恥ずかしさ、つかの間の解放/前島亜美「まごころコトバ」㊱
公開日:2022/9/2
「心理学的に、人は7秒以上目を合わせられないらしいよ」
その話を聞いた時、逆に7秒も見られるのかと驚いたことを覚えている。
人の目を見て話すことが苦手だった。仕事をする中で、だんだんと慣れていったが、意識しすぎることで、逆に真っ直ぐ見つめすぎだと言われたり、さじ加減が難しく、いまだに食事などに行くと目線に困ることが多い。
大人数での食事は滅多に行かない。なるべく2人がいい。それでも、席が対面となると、どこを見たらいいか分からなくなる。
未成年の時は、ほとんど下を向いてテーブルに並ぶ料理を眺めるか、飲み物を飲んで間をごまかしたりした。退屈なんだと思われないように常にほほえんでいたが、自分はいま何にほほえんでいるんだと自虐的に思っていたのを憶えている。
「お酒を飲むと仲良くなれる」とよく聞いてきた。
仕事柄、お酒を飲む方々を早い段階からそばで見てきた。打ち上げ、会食、懇親会。
なごやかで開放的な空気、お酒を飲むことでリラックスしている方はいつもより話しやすい場合もあり、お酒の場とはこういうものなのかとぼんやり思っていた。
先輩の話を聞くのがわりと好きだったため、会そのものへの苦手意識はそんなに強いものではなかったが、ひとつ不思議だったのは、誰かからぽろっとでてきた鋭い言葉が「あの時は酔っていたから」「お酒の場だったから仕方ない」と流されることだった。
言葉を受けとった相手がお酒を飲んでいてもいなくてもまかり通るそれは、大人だけに許された特権のように思え、なんだかずるいなぁと思っていた。
お酒を飲んでいたらなんでも言っていいのだろうか。人が変化していく姿を見て、お酒に対しあまり憧れを持たなかった。
私が初めてお酒を飲んだのは、20歳になった当日のバースデーイベント。初めての苦味に驚き、想像していた通りあまり感動的なものではなかった。
20歳のお祝いで「いろいろ飲んでみな」とさまざまなお酒をいただき、みごとにダウン。みんなが通る道だと思うが、本当にもう二度と飲まないと心に誓った。
歳を重ねるにつれ、だんだんと好きな人に出会った。
これは今も抱える悩みだが、私は相手を尊敬すればするほど、話せなくなる。失礼がないように、迷惑をかけないようにと。相手の言葉をこぼさず聞きたい。自分の気持ちを的確に表す言葉を選び伝えたい。
そう思うと、まっすぐ目を見ることにも勇気がいる。
伝えたい言葉が溜まっていく中で、どうして懐に飛び込めないのかと悩んでいたが、お酒を共にすることで、そういった思考や意識がやわらぐことを知った。
恥ずかしがらず目を見られたり、直接的な言葉を使って気持ちを伝えられたりする。
あんなことを言ってしまったとか、こういう言い方じゃなかったなとか、そういう考えから少し離れ、素直に楽しい気持ちになれた。
わたしは酔うと、にこにこしだすらしい。顔が赤くなり、もともと大きくない目がさらに細くなり、口数も増えるようだ。「本当は人と話したい」「本当はおしゃべりな人なんだ」というように。
自分からふいに出てきた言葉から、心の奥にあった意思に気づいて驚いたり、気持ちを整理できたりすることもある。
感情的に泣いたり、自分も知らない自分があると知り、こういった時間が大切であるとわかって、お酒を飲むことが少しだけ好きになった。
奥深いお酒の世界。少しずつ範囲を広げて知っていき、つかの間の恥ずかしさから逃れ、素直になれる時間として、品のある楽しみ方を学んでいきたい。
まえしま・あみ
1997年11月22日生まれ、埼玉県出身。2010年にアイドルグループのメンバーとしてデビュー。2017年にグループを卒業し、舞台やバラエティ番組などで活躍。またアプリゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(2017年)でメインキャストの声を演じ、以後声優としても活動中。
Twitter:@_maeshima_ami
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