女性が男性に「お金がある」ことより重視するのは? 人類の進化のプロセスから解き明かす「モテ」のひみつ
公開日:2022/8/27
経営者や弁護士、医者などアッパークラス限定の会員制結婚情報会社に集まる男女を描いたNetflixオリジナルドラマ『再婚ゲーム』が世界的に人気を博している。カネや権力、世間体、子どもの存在、後ろ暗い過去が渦巻くなかでのパートナー選びの厄介さが存分に描き込まれており、「ひええ」という気持ちになる。
しかし、一般人の世界でも「好きだから付き合う」「外見がいいから選んだ」といった単純さで成り立っているのはせいぜい10代から20代前半くらいまでだろう。交際相手、結婚相手選びの基準は複雑だ。自分の基準ですら無意識の価値判断も入り混じるというのに、まして相手側から見た基準となると、なかなかに理解しがたい。
その参考になるのがジェフリー・ミラー、タッカー・マックス『モテるために必要なことはすべてダーウィンが教えてくれた 進化心理学が教える最強の恋愛戦略』(SBクリエイティブ)だ。
ミラーとマックスは著名な進化心理学者と作家であり、この本は男性に対して女性の選択基準がどうなっているのかを語っている。異性愛者の男性に向けた本だ。
進化心理学は、たとえば「人間に怒りや悲しみの感情があるのは、そういう感情を持たない個体よりも持つ個体の方が生き残ってきたからだ」と考える学問だ。人間の心理のメカニズムを生物学的な適応から説明する。
つまり異性愛者の女性がどんな男性を好むのかも、進化の過程を踏まえれば理解できる。それを理解できれば、どのように振る舞うことで意中の相手から選ばれる存在になれるかがわかる――と。
ではそれはどんなものか?
ミラーは異性愛者の女性が男性に(無意識に)求めるものを
1.優秀な遺伝子
2.よき人生のパートナー特性
3.よき父親特性
の3つの属性に整理し、これが複雑に絡み合う、と言う。
たとえば優秀な遺伝子を求めるから身体の健康さを重要視するし、人生のパートナーや父親として見た場合にはウソつきを避ける。
また、これまで研究されたすべての文化において、平均して女性は男性より高い「堅実性」(意志力を表す科学的な単語)を示し、男性にも意志の強さを求めるという。なぜか。意志が強ければフラフラと浮気をしないし、頼りがいがあるだろうからだ。逆にジャンクフードやアルコール、ゲームなどに依存している人はだらしなく意志がないとみなされ、評価が下がる。
進化心理学者らしいのは、先史時代の人類に目を向けさせることだ。
たとえば、教科書的な頭のよさ(学問的知性)はモテにはそこまで重要ではない、という。なぜなら、教科書は先史時代には存在せず、有史以前の女性は「本の虫」に本能的に惹かれるように進化していないからだ。むしろユーモアやコミュニケーションスキルのような言語的知性、やさしさや道徳観のような感情的知性、誠実さと信頼性のような社会的知性の方が重要だ、と。
また、女性は男性に「お金がある」こと自体よりも「お金が示すもの」(ファッション、財産、食事など)を重視する――なぜなら貨幣もたかだか2、3000年しか歴史がないからだ。
たしかにもともと人類はどんなふうに生活をし、何に危険を感じ、何に魅力を感じてきたのかを考えれば、現代人がパートナーに求めるものも俯瞰して捉えることができる。
ミラーたちは「女性の視点から世界を理解しろ」「女性が何をおそれ、何を避けたいと思っているのかを知れ」と繰り返し述べる。
警官は人類のなかでも5%しかいないという問題を起こす人間への対応に90%の時間を費やすが、女性が男性に関して経験することはこれと同じだ、という。男性からの物理的な危害、性的暴行、望まない妊娠、風評被害のリスクに常に晒されており、これらを避けるために警戒感マックスの状態で男性に接するのがデフォルトなのだ、と。
狩猟採集社会についての人類学の研究によれば、もし男が女を見捨てるか、狩りで死んでしまうと、その女性の赤ん坊が生き延びる確率は驚くほど下がる――だから女性は慎重に、複合的な視点から相手を選ぶ。性欲でドライブされて短期的な視点で近寄ってくる男性は遠ざけ、長期的な視点で付き合える人を好む。
男性がしばしば理解に苦しむ「こちらに惹かれているはずなのに拒絶する」という男女関係の初期によく見られる矛盾した行動についても、とても納得のいく説明がされている。
小手先のノウハウではなくこういうところが女性のパートナーを探している男性にとって、そしてその対象にされる女性にとっても有益な、もっとも重要な部分だろう。「モテたい」という気持ちで読んだ男性に対して、「がっつくな、女性に害をなさない男性になることがまず重要だ」と教えてくれる本になっている。
文=飯田一史