『きのう何食べた?』『大奥』『西洋骨董洋菓子店』……一世を風靡した数々のヒット作を生み出した漫画家・よしながふみ、初のインタビュー本は全編書き下ろし!

文芸・カルチャー

公開日:2022/8/12

仕事でも、仕事じゃなくても 漫画とよしながふみ
仕事でも、仕事じゃなくても 漫画とよしながふみ』(よしながふみ:著、山本文子:聞き手/フィルムアート社)

『西洋骨董洋菓子店』『大奥』、そして今も連載中の『きのう何食べた?』……多くの作品が社会現象になり、映像化もされている漫画家・よしながふみさん。『仕事でも、仕事じゃなくても 漫画とよしながふみ』(よしながふみ:著、山本文子:聞き手/フィルムアート社)は、そんなよしながさん初の語り下ろしインタビュー本であり、今までよしながさんが明かしていなかったエピソードも数多く収録されている。

 質問はよしながさんの生い立ちから商業漫画家になるまでや、時系列に並べた各作品の制作背景、そして現在の漫画家としての思いなど多岐にわたり、よしながふみさんを形作ったコトやモノが何なのか、じょじょに読者が把握できる構成になっている。

 注目したいのはこれまでのよしながさんの人生や今の生活が、どの漫画にも生かされていることだ。たとえば高校生たちが登場する『フラワー・オブ・ライフ』では自らの高校時代の感覚を、母娘の関係が題材の『愛すべき娘たち』では親と自分とのつながりや周囲の人との会話を、思い出しながらフィクションに変えて発表している。

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 また、よしながふみ作品の特徴のひとつは、恋愛漫画であっても恋愛だけをテーマにすることはなく、ふたりの周辺をとりまく環境や恋愛以外の人生も描写されていることだ。

私の場合は、恋愛が描かれていてもいなくても、登場人物が必ず社会と繋がっているところを描くことに面白みや快感を感じている気がします

 たしかに現実で恋愛をしていて、ずっと相手のことしか頭にないという状態でも、社会とのつながりは断てない。読者は、よしながさんの漫画によって人生の甘い部分と苦い部分を同時に感じるからこそ、物語の時代や舞台となっている場所を超えて登場人物に感情移入することができる。

 また、よしながさんは漫画によって気づかされることがあると述べる。たとえば『大奥』は為政者(将軍など)が女、正室・側室が男と男女逆転をしているが、ただそれだけの物語ではないことに途中で気づいたという。

ずっと大奥を舞台にした男たちの物語を描こうと思っていたのですが、将軍の成長物語と切っても切り離せないものになっていることがわかって、女の物語でもあるのだと意識し直しました。

 実際の江戸時代では女性が為政者になることは許されていなかった。しかし女性将軍のいる『大奥』の世界では、自然と彼女たちの人生が多種多様になる。

できることが広がることは、人間を成長させると、あらためて実感しました。

 作者の今までの人生が、自らが作り上げる漫画に生きる。その後、自身が描いた漫画によって、作者自身が新たな気づきを得る。創作とはその繰り返しなのかもしれない。

 よしながさんは今、漫画制作に対してこう語る。

そんなこともできるんだ、そんなふうに考えられるんだ、そう受け止められるんだと、何かしら人の可能性の幅をちょっと広げてくれるような出来事が物語に描かれたとき、素敵だなと思える。

 漫画を読むと想像もしていない世界が目の前に広がる。そして漫画を読むことで新たな可能性に気づくのは、読者も作者も同じなのだ。

 読んだあと、今までのよしながふみさんの漫画を時系列に並べて、ひとつひとつ振り返りたくなった。本書を読んでそう感じるのは、きっと私だけではないだろう。

文=若林理央