絶好調の「とらのあな」通販、本を通じてクリエイターとユーザーを繋げるための戦略と、海外からの反響とは/おススメ本3選【後編】

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更新日:2022/9/29

とらのあな
会議室に掲示されている社是

「とらのあな」の通販サイトは、2018年にシステム管理を内製化し、大型リニューアルした過去がある。前編では絶好調の今を支えるリニューアルの流れや、今後の販売形態について、株式会社虎の穴代表取締役の鮎澤慎二郎さんに聞いた。後編では、クリエイター支援、さらに海外からの反響について聞いた。

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ファンティアでは海外クリエイターの日本での認知を広めたい

——「Fantia(ファンティア)」は、ユーザーが気に入ったクリエイターを応援し、支援する金額に応じたサービスを受けられるという、とらのあならしいサービスです。4月で6周年を迎えましたが、こちらはどのような狙いで開始されたのでしょうか。

鮎澤:クリエイターの方にとって、何カ月もかけるような作品作りは非常に大変なんです。2013年に設立されたユメノソラホールディングスのビジョンが、クリエイターのファミリーになることでしたが、本や物を仲介するだけでは限界があるのではないかと。1冊や1個など、明確な作品として販売するまではいかない、けどイラストや声や写真などを発表しているようなクリエイターの方に対しても支援したいと考えたところ、すべてのクリエイターをカバーするために開始したのがファンティアでした。

とらのあな
ファンティア事業の2022年流通総額は121億円の見込み。その中でも国外のファンは20%を超える大きな存在だという

——クリエイターさんにとって、安定した収入というのはありがたいことだと感じます。

鮎澤:そうですね。活動を続けるための意欲もそうですし、本作りも決してタダではできません。今は紙の値段も高騰していますから。すべてがお金とは思いませんが、作品作りを継続するには、環境を整えることも必要な要素だと思っています。

——ファン限定コンテンツが多いのも人気の理由だと感じます。コースの設定や投稿の内容はクリエイターさん自身が決めているのですか?

鮎澤:基本的にはそうですね。「夏のイベントにあわせた投稿を」など、期間ごとのテーマを決めて応募を募ることもありますが、我々はプラットフォーマーですので。イベントに伺った時に、クリエイターさんから「次はどういう展開にしましょうか」と営業が相談を受けることもあるようですが。ユーザーさんが「めざめボイスをお願いしたい」など個別に依頼できる場もあり、ユーザーの要望をクリエイターが叶えていけるような仕組みは面白いと感じています。

鮎澤慎二郎さん

鮎澤慎二郎さん
株式会社虎の穴 代表取締役
2002年4月、虎の穴に入社し、個人出版物の営業担当として個人クリエイターとの交渉を実施。年間1000人以上のクリエイターに営業し、総取引量で同社のナンバーワンに。05年から該当事業の統括。19年にユメノソラホールディングス 取締役に就任。20年に虎の穴COOに就任。現在は虎の穴の代表取締役に就任し、経営計画の策定および執行を実施している。

——最近は海外のユーザーが増えているとか。

鮎澤:明確な個人情報はわかりませんが、IPアドレスによると、割合が増えていると実感しています。2016年頃から、店舗イベントでも海外の方の割合が多い印象がありましたから、おそらくコロナ禍で日本に来られなくなった海外の方がファンティアを利用してくださっているのだろうと。海外にはパトロンという言葉があるように、好きなクリエイターを金銭面でも支援したいという文化があり、ファンティアのようなサービスも海外にはもともとあったんです。我々もそれを見ながら、国内ビジネスとしてファンティアを広げてきました。

——どのあたりの国のユーザーさんが多いのでしょうか。

鮎澤:今は、北米とアジア圏です。アジア圏だと、台湾、韓国、中国、ベトナム、タイ、東南アジア、フィリピン、シンガポールなど。だんだん国の数が増えているようです。

——北米はアニメが人気ですね。

鮎澤:我々以外のコンテンツホルダーさんも、海外に向けて積極的に情報発信されていますから、日本と同時に海外でも閲覧できる作品が増えていますよね。以前は、たとえば、2年くらい遅れて海外でハガレン(『鋼の錬金術師』)が流行っている、日本の最新漫画の海賊版が出回ってしまう、という状況もありましたが、今は国内でも海外でも同時に『SPY×FAMILY』が流行っているなど、タイムラグがなくなっています。

——翻訳サービスもされています。

鮎澤:まだ一部ですが。やはり言語の壁は必ずありますので、我々も今後の課題としてサポートしていきたいと思っています。

——国内外のファンに応援してもらえることで、クリエイターさんの作品作りにも広がりが出るのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

