宮木あや子、オカモトショウ(OKAMOTO’S)、古田新太…『ONE PIECE』を愛するものたちの宴【寄稿】

アニメ

更新日:2022/8/15

 クリエーターやアーティストの間にも、『ONE PIECE』ファンは数多い。彼らが愛するキャラクターとは? 彼らを夢中にさせる『ONE PIECE』の完璧な世界観とは? 7人の作家、アーティスト、俳優、YouTuberが、創作者だからこそわかる『ONE PIECE』の魅力を、寄稿とインタビューで語り尽くす。

取材・文・構成=松井美緒

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私を蝋人形にしてもらおうか ── 宮木あや子

宮木あや子さん

 どうして『ONE PIECE』が好きなの? という問いに「面白いから」以外の答えがあるのだろうか。

『ONE PIECE』のメインキャラクターのほとんどは海賊王になりたい、もしくはなりたい人の仲間や協力者である。そして作中で私が一番好きな場面と台詞は、海賊王を目指すにふさわしい胆力・実力に基づいた船長と船員の、

「そげキング、あの旗撃ち抜け」
「了解!!」

 これだ。思い出すだけでかっこよさに震える。しかし私には、相対的に見て決してかっこよくはないし、どう考えても海賊王を目指してないし今後も目指さないと思うが、ずっと愛し続けている人がいる。その名は「Mr.3」ことギャルディーノだガネ。

 最初は敵だったため、当時は「ねちっこいイヤなやつ!」と嫌悪感を抱いていた。だがインペルダウン編→マリンフォード編で再びまみえたMr.3の、瞬間的なデキる男のかっこよさは、私のリア恋の旗を撃ち抜いた。

 彼は永遠に一番にならない人だ。バロックワークスでは三番手、その後バギー船長の船でキャリアを積んでいったとしても、彼は自分の海賊団を作ろうとはしないだろう。個人的に彼の一番の名言は「今の内に行け!! 私の諦めは早いぞ!!!」だし、そもそも髪型があからさまに「3」だ。全身全霊で彼は己のポジションが「3」であることを誇っている。

 大人になった読者/視聴者は、叶わなかった夢や希望を麦わらの一味に託す。そういう大人の多くは私も含めて、みんな少なからずギャルディーノだ。姑息で、諦めが早くて、組織の中で苦労してて、責任は負いたくないけど美味しい思いはしたい。そんなギャルディーノにも死ぬほどかっこいい瞬間がある。ルフィじゃなくてもみんなかっこいいんだよ、と人生を肯定してくれる『ONE PIECE』が大好きだ。

 ……「面白いから」以外の答えもありましたね。

愛するキャラクター

■トニートニー・チョッパー
声も見た目も言動もひたすら可愛い。「チョッパーマスク」の再臨を心待ちにしています。

■ペローナ
声もお顔もお洋服もひたすら可愛いのに「ガビーン!」のお顔がヤバすぎていつ見ても笑う。またミホークと一緒の画を見たいです。

宮木あや子
みやぎ・あやこ●1976年、神奈川県生れ。2006年『花宵道中』で女による女のためのR-18文学賞大賞と読者賞を受賞しデビュー。主な著書に「校閲ガール」シリーズ、『CAボーイ』『手のひらの楽園』など。

 

『ONE PIECE』が日本の文化を支える ── オカモトショウ(OKAMOTO’S)

オカモトショウさん

 25年間トップを走り続けるって、マンガの歴史の中でも驚異的ですよね。僕は、7歳のときにアニメで『ONE PIECE』を第1話から観始めて、中高時代からはずっと雑誌で連載を追いかけています。

 僕、“宴”が『ONE PIECE』の肝なんじゃないかと思ってるんです。敵を倒した後、ルフィたちは必ず宴をやるじゃないですか。ご馳走食べてお祭り騒ぎして。何が起こるというわけでもないんですが、毎回楽しそう、みんな嬉しそう。彼らの宴って、すごく“打ち上げ”的だなと思うんです。「お疲れ様でしたー!」みたいな感じ。これ、日本独特の文化じゃないでしょうか。ほかのアジアの国はわからないけど、欧米にはないですから。『ONE PIECE』には、今でも必ずこの打ち上げ的なターンがあって、面白いなあと思うんです。

