お笑い芸人・ハチミツ二郎さんの半生。“2度の死”を乗り越えたからこそのメッセージ「だから、生きよう。最期まで生きよう」

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公開日:2022/8/24

マイ・ウェイ
マイ・ウェイ』(ハチミツ二郎/双葉社)

 お笑いコンビ・東京ダイナマイトのツッコミ、ハチミツ二郎さんが自伝『マイ・ウェイ』(双葉社)を刊行した。オフィス北野、オスカープロモーションを経て吉本興業へと移籍した東京ダイナマイトは、M-1グランプリ、THE MANZAIと名だたる“お笑いショーレース”で計3度、決勝へ進出した実績もある実力派漫才師だ。しかし、人生は順風満帆に進むわけではない。ハチミツ二郎さんは心不全、新型コロナウイルス感染により「2回も死に損なった」と振り返る。

コンビ名“東京ダイナマイト”決定の裏側にあった意外な秘話

 ハチミツ二郎さんと相方・松田大輔さんによる東京ダイナマイトが結成されたのは、さかのぼること20年以上前、2001年のことだった。しかし、それ以前にコンビ名が生まれていたというのは意外だ。

 1995年、20歳のハチミツ二郎さんは吉本興業の養成所・東京NSCの1期生として入学した。同期には、品川庄司もいた。当時、ハチミツ二郎さんは同期の男性“曽根”さんと一緒にネタをやっていたが、ある日、“曽根”さんと2人で自宅でコンビ名を考えていた。

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 当時出たコンビ名の候補は「道路ウォリアーズ」「ユーモラス」「ヤングレディ」。しかし、どれもピンと来なかったという。そのときたまたま、“曽根”さんが手にしたのがパンクバンド・ニューロティカのアルバムで、16曲目には「東京DYNAMITE」という曲が入っていた。

「東京ダイナマイトは?」
「いいじゃん、東京ダイナマイト!」

 “曽根”さんとの会話で、東京ダイナマイトというコンビが誕生した。ところが、ハチミツ二郎さんが23歳になったとき、“曽根”さんは黙っていなくなった。

 そこから3年弱、吉本興業を辞めたハチミツ二郎さんは「トンパチ・プロ」という個人事務所の社長になっていた。マキタスポーツさんやU字工事、大川興業のプチ鹿島さんたちとインディーズライブを精力的にこなす日々を過ごしていたが、そこには、現在の相方である松田さんもピン芸人として参加していた。

 そして、大阪でのラストライブを経て、2001年に「トンパチ・プロ」は解散。ハチミツ二郎さんは、下北沢の居酒屋で松田さんにコンビを組もうと持ちかけた。そこで、コンビ名について相談し合ったときに、松田さんは「東京ダイナマイトがいいです」と答えた。その一言をきっかけに、数年ぶりに東京ダイナマイトは「再開」することになった。

心不全で倒れたその日…。名だたるお笑い芸人たちも安否を気遣う

 ハチミツ二郎さんが心不全で倒れたのは、2018年7月16日。当時について「あの日オレは死ぬはずだった」と振り返る。

 倒れる数日前から、体調不良を感じていたハチミツ二郎さん。しかし、劇場のステージで大トリを任されていたのもあり、普段どおり精力的に仕事をこなしていた。倒れた当日は、大阪のNGK(なんばグランド花月)で朝から午後にかけて3ステージをこなしていたが、楽屋で体調が急変。「ダメだ、息が出来ない!」と思うほどの体調の異常を感じ取ったハチミツ二郎さんは、その日の夜にあったステージ出演をキャンセルして、ひとりでタクシーへ乗り込み病院へ向かった。

 その後、救急治療室のベッドの上では、医師や看護師の切迫した声が聞こえてきた。のちに「おそらく心不全です」と医師から告げられたのだが、当時、ハチミツ二郎さんの血中酸素飽和度は「67」の数値を示していた。一般的に「(血中酸素飽和度が)80を切ると死ぬと言われている」というが、ハチミツ二郎さんは当時「最後がNGK(なんばグランド花月)への出演で死ぬのなら漫才師としてはいいか」と、人生を悟っていた。

 相方の松田さんをはじめ、サンドウィッチマンの伊達みきおさん、上々軍団のさわやか五郎さんなどのハチミツ二郎さんを慕う“二郎会”の面々。新日本プロレスの真壁刀義選手や棚橋弘至選手など、様々な人たちがハチミツ二郎さんの安否を気遣っていた。

 病院へ駆け込んでから6日。ハチミツ二郎さんは無事に退院の日を迎えた。大阪から東京へ戻り、自宅へ帰るとリビングには「たいいん おめでとう パパ」という娘さんからの貼り紙が貼ってあったという。さらに、「パパびょういんがんばったからミッキーマウスあげるよ」と、ぬいぐるみを手渡されたハチミツ二郎さん。そのぬいぐるみは、自身が「アメリカで娘の為に買ってきた」ものであったが、心の中で「でも、ありがとう」と思いを巡らせていた。

 本書の中で、ハチミツ二郎さんは「生きたらまだ面白いことがあるかもしれない。だから、生きよう。最期まで生きよう」とメッセージを送る。その生き様は、人生に葛藤をおぼえるすべての人びとの背中を押してくれる。

文=カネコシュウヘイ