クールなスケバンと天然転校生の間に生まれる感情は友情? それとも……80年代テイスト満載のガールズ・ラブ(?)コメディ『スケバンと転校生』
更新日:2022/8/3
一匹狼のクールなスケバン・南雲あつ子と、天真爛漫でちょっぴり天然の転校生・神崎凛々。まるで接点のなさそうな2人だけれど、凛々のある「お願い」によって、ひそかにつながっていた。やがて生まれる不可思議な感情。これは友情なのか、それとも……。
『スケバン刑事』『花のあすか組!』などの名作“スケバンマンガ”には、魅力的な不良少女たちが登場する。強く、美しく――さりとて自分の美しさを武器にはしない潔癖さがあり――ひたむきで仁義に厚く、そしてやさしい。異性はもちろん、それ以上に同性の目を惹きつけずにはおけない魅力を放っている。
本作品のあつ子も、そんな往年のスケバンたちの精神性を受け継いでいるキャラクターだ。
“閻魔も逃げ出す歩く地獄”“億人殺しのアツコ”の異名を持ち、かといって徒党は組まず舎弟もとらず、学校にもそれなりにまじめに通っているあつ子。ヤキを入れるときは徹底して容赦なく、それでいて人知れず猫を抱き上げて、はにかんだ笑顔を見せたりもする。
そのギャップに凛々は「ずっきゅーん」ときてしまった。
この胸のときめきが何なのかも分からないまま、凛々はあつ子に「かわいい言葉を言って!」と猛プッシュをかける。そして、そんな言葉を口にする際のあつ子の含羞混じりの顔を見るたび凛々の心はどきどきする。いつもカッコいいあつ子が、このときばかりはたまらなく、かわいくなるから。
一方で、嬉しそうな凛々の表情に、あつ子もまた心ひそかに「…かわいいな」と思って、そんな自分にまごつく。
2人とも、相手に対する感情が、どうやら友情ではないらしいことに驚き、困惑してしまう。
もしこれが現代なら、凛々のときめきや彼女たちの関係に“ギャップ萌え”や“百合”というワードをすんなり当てはめることができただろう。だが、作中の時代設定はおそらく1970年代後半から80年代前半だ。同性、それも女性同士の友情とは似て非なる親愛関係を言い表す言葉はまだ広まっていなかった。
だから、あつ子と凛々は手さぐりで、この不可解な感情の正体をさぐっていく。
前半では2人の出会いと関係が深まる様子をコミカルに綴り、折り返しとなる第5話でヤンキー集団とあつ子が激突。以降、あつ子は凛々に、凛々はあつ子に向ける想いに次第に自覚的になっていく。
あつ子のロンタイ(ロングタイトスカート)をはじめとするヤンキーファッションや、『ザ・ベストテン』に親衛隊文化など、そこかしこにちりばめられている“80年代あるある”も楽しく、どこか懐かしい絵のタッチも物語にぴったりだ。
紆余曲折を経て2人は終盤、やっと“友達”になるのだが、関係はまだまだ変わっていきそうだ。悩みながら、迷いながら、自分たちなりの関係をつくっていこうと踏みだす彼女たちを、“百合”や“シスターフッド”といった在りものの言葉では形容できないし、したくない。
文=皆川ちか