 音楽を作る上で、マンガ、そして『ONE PIECE』にはすごく励まされます。マンガは、日本の文化のリテラシーを引き上げていると思います。週刊マンガ誌を読んでいるとよくわかるんだけど、ただ売れようと思って作ったものって読者にバレて、すぐ終わってしまう。マンガは本当に面白いものが売れるんですよね。そして、大メジャーの『ONE PIECE』がちゃんと面白い。メジャーが強いと、サブカルもアンダーグラウンドも盛り上がるんです。『ONE PIECE』が面白いと、どんどん面白いマンガが生まれる。いいものが評価されて売れる、音楽もきっとそうだって勇気がもらえるし、自分も頑張ろうと思えます。

 連載は最終章ですが、いよいよワンピースとかジョイボーイとか伏線が回収され始めています。すべての謎が明らかになったら、どれだけ快感かと思います。いやあ、ほんとリアルタイムで読むべきですよねえ。

愛するキャラクター

■光月モモの助
週刊連載で追いかけてる自分としては、ワノ国編のラストは感動しました。モモの助の背負ってきたものの大きさを思うと、鳥肌が立ちました。

オカモトショウ(OKAMOTO’S)
おかもと・しょう●1990年、米国ニューヨーク州出身。OKAMOTO’Sのボーカル、ギター。Real Soundで「月刊オカモトショウ」連載中。2022年9月27日よりOKAMOTO’S対バンツアー「OKAMOTO’S tourw/2022~ウェルカム マイ フレンズ~」を開催。

 

“残された人”が気になるストーリー ── 古田新太

古田新太さん

 アニメ『ワンピース“3D2Y”エースの死を越えて!ルフィ仲間との誓い』にバーンディ・ワールド役で出演させていただいたのは、すごくいい思い出です。ルフィのゴムゴムの銃乱打を受けたのは、どこに行っても自慢しています。声優のお仕事は大好きで、オイラがやってるってばれたくないんです。キャラを演じればそうならないと思うから。『3D2Y』では、『ONE PIECE』好きの人に「あれ古田さんだったんですか!」って言われたのは嬉しかった。

 最近ドラマでウソップ役の山口勝平さんとお会いしたんです。オイラ、ルフィの義兄弟スカジャン持ってて、それにサインとウソップって書いていただきました。勝平さんから、「TVアニメにレギュラー出演してください」と言ってくださって。もちろん望むところですが、今からオイラの入る隙間があるのか(笑)?

 グッズ、ほかにもたくさん持ってるんです。エースも好きだから、エースのスカジャンと傘。海軍のコートと帽子、ウソップのTシャツも。フランキーのフィギュアも集めています。『ONE PIECE』の魅力は、“残された人”のことが気になるところかな。フランキー一家やウソップ海賊団、麦わら大船団のキャベンディッシュやバルトロメオはどうなったんだろうとか。で、それがあとで小出しにされるでしょ。扉絵にも出てきたりして。それがファンには嬉しい。

 原作の最終章では様々な伏線が回収されるでしょうから、夢が膨らみますね。ブルックとラブーンどうなるんだろうとか。しつこいですけど、キャベンディッシュとバルトロメオ、また出てきてほしいです(笑)。映画『ONE PIECE FILM RED』では、シャンクスの物語がどれくらい明かされるのか気になっています。

愛するキャラクター

■フランキー
船大工かっこいいし、オイラはロボが好きだから。フランキー将軍造れるし最強だなと。フランキー一家にもアニキと呼ばれて慕われていていいですよね。

古田新太
ふるた・あらた●1965年、兵庫県出身。劇団☆新感線所属。2021年、映画『空白』で日本映画批評家大賞などの主演男優賞受賞。9月より、劇団☆新感線42周年興行・秋公演 SHINKANSEN☆RX『薔薇とサムライ2-海賊女王の帰還-』が控える。

 

「死」の描き方 ── 中村文則

中村文則さん

 何重もの伏線が重なり合う壮絶なプロット。キャラの立ち方。細部の充実。絵柄。構図。セリフの強さ。魅力は無数にあります。僕はこれまで様々な媒体で『ONE PIECE』について書いているので、ここでは、最近ふと気づいたことを書いてみます。

『ONE PIECE』では、「死」の描き方に特徴があると感じています。メガヒット漫画であるのに、「死」に生き返りや輪廻の生まれ変わり、やり直しを用いず、甘味も与えないのです。

