世界一売れたゲーム「マイクラ」が本格児童文学に!『マインクラフト ドラゴンと魔女』

文芸・カルチャー

公開日:2022/8/4

マインクラフト ドラゴンと魔女
マインクラフト ドラゴンと魔女』(ニッキー・ドレイデン:作、北川由子:訳/竹書房)

 ブロックを配置し自由に建築を行い、世界を冒険し、バトルも楽しめるゲームが「Minecraft(マインクラフト)」、通称マイクラだ。その魅力は世界中の子どもからゲーム好きの大人たちまで虜(とりこ)にしている。2019年には累計売り上げ本数が1億7600万本を超え“世界一売れたゲーム”になったと発表された。今もなお多くのユーザーが楽しみ続けているマイクラ。実はその公式小説があることをご存じだろうか。

 既刊が8冊発売されており、今回シリーズ最新刊となる第9弾が『マインクラフト ドラゴンと魔女』(ニッキー・ドレイデン:作、北川由子:訳/竹書房)である。

 マイクラの世界を冒険する本格的な児童小説で、ゲームを知っている人なら楽しめることは間違いない。もしあなたの子どもがマイクラに時間を使い過ぎて本を読まないようならプレゼントしてみてほしい。この本を手にしたら、思わずページをめくりたくなるはずだ。

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世界一売れたクリエイティブゲーム「Minecraft」

「Minecraft」は仮想空間のなかで建築やものづくり、冒険やバトルが楽しめるゲーム。マイン(=mine)が鉱山、クラフト(=craft)が手仕事・手作業を意味している。この世界はすべてブロックで成り立っており、プレイヤーはそのブロックを組み合わせて“クリエイティブ”を楽しむのだ。

 2009年に発売されるとPC版をはじめ、スマホ・タブレット版、Xbox、PlayStation 4やNintendo Switchなど家庭用ゲーム機版も登場。今や世界的な大ヒットゲームになった。

 プレイを見ているだけでも楽しく、有名ゲーム動画配信者たちも、のきなみ「マイクラ動画」をUPしている。なおブロックには、センサーとなるブロックや回路を作成するためのブロックがあり、これらを組み合わせることで敵を攻撃する「装置」も作ることができる。電子回路やプログラミングの基礎を学ぶことができるということで、欧米では学習教材としても評価されており、最近はマイクラを教材にした子ども向けプログラム教室も増えているのだ。ちなみに本稿のライターの子どもも自ら望んで体験教室に参加している。ただ参加枠がすぐに満員になるほど人気だ。

「ポーション」を作って「エンダードラゴン」とともに戦う少女と仲間の物語

 そんな「Minecraft」好きな世界の子どもたちに向けて書かれているのが、この公式小説シリーズだ。マイクラ好きなら理解できる用語やゲームキャラクターたちとともに、あの仮想世界で繰り広げられる冒険の物語。この最新第9弾が『マインクラフト ドラゴンと魔女』である。

 砂漠の町で暮らす少女・ゼタは、「ポーション」作りが大好きな少女。「ポーション」とは魔法のような効力をもつ薬のことで、ゼタは自己流で研鑽(けんさん)を続けていた。

 ある日、町は襲撃者グループに襲われる。何とかゼタの活躍もあって撃退したものの、父親をはじめ、町の人々は「ポーション」や、道具に魔法をかける「エンチャント」のような不思議な力をなぜか嫌い、まるで協力してくれない。

 そんななかゼタは友達のふたご・リフト&レイン、そしていとこのアシュトンとともに、再度の襲来に備えようとする。そして彼女自身は強力な「ポーション」を作るために、メリルおばさんの弟子になろうとするが、そこで偶然「エンダードラゴン」の卵をかえしてしまい…?

 ゼタたちは町を守れるのだろうか? さまざまな挫折や困難に立ち向かっていく子どもたちの勇気が描かれていく。

マイクラ公式小説であり、子どもがぐっとくる本格的な王道児童文学!

「ポーション」「エンチャント」そして「エンダードラゴン」は、マイクラ好きなら思わず反応するキーワードだ(他にもさまざまなマイクラ用語が何の説明もなく登場する)。

 ただ、本作の魅力はマイクラ小説としてのものだけではない。そこまでマイクラをやらない私が読んで感じたのは、“子どもの成長がじっくりと描かれていくのが心地よい”ということだ。

 その“成長”は単に「ポーション」使いの能力が高まっていく過程というわけではない。子どものころによくある、自分のやりたいこと、やりたくないことのために小さな嘘を重ねていたゼタが、町を救うために正直に生き、大人たちの信頼を得て重要な目的を達成していくのだ。ストーリーを読み進めるほどにワクワクし、懐かしい王道の児童文学だと感じられた。同年代の子どもが読めばきっと、気持ちいいカタルシスを得られるだろう。

 最後に「訳者あとがき」には本文とマイクラのゲーム設定との対比が細かく書かれており、マイクラ好きにはこたえられない。もしマイクラユーザーの子どもに本作をすすめても、読み始めない場合、このあとがきを先に読ませるといいかもしれない。

文=古林恭