初の国産アニメが作られてから100年余り。『鉄腕アトム』『新世紀エヴァンゲリオン』『鬼滅の刃』…日本アニメの軌跡

アニメ

公開日:2022/9/9

日本アニメ史 手塚治虫、宮崎駿、庵野秀明、新海誠らの100年
日本アニメ史 手塚治虫、宮崎駿、庵野秀明、新海誠らの100年』(津堅信之/中央公論新社)

 2021年の日本の映画興行収入ベスト10は1位に『シン・エヴァンゲリオン劇場版』、2位に『名探偵コナン 緋色の弾丸』、そして3位には『竜とそばかすの姫』とトップ3にアニメ作品が並んだ。

 2019年『天気の子』、2020年『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』に続き、3年連続でアニメ作品が映画興行収入で1位となった。さらに2021年末に公開された『劇場版 呪術廻戦 0』も興収136億円を超え、2022年の興収ランクインも確実となっている。また2021年4月にアメリカでも公開された『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は公開から2週連続全米興収1位を獲得。今年3月全米公開の『劇場版 呪術廻戦 0』も公開初週で全米興収2位となり、アメリカでも日本のアニメの存在感が際立っている。

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2021年の映画興行収入ベスト10(キネマ旬報調べ)

1位『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
2位『名探偵コナン 緋色の弾丸』
3位『竜とそばかすの姫』
4位『ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM “Record of Memories”』
5位『東京リベンジャーズ』
6位『るろうに剣心 最終章 The Final』
7位『新解釈・三國志』
8位『花束みたいな恋をした』
9位『マスカレード・ナイト』
10位『僕のヒーロアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション』

 日本映画界は過去最高の興行収入をあげた2019年から一転、コロナ禍の2020年は前年からほぼ半減という大きな打撃を受けた。しかしその打撃すら、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の驚異の大ヒットでなんとか半減で済んだと言っても過言ではないものだった。2021年は前年から13%増の回復をするも、全体を押し上げたのもまた先に挙げたアニメ作品によってであった。日本のアニメは確実に現在の日本映画界を支えているのである。

 なぜアニメは日本でこれほどまでに大衆文化として広がり、また独自に発展して根付いたのか。日本のアニメ作品とクリエーターを主軸に解説した津堅信之氏の『日本アニメ史 手塚治虫、宮崎駿、庵野秀明、新海誠らの100年』(中央公論新社)は、日本のアニメの成り立ちから現在までを一望できる。

 1895年にフランスのリュミエール兄弟が映画の原型とされる『工場の出口』を公開してから11年後の1906年、アメリカのJ・S・ブラックトンが絵をコマ撮りした3分のアニメーション『愉快な百面相』を発表。本書ではアニメーション誕生の時を象徴する年としてこの作品をあげ、その翌年にはやくも日本で本作が公開されている。

 日本で初公開されたアニメーションの特定には至ってないが、この時期に海外製のアニメーションの多くが日本で公開され、その後の国産アニメーション作品の誕生に繋がる。そして日本初のアニメーション作家の一人として北山清太郎が1917年に『猿蟹合戦(サルとカニの合戦)』を発表。同年には下川凹天、幸内純一とそれぞれが独自にアニメーションを発表するなど、日本のアニメが自分の足で歩みだした年として本書は記している。

 とはいえ、アニメーションの技術は当時の日本には伝わっておらず、海外の作品の見よう見まねで制作していたのが実情のようである。1930年代には「日本アニメーションの父」と呼ばれる政岡憲三が登場。セルを積極的に多用、トーキーを導入し、動く絵で喜ばれる段階から脱却し“作品の質”にこだわるなど制作技法の近代化を促した。

 戦中にはプロパガンダとしてアニメが利用され、海軍省がスポンサーの『桃太郎 海の神兵』(1945)は74分の日本初の長編アニメーション作品となった。

 1950年にディズニーの『白雪姫』が日本で公開され日本では衝撃をもって受け入れられ、東洋のディズニーと形容された東映動画が1956年に設立。1959年には高畑勲が入社している。1963年には手塚治虫の『鉄腕アトム』のテレビ放送が始まり、同年に宮崎駿が高畑勲と同じ東映動画に入社。現在に繋がる作家たちが登場するこの時期は、現代日本アニメが萌芽した時期と言っても過言ではないだろう。

 その後、スタジオジブリ、押井守、ガイナックスと庵野秀明、そして新海誠など、日本のアニメのキープレイヤーやアニメスタジオが登場していく。

 また本書は戦後のアニメにおいて1960年代の第一次、1970年からの第二次、1990年半ばからの第三次という3つのアニメのブームをとりあげ、それぞれにアニメ史としての転換点があったとする。第一次ブームではテレビという媒体とアニメが結びつき、第二次ブームでは『宇宙戦艦ヤマト』などが発表され、ヤングアダルト層という重要な観客がアニメに加わり、子どもから若者まで観客が広がった。第三次ブームでは『新世紀エヴァンゲリオン』の登場とジブリ作品、そしてアニメファンがアニメを作り始めるなど日本アニメが大衆文化として認知されたという。

 そして現在、Netflixなどによる新たな配信サービスとアニメが結びつき、果たして第四次ブームに突入しているのかと投げかける。

 そして『新世紀エヴァンゲリオン』の登場以降の四半世紀、日本のアニメに大きな転換が起こっておらず、その停滞を本書は指摘する。また『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の大ヒットなどの話題はあくまでマーケティングが功を奏した面が大きく、その余波が作品史に与えた影響はいまだ判然としないなど、現在の日本のアニメについても楽観していない。全体を通して日本アニメの黎明から現在までを冷静に見つめる本書は、大衆文化として成り立つ日本のアニメを理解する上で一助となる一冊である。

文=すずきたけし

参考
『キネマ旬報 2022年3月下旬特別号』
BOXOFFICE『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』
BOXOFFICE『劇場版 呪術廻戦 0』