「死」をしっかり、厳粛に描き切っている。ここまでのメガヒット漫画で、しかもファンタジーの要素も用いている中で、これは珍しいのではないでしょうか。

 悲しみを、しっかり悲しみとして受け止めるということ。人の命はいつか終わるけど、意志や想いは、受け継がれていくという世界観。

 正直なところ、連載を終わって欲しくないです。どれだけ休んで頂いてもいいので、ゆっくり、長くやって頂きたいなと思う。終わっても、『ONE PIECE』の別エピソードや、外伝を読みたい。と言いながら、尾田さんの新作も読んでみたい。

 だから、たとえば麦わらの一味と同じ数、尾田さんが10人に分裂して増えればいいのではないかと思う。あれほどの漫画を描くのは既に人智を超えているので、きっと分身の術もできるはず。

愛するキャラクター

■ニコ・ロビン
影があるところが魅力的です。影があるというのは、優しさと同じ意味です。ロビンさんに限らず、麦わらの一味はみな過去に色々なことがあり、だから人の痛みがわかるし、だから優しい。

中村文則
なかむら・ふみのり●1977年、愛知県生まれ。2002年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。04年『遮光』で野間文芸新人賞、05年『土の中の子供』で芥川賞、10年『掏摸(スリ)』で大江健三郎賞受賞など。

 

自分の物語を愛するかっこよさ ── 鈴木おさむ

鈴木おさむさん

 劇場版第12作『ONE PIECE FILM Z』の脚本を担当しました。これに登場する元海軍大将・ゼットの名前は、尾田さんからは「とにかく強そうな名前を!」と、スタッフさんからは「動物の名前とか……」と言われていたんですが、僕はほかにない名前にしようと。

 アルファベットのZにしたのは、響きのかっこよさもありますが、敵を最後まで追いつめるからZ!という意味なんですよね。

 当時、実はタイトルは違っていたんです。でも、ゼットの名前が決まってしばらくして、スタッフを通して尾田さんから、「ONE PIECE FILM Z」と書いた紙が送られてきました。それを見たときには、鳥肌立ちました。

 ストーリーについても、本編と切り離したものと言われていたんです。僕が尾田さんに、「絶対、本編とつながる物語がいいです。僕はファンなんで、それが観たいです」と熱く語ったら、「わかりました! そうしましょう」と言ってくれました。

 その際尾田さんが、脚本を書くのに必要でしょうからと、「このあと、どんな物語になるかちょっと話しますね」と先の展開を教えてくれました。ファンとしては聞きたくなかったですが、聞くしかない。頭の中にある『ONE PIECE』を語る尾田さんは、本当に少年のように楽しそうでした。

 自分の作った物語をそんなにも楽しそうに話す!! できそうでできない! かっこいいなと思いました。あのときから、あの姿勢、盗ませていただきました!

愛するキャラクター

■モンキー・D・ルフィ
ぶっちぎりでルフィです。主役かよと思うかもしれませんが、マンガって長年たつと、どうしてもサブキャラのほうが人気が出たり、主役よりもサブキャラの活躍が多くなってきます。『ONE PIECE』の場合は結局最終的にルフィの話になる。しかもまあまあ負けてそのあと成長していく。主役がこれだけ負けて成長していく物語。ありそうでないんですよね……。結局ルフィが一番ドキドキさせてくれる。だからルフィ!!! ちなみに次点はクロコダイルとエネルです。

鈴木おさむ
すずき・おさむ●1972年、千葉県生まれ。19歳で放送作家デビュー。多くのヒット番組の構成を担当。映画『ONE PIECE FILM Z』の脚本を手がける。映画・ドラマの脚本、舞台の作演出、小説執筆など幅広く活躍。

 

世界を一から作る凄まじさ ── 武田綾乃

武田綾乃さん

 初めて『ONE PIECE』を読んだのは、小学生の時だった。『ロード・オブ・ザ・リング』や『ナルニア国物語』といったファンタジー文学が好きだった私は、『ONE PIECE』の世界に夢中になった。ルフィ達の愉快な掛け合い。未知の世界を冒険するワクワク感。人と人、過去と未来が繋がっていく壮大な世界観。そのどれもが魅力的で、読み進めるうちに何度も胸を躍らせた。