鮎澤:そうですね。むしろ、海外のクリエイターが日本のユーザーに認知される機会を増やしたいという狙いもあり、台湾の店舗でも現地のクリエイターさんの作品をお預かりして日本で展開しています。海外の方からすれば、日本はまだまだ漫画やアニメの聖地であり、日本のユーザーに認知してもらいたい要望をお持ちの方は多いんです。日本はある意味恵まれているといいますか、表現や法律、宗教に対する活動領域の自由さが大きく、表現の幅が広い。そういったところも、海外の方にとっては魅力的に感じられているようです。

とらのあな
2025年度には「流通総額400億円」「サービスユーザー数1500万人」の達成を目標としている

クリエイターとユーザー、双方の要望を叶えるために

——通販サイトをより良くする上で、なかなか困難で実現できない、といった要望もありますか?

鮎澤:「短期間で配送してほしい」というご意見には、少しでも早く対応したい気持ちがあります。その他、ご要望に臨機応変に応えたい思いはあるのですが、ついこの間も、大型商材が発売された際、想定以上の反響でサイト混雑や新規会員の登録に遅れが出るなどご迷惑をおかけしてしまい、トライ&エラーが今もあります。

——先日の某ゲームのキャラクターの本が販売された際のことですね。

鮎澤:はい。我々もサイトの増強など対応はしていますが、まだ年に何度か、こういったタイミングでお叱りの声をいただくことがあります。千葉県市川市に約5500坪の自社物流をもうけているのですが、以前に比べれば納品数も配送量も大幅に増えている中で、昨年(2021年)の冬頃から遅れが出ているのが事実です。今後はロボティクスを取り入れて、24時間態勢で発送ラインを増強するなど、デジタル面を促進して速度改善をはかっていきます。

——実際、そういった工夫が、クリエイター個人の要望を叶える形での販売に繋がっていて。やはりクリエイターに寄り添うお気持ちがあるからこそできることなのだと感じます。

鮎澤:作品を預けていただくのはありがたいことですし、クリエイターの方もファンの方を大切にされているので、できるだけ双方の要望を叶えられるようにと考えています。ただ、どうしてもコストがかかる問題ですので、どこまでできるのかを周りと相談しながら進めています。

——最近800名成婚を発表されたオタク婚活「とら婚」もそうですが、人の縁や繋がりの場を提供するという、とらのあなブランドの特徴が伝わってきました。

鮎澤:「とら婚」は、代表の吉田(博高)が友人のクリエイターから「出会いの場がない」と相談されたことがきっかけで始まった事業と聞いています。そのクリエイターの方も最近成婚を発表されたとか。店舗の閉店が続き、お客様にはご迷惑をおかけしますが、今後はDX(デジタル変革)を推し進めていく判断をしており、ユーザーとクリエイターのみなさんの要望を取り入れながら通販に注力したい、というのが今の考え方です。

鮎澤慎二郎さん

——最後に、ダ・ヴィンチWeb読者に向けて、鮎澤さんオススメの作品3選を教えていただけますか。

めぞん一刻』(作:高橋留美子)
中学生くらいで愛蔵版を読み、今でもその本を持っていて、たまに読み返すこともあります。好きなキャラクターは響子さん。大人になってからも魅力を感じますね。高橋留美子さんの作品は『らんま1/2』なども読みましたが、一番好きです。

SPY×FAMILY』(作:遠藤達哉)
「海外を意識している」というのをどこかの記事で拝見したのですが、国内を意識しているようでありながら、海外の方も入りやすい世界観に仕上がっていて魅力を感じます。ギャグ、シリアス、恋愛、ファミリーなど、さまざまな要素が絡んで一辺倒ではなく、少年漫画なのに、どことなく少女漫画のようにも感じる。受け入れる幅が広く、相当考えて作られているんじゃないかと。次の展開が気になります。

軍靴のバルツァー』(作:中島三千恒)
表紙買いをしてから好きになりました。中世のヨーロッパを舞台にした軍事ものですが、どちらかというと政治や戦略、策謀などの要素も入った骨太な作品。本来は小説になるような作品で、漫画としての表現は大変だと思いますが、ペース良く、説明が多すぎず、飽きない展開で、ジャンルの枠を超えて楽しめる作品だと思います。

——ありがとうございました!

取材・文=吉田あき

インタビュー前編はこちら!→閉店の一方でオンライン事業の流通総額は社内初の300億を突破! 絶好調の「とらのあな」通販、本を通じてクリエイターとユーザーを繋げるための戦略とは【前編】

数字参考
https://www.toranoana.jp/company/pr/ir202206-02.html