無理に変わろうとせず、ありのままの自分でいい。内向的な人がビジネスで成功するためのヒント
公開日:2022/8/8
“「静かで控えめ」は賢者の戦略”という文句の帯が巻かれた『「静かな人」の戦略書』(ジル・チャン:著、神崎朗子:訳/ダイヤモンド社)が話題だ。
ビジネスの成功者は、“明るくて話が上手で社交的”というのが典型的なイメージだ。ところがこの典型に反する「静かで控えめ」が、ビジネスパーソンが成功するための「賢者の戦略」だといわれると、確かに手に取らずにはいられなくなる。
著者のジル・チャン氏は台湾で生まれ育ち、アメリカのプロスポーツ業界や州政府で仕事をし、現在は国際機関のマネージャーをしている人物。この輝かしい経歴から、著者はさぞ社交上手な人物なのかと思いきや、著者は自分を「内向型人間」だと評する。内向型とは、パーティーは苦手、大勢の人の前で話をするときは緊張、会議で積極的に発言ができない、職場で人間関係をそつなく築くコツがわからない、といった特徴の性格とか。著者がこの本を書いた目的は、同じような悩みをもつ人に、内向型人間でもビジネスで成功できるということ、さらにその内向性は武器になることを伝えるためだという。
自身の内向型を自覚していた著者は、働き始めたころ、自分を外向型人間に変えたいと努力していたそうだ。無理に「元気いっぱい」になろうと必死だったという。本当の自分のままでは成功するはずがない、積極的に人とかかわることができる外向型人間にならなければいけないと思っていたのだ。しかし、これは緊張状態が続くということであり、大変に疲れる。へとへとになっていた著者はある時、『内向型人間のすごい力』(スーザン・ケイン/講談社)という本に出会い、「私はべつに、ほかの人たちより劣っているわけじゃない。ただ、ちがうだけなのだ」と目から鱗が落ちた。
著者は、努力の方向が違っていた、「本当の自分を見失わずに、自分らしく」いい仕事をすることに注力すべきだ、ということに気が付く。
緊張という「鎧」を脱いだ著者であるが、自分らしく仕事をしたいからといって誰ともかかわらずに引き籠っているわけにはいかない。人前で噓の自分を演じることは、自分の意志で止められた。しかし、自分の意志ではどうにもならないこともある。人前で話をしなければならない場面が訪れたのだ。著者がこれを乗り切るために見出した方法は以下のとおりだ。
前日まで
・話す練習を何度もする
・どんな人が聞き手なのか、情報を集める
当日
・早めに会場に到着して、化粧室などひとりになれる場所を確認しておく
・はったりをかまさず、「落ち着いた控えめな態度」を崩さない
最後の項にある「落ち着いた控えめな態度」は特に強調されていて、この態度は人からの信頼感を得られる長所だという。著者は自分と同じような悩みをもつ人に対して、“自分以外の何者かになろうとしなくてもいい、そのままのあなたで大丈夫”というメッセージを本書各所に籠めている。
ただし、工夫は必要だ。本書には上のような人前で話す対策の他にも、気まずい雰囲気を察した時、揉め事が起こった時などの嫌な空気で深く傷つきがちな内向型人間へのアドバイスがいっぱいだ。
この本が売れているということは、こうしたアドバイスを必要とする内向型人間が、実は世の中にたくさんいるということだろうか。確かに日本人で、プレゼンテーションや人脈作りなど、一般的なビジネス書どおりにできないと悩む人は多い。“あなたはあなたのままで良い、そのままで勝負できる”と背中を押してくれる本書。今の努力している方向を見直し、一度立ち止まってみよう、と緊張を緩めてくれる一冊だ。
文=奥みんす