「聞く」よりも「聴く」姿勢が大事! 仕事でも日常でも使える”傾聴力”アップの実践テク
公開日:2022/8/19
コミュニケーションの基本は「話を聞くこと」。いわゆる“傾聴力”は、かねてより大切だと言われている。しかし、みずから話すよりも難しさを感じるときもある。職場でのコミュニケーションをテーマにした『優れたリーダーは、なぜ「傾聴力」を磨くのか?』(林健太郎/三笠書房)は、身近で使える傾聴力のヒントを与えてくれる一冊。上司と部下の関係がメインになっているものの、プライベートでも役立てられるメソッドが凝縮している。
「聞く」と「聴く」はちがう? 傾聴力に必須なのは「聴く」姿勢
話を「聞く」とは何だろう。本書では、受け身で話を聞く「Hear」ではなく、みずから積極的に聞き出す「Listen」の姿勢が大切と説く。
英語の「Hear」と「Listen」のちがいを日本語で表現するなら「聞く」と「聴く」になる。私たちはそもそも、「相手の話を『聴く』つもりでいないと、100聞いたうちの75くらいは捨ててしまう」と主張する著者は、多くの人たちは、誰かと会話しているときに「ボ~ッとして聞き流していることが多い」という。
傾聴力に必須の「Listen」の姿勢は、イメージとして「相手の心のなかにある氷山の『海に隠れた下の部分』を引き出すつもりで聞く」「相手が『このことは墓場まで持っていこう』と思っている言葉を引き出すつもりで聞く」と表現できる。その姿勢で真剣に話を聴こうとすれば、相手の思わぬ本音を引き出せる可能性もある。
事実かそうではないか。相手の話した内容を“分類”しながら聴く
ここからは、実践的なスキルを紹介していこう。相手の話を聞くときは「事実情報とそれ以外を混同せずに、しっかりと分けて聞く」のが必要だという。
事実以外の内容は「感情」「思考」「推測」の3種類に分類される。本書でテーマとしているのは職場のコミュニケーションであるが、例えば、部下と上司が会話をしている以下のようなケースを見てほしい。
「先方の担当者はこちらからの提案に乗り気だったと思います」
「そうなんだね、それは実際に相手が乗り気だと言っていたということかな、それとも○○さんがそう思ったということ?」(事実情報かどうかの確認)
「あ、私が商談している中でそう感じたということです」(感情)
「教えてくれてありがとう。じゃ、○○さんの感覚としてはこのお客さんは前向きに検討しているということだよね?」
「はい、そう思います。おそらく他の競合から出ている提案よりウチの提案の方が魅力的なんじゃないかなと思います」(推測)
「どんなところから、そう感じるの?」
「そうですね、実際商談の中で『他の会社からの提案はあまりピンとこない』とおっしゃっていたので(事実情報)、私としては気に入ってくださったのかなと思いました」(推測)
相手の話した情報を分析すると「会話の方向性を見出すことができるようになる」という。さらに、「感情」「思考」「推測」に加えて、「過去」「現在」「未来」に分類する必要もあるが、正確に分類するのではなく「ある程度区別して受け取る」程度でよく、これを意識しながら会話を進めていけば、相手の「思考を深めること」もできるという。
考えを押し付けるべからず。相手に「どんな考えがあるか」を意識する
相手の話を「聴く」上で、やってはいけないのが「価値観の押し売り」だ。例えば、本書にある上司と部下の会話例を見ると、日常でも似た失敗をしてしまうことがあると気が付く。
「成長したいだろ」
「いえ別に。特に成長とかは…」
「会社で働いて、キャリアを積んでいくんだから、成長じゃないか」
「はっ? そういうつもりで会社にはきていませんが……」
このケースは部下と上司の面談時の事例であるが、上司が「成長したいだろ」と、部下に対して決めつけて話しているのが分かる。会話のスタート時点から「相手の興味を削いでしまえば、決して本音は引き出せません」と指摘する著者は、相手に「どんな考えがあるか」を考えながら会話を進めていく大切さを伝える。
先ほどのケースで、部下が「特に成長したいとは思っていません」と発言したとき、上司が「そうなんだ。何かほかに考えていることはある?」と掘り下げれば、「ほかにやりたいことがある」「会社の制度が不満」など、思わぬ本音を引き出せる可能性もある。
誰かと会話するとき、特に相手の悩みを引き出したいのであれば「無理やりコントロールする必要はない」と、著者は持論を述べる。
本書を読むと、傾聴力を高めるには「聴く」意識はもちろん、相手への質問の仕方がかなり重要だと分かる。職場だけではなく、プライベートの場面でも傾聴力を高めたいと考える人たちにとって役立つ一冊だ。
文=カネコシュウヘイ