閉店の一方でオンライン事業の流通総額は社内初の300億を突破! 絶好調の「とらのあな」通販、本を通じてクリエイターとユーザーを繋げるための戦略とは【前編】
更新日:2022/9/28
コロナ禍で売り上げが落ち込んだことなどを理由に、8月31日で国内においては池袋店以外すべての直営店舗を閉めた同人ショップ「とらのあな」。ところが、流通総額は右肩上がり。巣ごもり需要で、WEB通信販売やファンティアなどオンラインサービスの利用拡大が増収に寄与しており、現在は戦略的に通販に軸足を移しているという。
「とらのあな」の通販サイトは、2018年にシステム管理を内製化し、大型リニューアルした過去がある。絶好調の今を支えるリニューアルの流れや、今後の販売形態について、株式会社虎の穴取締役、鮎澤慎二郎さんに聞いた。
鮎澤慎二郎さん
株式会社虎の穴 代表取締役
2002年4月、虎の穴に入社し、個人出版物の営業担当として個人クリエイターとの交渉を実施。年間1000人以上のクリエイターに営業し、総取引量で同社のナンバーワンに。05年から該当事業の統括。19年にユメノソラホールディングス 取締役に就任。20年に虎の穴COOに就任。現在は虎の穴の代表取締役に就任し、経営計画の策定および執行を実施している。
2018年に通販リニューアル、コロナ禍ではスタッフ増員も
——絶好調の通販サイトですが、2018年に、約12年ぶりとなる大型リニューアルをしていましたね。当時はどのような狙いがあったのでしょうか。
鮎澤慎二郎氏(以下、鮎澤):女性向けコンテンツの販売が伸びており、さらにアイテム数を増やし、細かいサービスを展開するには、スピード感を持ってシステム改修やSEO対策をする必要があると判断したからです。外部に委託していたシステム管理を社内で行なうことになりました。約20年前、電話受付から始まった通販でしたが、ありがたいことに当時目標としていた100億が目前となり、次は500億、1000億を目指していこうと考えたこともあります。
——実際にどのような改修が行なわれたのでしょうか。
鮎澤:1000億の通販に成長させるなら、ユーザー数がどれだけ必要で、アイテム数はどれくらい必要なのかと考えた上で構築に入り、社内でエンジニアを雇用して、日々の改修作業に当たってもらいました。見せ方、見え方、ユーザーインターフェースを含め、ここ2年ほどかけて、ようやく改修できてきたと感じています。
——懸念していたスピード感も上がりましたか?
鮎澤:そうですね。やはり、発注書を作るところからスタートしていた頃とは違って、社内でエンジニア集団と通販スタッフが定例ミーティングを行ない、現場から上がってきた課題に即時向き合うことができますから。ユーザーからのニーズや分析を進められるようになり、ユーザーの利便性を高めているところです。
——スタッフ数はどれくらいで回しているのでしょうか。
鮎澤:通販に従事しているスタッフは30~40人くらいです。最初は5人10人の規模から始まり、ここ2年間でエンジニアの雇用を進めました。通販のスタッフは、社員が10人程度とパートナーさん(アルバイト)が10人から15人。他にもマーケティングのチームが存在します。とはいっても、スタッフは実際のところ、通販だけではなく、「ファンティア」(通販とは別のクリエイター支援プラットフォーム)などシステム全般を請け負っていますが。
——2年前、コロナ禍に入ってからスタッフの増員があったのですね。
鮎澤:はい。コロナ禍でユーザーのアクセスが増えていましたし、店舗では難しくなったサービスをWEBでカバーしたい、という想いもありましたので。まずはスタッフを増員し、開発を少しでも早く進める必要がありました。
通販はクリエイターとユーザーを繋ぐためのプラットフォーム
——ユーザーからのニーズに応えて通販サイトを改修したというのは、どういった部分でしょうか。
鮎澤:正直なところ、ユーザーインターフェースの見づらさ、決済への進みにくさで「買うまでに時間がかかるよね」という声がありました。また、毎度便(発送準備が整った商品から順次まとめて発送)や定期便といった特殊な発送方法の説明がわかりづらく、途中で離脱するお客様や、会員登録画面が複雑すぎて離脱するようなお客様が多いことも、分析の中でわかってきまして。改修を進めて離脱率を何パーセント下げる、という目標を常に掲げてきました。
クリエイターさんからのニーズに応えた改修もあります。店舗イベントでは、「一部のファンの方だけに絞ってサービスをお届けしたい」というクリエイターさんからの要望に応えてきましたが、WEBでも同じようなサービスを届けられる機能を再現しています。
——他にも、ワンクリック購入や、Twitterからそのまま通販のログインに進めるような機能などが増えて利便性が上がっていますね。ちなみに、他社の通販サイトを参考にされることは?
鮎澤:以前は参考にすることもありましたが、「とらのあな」通販は、ただ商品を販売するだけではなく、商品を通してクリエイターさんとユーザーの方を繋ぐためのプラットフォームですので、なかなか類似のサイトがないんです。
——たしかに独自のサービスですね。サイトの中で男性向け、女性向けとブロック分けされているのも大きな特徴のように思います。
鮎澤:これも、ユーザーさんからの要望です。オタク文化に成人向けの作品はありものですし、男性は男性、女性は女性で、ターゲットじゃない作品が見えてくるのは避けたいと。クリエイターの方からも同じような要望があり、2003年からプリンセスサイトを作って明確にブロック分けをしました。どちらの方もご覧になる作品は双方のサイトに掲載しています。
他社さんですと、アパレルのように、そもそも男女でブランドが分かれているケースが多い。ところが、弊社では、男性向けも女性向けも同じようにとらのあなブランドですし、両方の作品を作られているクリエイターの方もいらっしゃいますので。同じブランドだけれど入り口を2つに分けている、というわけです。
——コロナ禍の2020年6月からは、「とらのあなプレミアム」という会員サービスも始まりました。毎月500円分の割引クーポンがあり、毎月利用するユーザーであれば、月額500円が実質無料に。他にもさまざまな特典が受けられるサービスです。
鮎澤:これは正直に言いますと、他社さんの会員サービスを参考にしました(笑)。定期的に購入していただけるお客様を増やすためです。宣伝もしましたが、始まった当初は認知が広がらず……。ここ1年でようやく、定期的に利用していただくプレミアム会員が増えてきました。今後もプレミアム会員を増やせるような施策は増やしていく予定です。
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後編では、今後の販売形態について、またクリエイター支援プラットフォーム「Fantia(ファンティア)」と海外からの反響に関して話をうかがっていく。
取材・文=吉田あき