タイトルは強烈! でも中身は硬派。読めば“世の中の見え方”が変わる!『あなたのセックスが楽しくないのは資本主義のせいかもしれない』
公開日:2022/8/29
書籍のタイトルや雑誌、ネットの記事で「おお、これは!?」とタイトルに惹かれて読んでみたら、全然大したことのない内容だったりすることがある。いわゆる「釣り」というやつだ。しかし気になって本を買ってしまう、ついリンク先を押してしまうほどインパクトのあるタイトルをつけられることは、世間の耳目を引き、新たな説を広めるためには必要なことでもある(もちろん中身が伴っていることが絶対条件!)。
ここで紹介する『あなたのセックスが楽しくないのは資本主義のせいかもしれない』(クリステン・R・ゴドシー:著、高橋璃子:訳/河出書房新社)も、タイトルは相当ブッ飛んでいる。しかしこれは釣りではない。原題は“Why Women Have Better Sex Under Socialism”(なぜ社会主義のほうが女性はセックスを楽しめるのか)で、これはもともと「ニューヨーク・タイムズ」に掲載されたコラムのタイトルだったという。2018年にアメリカで書籍として刊行され、その後世界各地で翻訳(14ヶ国語)されているという注目の一冊だ。
本書は「社会主義国家の女性の方が、資本主義国家の女性よりも豊かな性生活を楽しんでいた」という衝撃的な主張を中心に展開していくのだが、20世紀の社会主義国では男女平等が建前(あくまで建前であった側面も多いが)だったため、旧東側諸国では女性の経済的自立を促すために幅広い政策を実施していたという。そのため女性たちは仕事を持ち、収入を得て、経済的に自立し、男性に依存する必要がなかったそうで、それが「豊かな性生活」につながっていたことを明らかにしていく。著者でペンシルベニア大学のクリステン・R・ゴドシー教授は、大学生のときに学生生活を中断してバックパッカーとしてヨーロッパを旅行、その最中に1989年のベルリンの壁崩壊に出くわしたことで、社会主義国家が崩壊して資本主義へと移行したことが人々(特に女性)にどんな影響があったのかという研究を始めた方だ。ゴドシー教授は具体的な研究や調査を提示しながら、ひとつひとつ丁寧に論を積み上げていく。
もちろん本書は過去の国家社会主義を賛美したり、あの時代へ戻ろうといったりする内容ではない(ご存じの通り、社会主義国のほとんどは失敗に終わっている)。本書は「実はいろんなことが上手く行かないのは資本主義のせいかもしれない」ということを様々な面からあぶり出し、資本主義経済の影響をほとんど受けていなかった社会を研究して、その中から有用なもの、実用的なことをすくい上げて、強欲な資本主義にブレーキをかけ、ジェンダー平等で持続可能な社会を作るためにはどうしたらよいのかを考えるのが狙いなのだ。
衝撃的なタイトルについて解説し、読者の気持ちを引き込んでいく本書の白眉は、最後の第6章「バリケードから投票箱へ――社会参加について」にある。選挙に関して一度でも「自分が投票して何かが変わるのか?」「投票してみたけど、何も変わらなかった」「そもそも投票したところで、社会は変わらない」と思ったことがある方にぜひご一読いただきたいパートだ。我々は短期的ではなく長期的な視点で、二者択一ではなく多様な立場の人たちを取りこぼさない、そして地球環境にこれ以上負荷をかけないような政治を選択していかねばならないことがよーくわかるだろう(東京大学大学院総合文化研究科・教養学部の斎藤幸平准教授が著したベストセラー『人新世の「資本論」』を併読するとさらに理解が深まると思います)。
本書は女性にまつわる問題やアメリカでの政治的・経済的な問題を中心に論じているが、同じような問題は日本でも起きているため、老若男女関係なくお読みいただきたい内容である。資本主義や政治はあなたの毎日の生活のすべてに関係し、相手以外には秘密にしておきたいベッドの中の関係にも遠慮なく入り込んでくるもの。本書を読めば、“世の中の見え方”が確実に変わります!
文=成田全(ナリタタモツ)