書かれていないことにこそ真実がある! 月刊『ムー』編集長のあやしい仕事術
公開日:2022/8/29
「ムー」は、学研の「高校コース」編集部から1979年に創刊されたオカルト情報誌(2020年より関連会社のワン・パブリッシングが刊行)だ。
最近ではパルコでムー展を行ったり、サントリーやドン・キホーテ、Laundry、はたまた「地球の歩き方」などとコラボをしたりと、世間に対する露出も多い。
そんな「ムー」の編集長を長年務める三上丈晴氏による『オカルト編集王 月刊「ムー」編集長のあやしい仕事術』が学研プラスから刊行された。
「仕事術」とあるが、たとえば「雑誌の売上がいよいよ厳しくなってきたので企業コラボに活路を見いだした」といった話は一切出てこない。
もちろん、創刊当初の「ムー」は一般の中高生向けの薄い内容だったがゆえに苦戦しており、思い切ってマニア向けの「濃い」雑誌にリニューアルすることで現在の地位を築いた、といった話などは、マーケティングの基本に通ずるものではある(「広く、浅く」では誰にも刺さらないからまずは「狭く、深く」ニーズを満たすべし、云々)。
ただそれらは「ムー」編集部秘話、歴史の1ページとして語られるのであって、ビジネス視点からは書かれていない。
そして本の中で語られていく「ムー」の歴史も、1980年代にマンガ『ぼくの地球を守って』の流行を前後して読者投稿欄が前世でつながりのあった同志(戦士)を探す人たちで溢れ、集まった人間同士で自殺未遂を図った事件が起こったことや、サリン事件などを起こす以前にオウム真理教の麻原彰晃が誌面に登場していたことにはまったく触れない。あくまでもおもしろく語れる部分、エンタメに徹している。
「仕事術」と言えそうな部分も、第三者が読んで「使える」話ではなく、あくまで「ムー」らしさはいかにして作られているのか、に絞られている。
たとえば、天皇制と超古代文明といった全然関係なさそうな事象を次々に結びつけ、どこまで本気なのかわからないあの独特の文体が、どんな思想とスタンスのもとで生まれているのか、といったことに比重が割かれている。
つまりこの本自体が現在の「ムー」らしさに貫かれている。
雑誌を40年以上やっていれば、収益の話や雑誌と社会との距離については、編集部の中、会社の中ではさんざん話し合われてきたことだろう。だがそういったことをオモテに出しては「ムー」のあやしい世界観が壊れてしまう。
この本で語られる話題の選択、語り口の選択は、「ムー」のブランディングが徹底しているがゆえのものだ。
「書いてあること」に加えて、「どんな風に書いているのか」「『ムー』をどのような存在として演出したいのか」「何が書かれていないのか」から学べることが多い――そう、これは正史やメディアから隠されたものを読み解き、探究する「ムー民」(「ムー」読者)的な態度が要求される、高度な書物なのだ。
文=飯田一史