 ファンタジーでは、世界のルールを全て作者が定めることができる(定めなければならないともいう)。現実世界を舞台にしたものであれば重力や気候、文化など、ただあるがままに書けばいい。だが、ファンタジーではそうはいかない。私が『ONE PIECE』を読む度に感心するのがそうした世界の作り込みの細かさだ。食べ物や暮らし、文化がコマの隅々まで滲み出ている。

 島そのもので見ると、空島や魚人島が好きだ。地上で暮らす人間には想像もできないような世界が広がっていて興味深い。食べ物に関してだと、ウォーターセブン編に登場する水水肉が一番気になっている。『ONE PIECE』の世界には味が全く想像できない食べ物も多く、そうしたところからも各地の文化が窺い知れて面白い。

 それとは違って、土着の文化は出てこないけれど雰囲気が好きなのがスリラーバーク編のゴースト島だ。ヨミヨミの実の能力者である紳士なガイコツ、ブルックもここで登場する。

 五十年前、海賊をしていたブルックは、グランドラインの入り口に位置する双子岬でクジラのラブーンと「必ず戻って来る」と約束した。しかしルンバー海賊団は全滅し、ヨミヨミの実を食べたブルックだけが生き残ってしまう。

 団員達が力尽きようとしている中、ラブーンに届けるために力を振り絞って明るく合唱するシーンは何度読んでも泣いてしまう。ルフィ達にも譲れないものがあるように、この海に冒険する数多の海賊団一つ一つに美学があるのだろう。そうした人々の生き様を自然と感じられるところが、この物語の大きな魅力のように思う。

愛するキャラクター

■ブルック
ブルックが好きです。骨だから! というのは勿論、辛い過去を感じさせない陽気な振る舞いにグッとくるからです。音楽(娯楽)は生きる為に不可欠ではないけれど、その存在によって孤独に耐えられる時がある。それを体現する人だと思っています。

武田綾乃
たけだ・あやの●1992年、京都府生まれ。2013年『今日、きみと息をする。』でデビュー。『響け! ユーフォニアム』はTVアニメ化されヒットシリーズに。21年、『愛されなくても別に』で吉川英治文学新人賞受賞。

 

子どもの心を持ち続けて ── シルクロード(フィッシャーズ)

シルクロードさん

『ONE PIECE』の魅力は、まず伏線の多さだと思います。例えばロジャー。公開処刑される間際に、副船長だったレイリーに「おれは死なねェぜ……? 相棒…」

 って言うんです。その意味するところが、まだまったくわかってないんですよ。しかも彼はニカって笑ってる。『ONE PIECE』の重要人物って、死ぬときみんな笑うじゃないですか、光月おでん然り。いろいろな点で、とても深いセリフですよね。これからその真意が明かされていくんじゃないでしょうか。

『ONE PIECE』って、どんな小さなキャラクターも個性が光っていて、すべてのコマに意味がありますよね。こんなに一コマ一コマが見逃せないマンガ、ほかにないと思います。キャラクター一人一人、表現一つ一つを深く読み込むほど、それらがつながって、物語が進むほどに大きな楽しみが待っている。ものすごく味わい深いマンガです。

 フィッシャーズのYouTubeの企画で、尾田栄一郎さんのお宅にお邪魔したことがあるんです。入った瞬間にわかったのが、尾田さんって本当に遊びが大好きなんだなということ。子どもの頃、きっといろんなことに興味があったんだろうなって。動物とか伝説上の生き物とか、ずっといろんな図鑑を見て、たくさんの絵を描いていたんじゃないかなあと。僕もそうだったから、似てるなんて恐れ多いですけど、嬉しかったですね。大人になっても子どもの心を持ち続けていいし、マンガを描く上でもYouTubeをやる上でも、その子どもの心が大切なんじゃないかと、尾田さんの家を見て改めて実感しました。

 連載は、ついに最終章に入りました。いろんな考察をする人たちがいると思いますが、尾田さんは絶対にその数段上をいくんでしょう。もうただ楽しみです。

愛するキャラクター

■ゴール・D・ロジャー
物語の始まりであり、圧倒的カリスマ性があります。ロジャーが海賊王になったことに大きな意味があって、物語の面白さの一つもそこにあると思います。

シルクロード
しるくろーど●1994年、東京都生まれ。2010年、YouTuberのフィッシャーズを結成し、リーダーを務める。19年、劇場版『ONE PIECE STAMPEDE』で、フィッシャーズ海賊団の本人役を演じる。