「がんばってもできないことがある!」発達障害の当事者が教える「できないこと」の裏にある本音とは

暮らし

公開日:2022/8/16

発達障害 「できないこと」には理由がある!
発達障害 「できないこと」には理由がある!』(かなしろにゃんこ:著、前川あさ美:監修・解説/講談社)

 授業中にじっとしていられず、教室を飛び出していく――発達障害のあるお子さんによく見られる行動のひとつだが、いくら先生や親が「じっとしていなさい」と言ったところでなかなか止められるものでもない。こうした行動に周囲がうまく対応していくには「なぜできないのか」という発達障害のメカニズムを理解するのは基本だが、さらに「子どもはどう感じているのか?」と当事者のリアルな感覚を知ることができれば、より助けになることだろう。

 漫画家・かなしろにゃんこさんの新刊『発達障害 「できないこと」には理由がある!』(かなしろにゃんこ:著、前川あさ美:監修・解説/講談社)は、そんな発達障害当事者のリアルな気持ちがよくわかる1冊だ。本書の語り部はリュウ太さん。10歳で発達障害の診断を受け、現在は23歳になった著者の息子さんだ。彼が小学生の頃の体験を思い出しながら、そのときどんな風に感じていたのか、周囲の言葉はどう聞こえていたのか、何を考えていたのかといった、当事者の内面を詳しく説明してくれる。「できないこと」の裏にある本音を教えてくれるのだ。

advertisement
発達障害 「できないこと」には理由がある! p.54~55

 たとえば学校にはいろいろなルールがあるが、そもそもそうしたルールの意味が「理解できなかった」というリュウ太さん。
「決まりとかルールって誰が決めたの?」
「知らない人が決めたことをなんで守らなくちゃいけないの?」
 ――そんな思いが頭をぐるぐる駆け巡り、「納得できないことを強制されるのはイヤだった」と当時を振り返る。

 だから「みんな一緒に」を強制される集団行動は大の苦手で、同じ運動を何度も練習する体育や、笛の音で耳が痛くなる音楽の授業には、どうしても参加できなかったという。同じ演目をくり返す運動会の練習に至っては、耐えきれないのでこっそり脱走して、一人で体育館の裏で時間をつぶしていたそうだ。

発達障害 「できないこと」には理由がある! p.46~47

 本書は、そんな「当事者の視点」での語りのあとに、「専門家の視点」から的確な解説が差しはさまれる。監修者の前川あさ美さん(東京女子大学教授、公認心理士)が、「できない」理由をさらに深く説明し、どうすればいいか、フォローの方法まで提示してくれるのだ。

 なぜ発達障害のお子さんは、集団になじめないのか。それは、「共通の目的を理解していること」「まわりの人が何をしているのか、見て合わせること」などの暗黙の前提が理解できないからだという。そのため「自分の思う通り振る舞えない」という「居づらさ」が生じるのだ。

 また、集団内には多くの人がいるだけに、予測できない他者からの刺激も多い。感覚過敏のある子には刺激が大きすぎて苦痛を伴いやすい。さらに集団生活を営むためにはルールが生まれるが、発達障害の子にはそうしたルールの意義が理解しにくく、「大切な自分の自由が規則で奪われる」という気持ちになってストレスを溜めてしまうわけだ。

発達障害 「できないこと」には理由がある! p.62~63

 本書には、そうした困難を解決するための「支援の工夫とヒント」も紹介されている。たとえば、少しでも集団になじんでもらうには、「なぜその規則が必要なのか」という、具体的な目的や意味をわかりやすく説明するのがいいそうだ。説明によって、「規則はトラブルを予防し生きやすくするものだ」というふうにイメージが変われば、発達障害の当事者にも受け入れやすくなる。

 また、運動会の練習など、完成までに時間のかかるものにトライしてもらうなら、最初に過去の本番映像を見せてイメージをつかんでもらい、短期目標をいくつも作って(ダンスなら最初は音なしで4小節分の足の動きだけ覚える、次は音楽にあわせて、など)小さな達成感を重ねていくのも効果的だという。

「がんばってもできないことがある! できないことには理由がある。それを本書で伝えたい」とリュウ太さん。発達障害への社会の理解は進みつつあるが、当事者の「本音」がわかることで、さらに理解が深まる面もあるだろう。彼らの「生きづらさ」を少しでも減らしていくために、本書を多くの人に読んでほしい。

文=荒井理恵