発達障害の人にすすめる「フリーランス」としての働き方――ASD・ADHDの著者が丁寧に働き方を解説
公開日:2022/9/12
「人付き合いが苦手」「事務作業が苦手」……人はそれぞれ苦手を抱えているものだが、こと発達障害を抱えている人はその振れ幅が大きく、社会生活に「困難さ」を感じている方も多くいる。学生時代ならまだしも、すでに社会人として働いている場合には、こうした困難さが仕事を続ける上で大きなハードルとなることもある。もう少し楽にならないだろうか…そんな願いを持つ発達障害当事者の方には、この本が新たなヒントを与えてくれるかもしれない。『発達障害フリーランス 属さない働き方のすすめ』(銀河:著/翔泳社)は、会社などの組織に所属して働くのではなく、個人事業主としてフリーランスで働く生き方をすすめる一冊だ。本書によれば「フリーランスという働き方」は、発達障害を弱みではなく「強み」に変えるための最適な働き方だという。
著者は自身も発達障害当事者であるという銀河さん(ASD:自閉症スペクトラム障害とADHD:注意欠陥多動性障害の診断を受けている)。かつて新卒で営業としてのキャリアをスタートするも、集団行動や暗黙のルールへの理解、人間関係の面でうまくいかず約1年でうつ病を発症。復職して営業成績2位を収めるなど成果を出したものの孤立はやまず、同僚や上司からもなかなか認めてもらえなかった歯痒さから入社満3年で退社し、現在は企業の創業メンバー兼フリーランスで活動中という人物だ。
本書はそうした銀河さんの独立体験をベースに、「フリーランスとはどのような働き方か?」「フリーランスにはどうしたらなれるのか?」「フリーランスになるためにはどのような準備が必要か?」など、フリーランスで働くための基礎知識を幅広く教えてくれる。
それにしても、なぜ、フリーランスという働き方が発達障害当事者にオススメなのだろうか。本書によれば、たとえば発達障害の人によく見られる特性(ひとつの物事に集中しがち、こだわりが強い、思ったことをすぐに口にしてしまう……etc.)は、集団のルールが重んじられる会社員の世界では「チームワークが乱れるから」と、あまりよく思われないことが多いという。さらに配属や異動も会社の都合次第で、必ずしも自分の得意な仕事に携われるわけではないし、職場に発達障害についての理解がない場合は人間関係がうまくいかずに孤立してしまう可能性も……。一方で「自分が好きなことを突き詰め、発展させるのが得意」という方も多く、そうした特性こそが発達障害当事者がフリーランスとの相性がいい理由のひとつとのこと。フリーランスとは、自分で主体的に「自分の好きなこと、自分に向いていること」を仕事にできる生き方でもあるからだ。さらに「働く場所を自分で決められる」「時間の制約がない」「人間関係が楽」というフリーランスのメリットは、苦手が多い発達障害当事者にとって魅力的なものだろう。
注意したいのは、実際にフリーランスで生きていくのはそう簡単なことではないし、誰もが成功できるわけでもないということ。そのため著者のアドバイスも「まずは月収5万円を目指せ」「副業からスタートするといい」と現実的で、それ相応の努力が必要なのがわかってくる。とはいえ、日々マイナス思考に押しつぶされそうになっているのなら、本書で新たな生き方をシミュレーションしてみるのも悪くない。もっと自分らしさを大切に生きるために、まずは気軽に本書を手に取るのもいいだろう。
文=荒井理恵