「頭脳パン」の秘密は“頭脳粉”に!? 今も愛されるご当地パンのルーツを知る
更新日:2022/8/31
「地元のご当地パンは?」と尋ねられたら、あなたは答えられるだろうか? 日本全国には、地域の素材や発想を生かしたご当地パンがあり、今でも地元の人たちを中心に愛されているという。そんなご当地パンやみんなの町のパン屋さんをまとめて紹介し、話題になっているのが『日本ご当地パン大全』(辰巳出版)である。読んでみると、さまざまな発見があって驚いた。
意外とルーツを知らないご当地パン
筆者の出身地は岐阜県なのだが、小さい頃によくロバが荷車を引いた移動販売「ロバのパン岐阜」が、家の前まで蒸しパンを売りにきていた。大好きだったが、これがまさか岐阜生まれのご当地パンだとは考えたこともなく、この本で知って驚いている。
しかも、いつのまにか見かけないようになったと思ったら、屋号を変えて2009年に復活し、今はSNSでも話題だというからびっくり。筆者と同じように、本書で初めて自分の地元のご当地パンを知る人もいるはずだ。
横須賀のポテチパンはポテサラパンと違う?
神奈川県の横須賀では、ポテチや地元産のキャベツなどをパンにサンドした「ポテチパン」がご当地パンだという。最初に考案したのは中井パン店の先代。今から半世紀以上前、近所の問屋さんから「なんとかしてほしい」とポテチのかけらを一斗缶いっぱいに持ちこまれたのが誕生のきっかけだそう。近年はテレビの影響で、多い時は600個近くも売れるとか。
ポテサラを挟んだパンなら食べたことがあるが、ポテサラがポテチに変わると味はどう変わるのだろうか。横須賀界隈にはポテチパンを食べられる店が何店舗かあるようなので、食べ歩きをしながらポテサラパンとの違いを確かめてみたい。
誰もが知る「焼きそばパン」の不思議
あんパンやメロンパン、焼きそばパンなど、誰もが知るパンの誕生秘話がわかるのも面白い。たとえば、パンに焼きそばを挟んだ焼きそばパン。炭水化物に炭水化物を挟むなんて、いったい誰が考えたのだろう。
焼きそばパンの誕生は、1950年代まで遡る。東京のとあるパン屋さんでコッペパンと焼きそばを並べて売っていたら、「面倒だから挟んで」という客がいて、コッペパンに焼きそばを挟んでみたら人気商品になったという。この出来事がなかったら焼きそばパンは生まれていなかったかも…と思うと、この客が面倒くさがりだったことに感謝したい気持ちだ。
焼きそばパンは、今でも日本全国で人々のお腹を満たしている。福岡の「バソキ屋」は焼きそば専門店だが、「バソキ屋の焼きそばで焼きそばパンがあったらいいのに」という声を受けて「ヤキソバパン」を作ったという。顔の半分くらいはありそうな大きなパン。お腹がすいた時にかぶりついてみたい。
「頭脳パン」は本当に頭がよくなるのか!?
頭脳博士のイラストとともに「毎日食べてよく勉強をして優秀な成績をあげて下さい」という文字が印刷された「頭脳パン」は、1960年から石川県を中心に全国で製造され、画期的なパンとして人々の間に知れ渡ってきた。一時期は陰りを見せたものの、1993年には再ブームになったというから、一度は食べたことがある人もいるだろう。
しかし、ふと頭に浮かぶのは、なんで頭脳パン? 本当に頭がよくなるの? という疑問である。本書によれば、頭脳パンを食べただけで頭がよくなるわけではない。しかし、頭脳パンを生むきっかけとなった「頭脳粉」が、とある大脳生理学者による理論に基づいて作られたことは確かなようだ。この本で、長年気になっていたパンの謎が解けるかもしれない。
北海道「チョコブリッコ」はアイドル級のパン
個人的に一度食べてみたいのは、北海道・日糧製パンの「チョコブリッコ」。1987年、デザインを発注した時の「チョコブリック」という文字が、間違って「チョコブリッコ」と伝わってしまい、そのまま採用されたのが名前の由来だという。
当時のぶりっこアイドルをイメージしたというパッケージは強烈な存在感である。しかも、裏面にはヲタ芸を披露するファンのイラストまで! この遊び心を応援したくなってしまう。肝心の中身はというと、全面チョコでコーティングされたパンが抜群のインパクトで、やっぱりアイドル級。
ご当地パンは100円玉で買える幸せだった
子どもの頃、100円や200円を握りしめて買いに行ったパン。大抵はお腹を満たすことが目的ではあったけれど、その発想やネーミング、パッケージの面白さに心からワクワクしたものだ。あの頃の自分にとってパンは、100円玉で買える幸せだった。だからこそ、本書で昔ながらのパンメーカーやパン屋さんが今でも数多く残っていることを知って嬉しかった。ここで紹介されたパンが、これからも人々に愛され、全国のご当地パン文化を支えてくれることを願っている。
文=吉田あき