「尊厳死」を求め続けたスペイン人“ラモン・サンペドロ"の人生に考えさせられる1冊/山本千尋の読書日記③『海を飛ぶ夢』
更新日:2022/8/26
私にとって読書とは、人生においてのガイドブックです。尊敬する先生方が本を通して教えて下さる言葉の数々と尊い世界を、このコラムを見て下さる皆様に少しでも興味を持って頂けるきっかけになれば嬉しいです。
③『海を飛ぶ夢』
“ラモン・サンペドロ”
彼の名前を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。スペインで初めて法廷の場で「尊厳死」を求めた方です。四肢麻痺と闘い、苦しみながら四六時中ベッドに寝たきり、今後一生身体が動くことはない。彼のことを知れば知るほどこう考えます。
「もし自分が四肢麻痺になったら」「もし自分の大切な人が四肢麻痺になったら」私は特に事故当時のラモンと同じ年齢である25歳だからこそ、考えさせられることがたくさんありました。
ラモン・サンペドロは岩場から海へ飛び込んだ際に頭を強打し、それが原因で首から下が一生不随となってしまった。
そして事故後、ラモンが求め続けたものは”死”でした。多くの方が死を望むだなんて本望じゃないと思い、それは逃げることだとまで言う方もいるでしょう。
結果的にラモンを一番苦しめたのはそれらの言葉でした。
偏見、同情、温情主義、無理解。
まるで日記を読んでいるかのような本書は、ラモンの医師に対しての怒りなども記載されているため、決して穏やかな気持ちで読めるものではないけれど、詩人でもあり、感受性豊かで知性の塊であるラモンのそれゆえのジョークや、微笑みを絶やすことがなかった人柄を知ることができます。そんなラモンの周りには家族、そして彼に惹かれた母性溢れる女性がたくさんいました。
私の叔母は第一級身体障害者です。生まれてからずっとベッドに寝たきり、話すことができなければ、考えを表すこともできません。せめて叔母の気持ちを知ることができたらと何度も思います。
ただ20歳までしか生きられないと宣告された叔母が、今は50代後半となり元気に生きてくれています。生きていることが私たち家族にとって何よりも嬉しい。そして私たち家族がこれからもずっと叔母を愛し、長生きしてほしいと願うように、ラモンの家族もそうだったと思います。
愛すべき人が死を望むだなんて、ラモンの家族の気持ちを考えると想像を絶する辛さです。
でも、ラモンが愛するのは死で尊ぶものも死。
彼の詩には「死が恋人」と綴られています。死ぬことで自由になり、死んでからが彼のスタートでした。
ラモン・サンペドロが『海を飛ぶ夢』を描いたベッドから見える窓と海と空。そこから広がる宇宙を描いた言葉の数々に、多くの生きる人々へインスピレーションを与えてくれる一冊なのだと思います。
<プロフィール>
山本千尋(やまもとちひろ)/1996年、兵庫県生まれ。中国武術、アクション、殺陣を特技とし、JOCジュニアオリンピックカップ武術太極拳大会では3種目、3連覇の優勝経験を持つ。2014年にヒロインを務めた映画『太秦ライムライト』では、第3回ジャパンアクションアワードのベストアクション女優賞を受賞。近年は、ドラマ『未来への10カウント』や『着飾る恋には理由があって』、『誰かが、見ている』、音楽劇『GREAT PRETENDER』、舞台『INSPIRE陰陽師』などに出演。
<告知情報>
2022年7月15日公開/映画『キングダム2 遥かなる大地へ』羌瘣の姉・羌象役として出演
三谷幸喜さん脚本/NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』善児に育てられた孤児・トウ役として出演