寺島惇太「拝啓、日陰から」⑩陰キャと失敗談
公開日:2022/8/6
人とのコミュニケーションにおいて大切なのは、「相手の話に耳を傾けること」ですよね。コミュニケーションがあまり得意ではない陰キャのぼくにだって、それくらいはわかります。でも、好きな話、興味がある話と、嫌いな話、興味のない話というものは誰にだって存在するもの。そして、自分にとってあまり興味がない話をされると、どうしたって集中できなくなっちゃいます。
じゃあ僕が好きな話とは何だと思いますか?
それは、「他人の失敗談」です!
なんかこう書くと、僕がめちゃくちゃ性格の悪い奴だと思われそうで心配になりますが、決してそうではありません。
仮にいま、あなたに何か目標があったとします。そして、目の前には一足先にそれを叶えた人がいる。そうしたら、あなたはどうしますか? もしかすると、その人にどうやって目標を叶えたのか、いわゆる「成功談」を聞こうとしませんか?
でも、成功というのは運に左右されるもの。たまたま、という可能性も多い。だから他人の成功談を聞いても、再現性がないんです。
一方、失敗談は再現性が高い。同じことをすれば高確率で失敗してしまうもの。だからこそ僕は、他人の失敗談を聞き、同じ失敗を繰り返さないよう、心がけるようにしています。
そういう話を聞いているときの僕は、本当にキラキラしていると思います。「こりゃ面白いな」と思いながら、ときには笑いながら、頷いている。だからきっと、僕は「他人の失敗談を聞いて笑い出す、性格の悪い陰キャ」だと思われているはずです。本当の狙いは「参考にしたいから」であって、「笑いたいから」ではないのです!本当ですよ?
ちなみに、数々の失敗談から学んだ「声優として生きる上で大切なこと」がひとつあります。それは自身が参加した作品やコンテンツへのリスペクトを欠いた言動や行動をしないということです。
たとえばCVを任せて貰ってるキャラクターの声でキャラにそぐわない変なアドリブを入れたりすると、そのキャラを心から愛しているファンの人たちが、「なんで真面目に演じないんだろう…」「そのキャラはそんなこと言わないのに…」とショックを受けてしまう。そんなファン心理、僕にはめちゃくちゃわかるんです。だって僕自身がオタクだったから。キャラの声を使って、声優が好き勝手やりだしてしまったら、やっぱりショックは大きいと思います。だから僕は、そういうことはなるべくしないようにと自分を戒めているんです。
でもこういう話をすると『それは気にしすぎなんじゃない?』と言われることがたまにあります。
わかってます。わかってますとも。
でもいいんです。だってそれが陰キャですから!
私生活も仕事もファッションも飲み会も上下関係もSNSも全部気にしすぎちゃうのが陰キャです。もしかしたらその性質のせいで損をすることもあるかもしれません。今までの僕のコラムを読んでいただいた方は『こいつ面倒くさいやつだな』と感じていることでしょう。
しかし考えすぎるからこそ回避できたりするトラブルや炎上もたくさんあるはずです。日陰に生息している我々陰キャは陽の光や熱に弱いのです。
そんな我々がネットで炎上して世間の注目が集まったりしたらその熱で魂まで焼かれてしまいます。そうならない為に気にしすぎる程気にして、恐る恐る辛うじて片足だけ陽だまりに伸ばしてこれからも活動していくのです。バスケットのピボットのようにあくまでも本体は日陰に残して……。
というわけで、全10回のこの連載をここまで読んで頂きありがとうございました。
陽キャの皆様、明日からもどうか御手柔らかに。
そして、陰キャの皆様、どうにか生き延びましょう。
また皆様に日陰からの景色を綴れる機会があることを願って。
拝啓、日陰から。
寺島惇太
【著者プロフィール】
てらしま・じゅんた●1988年8月11日、長野県生まれ。2009年に声優デビュー。『アニメガタリズ』『TSUKIPRO THE ANIMATION』『アイドルマスター SideM』『KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-』『A3!』といったテレビアニメを中心に活動する他、ゲームやドラマCD、映画の吹き替えなどでも活躍。また、2019年には『29+1 -MISo-』でアーティストデビューも果たす。2021年12月には3rdミニアルバムも発売。
公式Twitter:https://twitter.com/juntaterashima3
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構成協力=五十嵐 大