外で読むのはあまりにも危険…!頭空っぽで楽しめる爆笑必至の朝井リョウ最新エッセイ集
公開日:2022/8/8
難しいことは何も考えずにくだらないことでただひたすら笑っていたい。そんな気分の時に読んでほしいのが、直木賞作家・朝井リョウさんのエッセイ『そして誰もゆとらなくなった』(文藝春秋)だ。シリーズ累計20万部目前の『時をかけるゆとり』『風と共にゆとりぬ』に続く第三弾にして完結編となるこのエッセイ集は、楽しい読書をしたい人にこそ読んでほしい1冊だ。
朝井さんといえば、2020年に、作家デビュー10周年を迎えた大人気作家だ。それなのに、彼が綴る日常はとにかく残念。すべてが他力本願の引っ越し。世の中的に「しておくべき」と言われていることをしていないのが不安だという理由で出かけたマチュピチュ・ウユニ湖旅行。クリスマスの時期にホールケーキを5つ食べた結果、指摘された身体の異常。「熱烈に準備をしてしまう」癖のせいで空回りし、サイン会でファンから浴びせかけられた怪訝な視線…。この本を外で読むのはあまりにも危険だ。朝井さんの残念なエピソードに時に同情、時に共感しつつも、幾度となく噴き出してしまう。
「私の人生の時間の大半は『腹ぶっ壊れ小噺(こばなし)』に占領されている」との言葉の通り、今までのエッセイでも幾度となく触れられてきたが、朝井さんの弱すぎるお腹が巻き起こすトラブルは特に強烈だ。たとえば、アメリカ旅行でのエピソード。旅行前、同行予定の友人たちに朝井さんは「トイレ税」と称して、今回の旅費を自分が少し多く支払うと宣言する。
「私と長時間行動を共にするということは、私のトイレトラブルに幾度となく振り回される未来が確定したということでもあります。旅の行程がストップする回数や時間は、今あなたが想像したものの数倍、数十倍です。そんなの気にしないよ、という振る舞いをしてくれたとて、気になるに決まってんだろ!!! というレベルで私はあなたたちに迷惑をかけ続けます。それは約束された未来なんです」
友人たちは渋々朝井さんが「トイレ税」を納めることを了承してくれたのだというが、朝井さん自身、いくらリスクヘッジのためとはいえ金銭で友情の安定を図るような真似はよくないのではと逡巡したそうだ。だが、結局、アメリカ旅行では、「トイレ税」を納税しといてよかったと痛感させられる出来事が発生してしまう。どんなトラブルが起きたか、その顛末はぜひとも本書を読んでほしい。もしかしたら、高い倫理観を持っている読者は眉をひそめるかもしれない。だが、「またそんな汚い話して…」と思いながらも、軽快な語り口に笑いをおさえることができない人の方が多いのではないだろうか。何だろう、ちょっぴり悔しい。こんなエピソードに思わず笑ってしまうことが悔しくて悔しくてたまらない。
「私の人生を見下ろしている神様は、オメーの人生そんなはずねえからな、と、本当に絶妙なタイミングで釘を刺してくる」
朝井さんは失敗続きの自身の日々をそう表現するが、本当に何とも言えないタイミングで朝井さんはトラブルに巻き込まれる。その様子は爆笑必至。頭を空っぽにしたい時に、これほど最適な本は他にはないだろう。ただただ笑って、読み終えれば、気分はすっかり晴れ模様。何も考えたくない気分の時、この爽快な読書体験をぜひともあなたも味わってみてほしい。
文=アサトーミナミ