思いやりの熱量/前島亜美「まごころコトバ」㉞

アニメ

公開日:2022/8/5

前島亜美「まごころコトバ」

言葉の持つ力。
会話をする中で、ひとつの言葉から読み取ることが、とても多くある。

この状況で“この言葉を使う”ということは、それほどの思いがあるんだな。こういう言い方をするということは、それほどの出来事なんだなと。

今でこそ、人それぞれ言葉の使い方が違い、どのくらいの思いでその言葉を発しているのかも違うのだと分かるようになったが、それを初めて痛感したのは小学校4年生の時だった。

クラスの仲の良い女の子4人でバレンタインに友チョコ交換をすることになった。

パティシエにあこがれ、お菓子作りも大好きだった私は、約束できたことがすごくうれしく、友達みんなとも「ほんとうに楽しみだね!」と話していた。

当日ウキウキでチョコレートを何種類か作り、かわいいうさぎのラッピング袋に入れて、学校から帰ったあとに、チョコレート交換をした。

何日か経ったあと、交換した友だちから「あみちゃんのチョコレート、なんかいっぱい入ってたからびっくりしたし、なんかすごくプレッシャーだった」とさらっと言われた。

なんの悪気もなかったと思う。確かに私が張り切りすぎて作りすぎたのかもしれない。

ただ「楽しみ」という同じ言葉で表せる“気持ちの大きさの違い”に当時ショックを受け、その子に対しても悪いことをしてしまったなと反省したのを覚えている。
同じ言葉を使っていても、みんなが同じ気持ちではないということを知った。

振り返れば、これが集団生活をする中での最初の混乱だったと思う。
そこから人との関わり方が変わってきた。言葉を使うことに慎重になり、人の気持ちを考え言葉を選んで話したり、行動をするようになった。

また人の言葉に対しても、相手が想定しているより自分が深く受けとり過ぎないように、注意深く聞くようになった。
集団行動をしていて「頑張ります」と言うなら全員が本当に「頑張る」のだと思っていたし、「信じる」と言うのなら、全員が本当に「信じている」のだと思っていた。
具体的にどのくらい頑張れるかなどは人それぞれ違うと思うが、少なくとも言葉にするのなら、それなりの努力をするという約束のようなものだと思っていた。

そうじゃないこともあると知った時、“熱量”という言葉が頭に浮かんだ。
大切にしているとか、信頼しているとか、好きだとかも同じではないかと思う。

友人と自分が互いに抱いている思いが100%ぴったり同じことはないと分かっていても、自分が相手を大切に思っている気持ちよりも、相手から見た私はそこまでじゃないのかもしれないと思うと、臆病になってしまう自分がいる。

生きる中で一番大切にしたいのは思いやりだ。

人付き合いが得意でないと思うのは、どこか信じきることができないのは、人と関わった際にふと感じる“思いやりの熱量の差”に微かな寂しさを覚えているからではないかと思った。

自分ばかり人にあこがれや好意を持っているのではないか、人のことを好きなのではないか、言葉を尽くして思いを伝えたり、行動に移しているのではないかと思い、虚しくなりそうになった時、私自身のひとつの特徴に気づいた。

“人のために”なら、私は頑張れるんだ。

どんなに忙しくても、自分のためには頑張れないことでも、誰かの笑顔のためなら頑張ることができるんだ。

昔から大切にやってきたファンイベント。ご飯を食べる時間もなくバタバタと1日3公演をこなしても、「幸せでした。ありがとう」という言葉を聞けたら、笑顔を見られたら、なによりの幸せを感じることができる。
大切な人達の誕生日やお祝いごとは、誰よりも盛大にお祝いをしたい。祝福をしたいと思う。

尊敬する女優さんがポロッと仰っていた言葉があった。「私たちのお芝居は、生活は、”人を救うための貢ぎものだ”」と。

人に尽くす。自分のために生きられないなら、人のために耐える。人のために磨く。
喜んでくれることが、うれしい。
笑ってくれることが、うれしい。
だからここまで活動を頑張ってこられたのかもしれない。ひとりではなかったから。自分のためではなかったから。応援してくれる人、期待してくれる人がそばにいてくれたから。

相手からどう思われているかを気にするのではなく、”思いやりの熱量”を高くし、これからも好きな人たちのために頑張れる自分でありたいと思った。

第35回に続く

まえしま・あみ
1997年11月22日生まれ、埼玉県出身。2010年にアイドルグループのメンバーとしてデビュー。2017年にグループを卒業し、舞台やバラエティ番組などで活躍。またアプリゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(2017年)でメインキャストの声を演じ、以後声優としても活動中。

Twitter:@_maeshima_ami
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