今までも、これからも。連載終了から25年、少女たちは今日も「赤僕」に魅せられる
公開日:2022/9/4
母を突然の事故で失った三人家族。父は会社で働き、小学生の兄・榎木拓也は学校に通いながら、まだ幼児である弟・実の保育園への送り迎えや家事をする。拓也は、友達と遊べずに実の世話をしなければならない葛藤がありながらも、実と強い絆を結ぶようになる。
『赤ちゃんと僕』(羅川真里茂/白泉社)、通称「赤僕」は少女漫画雑誌「花とゆめ」で1991年から1997年まで連載され、当時の本誌代表作であった。本作は現在も活躍中の漫画家・羅川真里茂さん初の連載漫画であり、累計発行部数は1770万部を記録。アニメ版は主役の拓也を人気声優の山口勝平さんが演じ、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いという言葉がぴったりの大ヒットを記録した。
「赤僕」は父子家庭である榎木家3人、おもに拓也と実の心あたたまる兄弟愛を描きつつ、回を重ねるにつれて榎木家のみならず周辺の家族や登場人物の背景が丁寧に描写され、読み進めれば読み進めるほど各キャラクターに読者は魅了されるようになる。
それぞれに家庭内での葛藤や、葛藤を乗り越えていく過程がある。その過程を見ていると、私たち読者はあることに気づかされる。ホームコメディとしてほのぼのと読んでいたはずが、「赤僕」は現代に通じる社会問題も描写しているのだ。
たとえば拓也と実の父親・春美の会社には、「お局」と呼ばれながら家庭と仕事の両立に悩む女性がいる。彼女は自分の苦しみは周囲の誰も理解できないと思っていたが、春美との会話を通して、想像もしなかった家族の本心に気づくようになる。
また、物語の前半、榎木家の向かいに老夫婦だけで住む木村家に、17歳のときに家出した息子・成一が妻子を連れて帰ってくる。「赤僕」では成一が学歴差別を受けたり、成一の妻・智子の友人がワンオペ育児に悩んだあげく子どもに手をあげてしまったりするエピソードがある。
まさに今も世の中にある社会問題であるが、「赤僕」では、ほとんどのエピソードに明るい未来の見えるラストが用意されている。
時代が変わっても、私たちが社会の中で考えていかなければならないテーマは変わらず、その中には考え方や周囲とのコミュニケーションによって乗り越えられるものもある。
明るいエピソードを楽しみながらも、シリアスなエピソードでは「今の私たちが社会の抱える問題に対して何ができるか」を考えることができる『赤ちゃんと僕』。90年代から今、そして10年後、20年後になっても、読み継がれてほしい漫画だ。
文=若林理央