含めて『ハックルベリー・フィンの冒険』や『トム・ソーヤーの冒険』、あと「少年探偵団もの」がモチーフになっています。こういったジュブナイル作品はお好きですか?

入野:子どものときに本をいろいろ読んでいる中で、印象に残っているものは『かいぞくポケット』(寺村輝夫:著)というシリーズですね。すごく好きで、図書館に行って、何冊も借りて読んでいました。あと『カッレくんの冒険』という海外で人気のシリーズ(アストリッド・リンドグレーン:著/「カッレくん」シリーズ)があって。それはもうちょっと現実的な内容なんですが、とても好きでした。今でもそれは持っています。

――いろいろお読みになっていたんですね。

入野:僕はひとりっ子で、自分の頭の中で想像して遊ぶのが好きだったので、学校に通う通学路や児童劇団に行くまでの路線で、本を読んだり、いろいろなことを頭の中でシミュレーションしたりしていたんです。今でもその場所を見ると、自分はこんなことしていたなあと思い出しますね。

――『ユーレイデコ』は現在オンエアされています。完成した映像をご覧になって、どんなご感想を抱かれましたか。

入野:未来はこういう世界かもしれないって思ったときに、つながることで生まれる問題意識だったり、いろいろな人の感情だったりが、ユーレイ探偵団の活動の中で見えてくるのがとても面白いなと思いました。

 オリジナルアニメを作ることは昨今ではなかなか難しいところがあるとは思うんです。でも、僕自身はずっとオリジナルアニメがもっと作られてほしいと思ってきました。そして、それに参加して、その力になりたいと思ってきたんです。今回の『ユーレイデコ』は今までにあったものや、今までになかったものを精査して、丁寧に作られている作品です。新しくて独特な世界観でも自然に見られるし、目で見て楽しくて、音楽を聴いても美しい。そういう多彩な魅力がすごく詰まった作品になっています。細かいところへのこだわりもいっぱいあると思うので、ぜひ見つけてほしいなと思います。

――最後に、入野さんにとって、『ユーレイデコ』に関わって刺激になったことがあればお聞かせください。

入野:それはもう、主演のふたりといっしょに収録ができたことです。もちろん、ふたりだけでなく、今回いっしょに収録をしていたみなさんは本当にすばらしくて。出会えたことに感謝していますし、自分自身にとっての刺激になりました。フィンのような役柄を久しくやっていなかったこともあって、ただミステリアスにするのではなくて、そこにちゃんとひとりの人間としての中身を入れていくというチャレンジができたことも、とても楽しいことでした。フレッシュなふたりとそのチャレンジができたことで、自分としても役との向き合い方にあらためて気づくきっかけになりました。

入野自由
いりの・みゆ/声優、俳優、アーティスト。ジャンクション所属。映画『千と千尋の神隠し』のハク役で注目を集め、アニメ『パラッパラッパー』の(初代)パラッパ役で初主演、ゲーム『キングダム ハーツ』でソラ役を演じる。近年は『プラチナエンド』架橋明日役、『平家物語』平維盛役、映画『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』Dr.ヘド役、「おそ松さん」シリーズ・松野トド松役を演じる。他に、アーティスト、舞台やTVドラマへの出演など多彩に活躍している。

取材・文=志田英邦

TVアニメユーレイデコ
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