「最後のシーンで見せるルビーたちの表情に注目してほしい」――『RWBY 氷雪帝国』ヤン・シャオロン役・小清水亜美インタビュー
公開日:2022/9/20
『RWBY』シリーズの新たな歴史がいま生まれる。
2012年、日本のアニメ作品に影響を受けたアメリカのクリエイターたちが3DCGアニメを作り、インターネット上で配信した。かわいらしい少女たちが巨大な武器を振り回し、キレのいいアクションを決める。日本の手描きアニメの気持ちよさとけれん味を見事に3DCGで描いていたのだ。この『RWBY』という作品はインターネット上で話題になると、日本のアニメ関係者からも注目を集める。そして、日本の声優による日本語吹き替え版が制作されると、日本語版DVD/Blu-ray Discの発売、そして劇場でのイベント上映、編集版のTV放送が行われた。
物語の舞台はレムナントと呼ばれる世界。そこには人類を脅かすグリムと、ダストやセンブランスと呼ばれる力を駆使して戦う者たちがいた。15歳の少女、ルビー・ローズは、そんなグリムを退治するハンターを目指して、養成所であるビーコン・アカデミーに入学する――。制作開始から約10年が経った現在でもアメリカのRooster Teeth Productionsでは新作が制作されており、壮大な世界観とドラマが描かれるシリーズとなっている。その『RWBY』シリーズから、新作として日本のクリエイターたちが作ったものが『RWBY氷雪帝国』である。ルビー、ワイス・シュニー、ブレイク・ベラドンナ、ヤン・シャオロンの4人は、新キャラクターのシオン・ザイデンに導かれ、新たなグリムに立ち向かうことになる。
『RWBY』シリーズの吹き替え版で、ヤン・シャオロン役を演じているのは小清水亜美。ヤンはルビーの姉であり、ルビーを見守り、ともに戦う、かけがえのない仲間のひとりだ。チームRWBYのムードメーカーとして作品を華やかに盛り上げる。
はたして彼女は『RWBY 氷雪帝国』のヤンにどのようにアプローチしたのだろうか。ヤンというキャラクターと新作にかける思いを語っていただいた。
ヤンはアメリカの日常を一番体現している女の子
――『RWBY』シリーズの日本語吹き替え版が最初にリリースされたのは2015年。今年で7年経ちました。最初期から本作に関わっている小清水さんにとって、『RWBY』シリーズの魅力はどんなところでしょうか。
小清水亜美(以下、小清水):日本語吹き替え版の『RWBY』シリーズに関わらせていただいて、ずいぶん経ちましたね。『RWBY』シリーズの魅力は、やはりコメディとシリアスが同時に共存していることだと思います。とくに前半の『Volume 1』から『Volume 3』くらいまでは学園生活を中心としたコメディラインと、シリアスかつカッコいいバトルラインが同時進行で描かれる世界観がまずひとつの魅力かなと思っています。そこに加えて、とくにバトルシーンは、アニメーションだから成立するスペシャルなカメラアングルで描かれていて、そのセンスが素晴らしいなと思っていました。わかりやすくいうと……アクションシーンが、日本のロボットアニメ作品のようなカメラワークで描かれているんです。
――そうなんですね! いわゆるロボットアニメのけれん味の利いたアクションが楽しめると。
小清水:『RWBY』シリーズには、ロボットアニメのロマンのようなものがキャラクターのバトルシーンにも入っているんですよね。そういうところに日本のアニメに対するリスペクトを感じるんですよ。
――日本のアニメのエッセンスがふんだんに詰まっているわけですね。
小清水:そうですね。それだけでなく、アメリカならではの要素も入っているんですよね。『RWBY』シリーズは、アメリカで作られている作品なので、いわゆるアメリカの生活や、アメリカの問題が作品のあちこちに反映されていることが多いんです。キャラクターにも多様な種族が出てくるし、いろいろな特性をもっている人たちが出てくる。さらにLGBTQなど、ここ数年で注目されたような表現も丁寧に取り入れているんです。他にも、ルビーとヤンは異母姉妹なんですけど、名前から想像すると、おそらく人種も違うんじゃないかとか(ルビー・ローズとヤン・シャオロンの父はタイヤン・シャオロン)。とても楽しい作品の中に、いろいろな考えられる要素が散りばめられていて、そういうところがとても面白いなって思っています。
――アメリカの『RWBY』シリーズでは、ヤンをBarbara Dunkelmanさんが演じていらっしゃいます。吹き替えをするにあたって、Barbaraさんのお芝居の影響はありましたか。
小清水:そうですね。原作の役者さんはけっこう早口で、ひとつのセリフにたくさんの情報を詰めてるんです。私たちが吹き替えをするにあたり、テンポの速い中でセリフを早口でしゃべるということが、キャラクターを構築するうえで欠かせないものとしてあって。たとえば、ブレイクはもう少し穏やかにしゃべっているんですけど、とくにヤンとルビーのふたりは速いテンポだったり。ただ、その速さがあるからこそできる表現があって、それが『RWBY』シリーズの特徴になっているなと思います。
――ヤン・シャオロンというキャラクターを演じて長い時間が経っていると思いますが、彼女を演じる面白さや難しさをどんなところに感じていますか。
小清水:ヤンは『RWBY』シリーズの中でも、アメリカンな要素をたくさん持っている女の子だと思うんです。ピザとかポップコーンが似合いそうで、アメリカの日常を一番体現していそうなキャラクター。枠にとらわれずに自由でいたいと願って生きている感じを、大事にして演じさせていただきました。彼女は、お母さんが違うけれど、ルビーのお姉さんで。才能にあふれているルビーを宝物のように思っているんです。ヤンが素敵なところは、ルビーに対して、何でもかんでも危ないからダメだよと箱入りにしてかわいがるのではなくて、ときに突き放したり、ときに彼女の自由にさせたりして、しっかりと距離を取って見守っていることなんですよね。ルビーが壁にぶつかってしまったときは、ちゃんと話を聞いてあげるし、解決するためにいっしょに協力してあげる。お姉ちゃんというよりも、お母さんみたいな感じがするんです。もちろん、いてもたってもいられないときもあるんですけど、基本的には、広い世界に放りだすような懐の広さがあって。これがヤンの深い愛なんだなと思っています。
――小清水さんからご覧になって、妹のルビーはどんな女の子ですか。
小清水:ルビーは悩み苦しんで壁にぶち当たることが多いんですが、その壁を超えるたびに、スポンジのようにいろいろなことを吸収してレベルアップしていくんです。素敵だった子が、どんどん輝いて、さらに素敵になっていく。そういうところも目を離せない存在ですね。立派な妹を持って私も鼻が高いです(笑)。
明るいセリフの中に、ヤンの微妙な心情を感じてほしい
――今回の『RWBY 氷雪帝国』をご覧になって、ご感想はいかがでしたか。
小清水:原作となる『RWBY』シリーズはまだ完結していないので、最初に日本で『RWBY』シリーズの新作が作られると聞いたときは、どんな作品になるんだろうと思っていたんです。だから『RWBY 氷雪帝国』の内容を知ったとき、すごくチャレンジした作品になっていたので驚きました。『RWBY Volume 3』ぐらいのころは、たしかにワイスの家庭問題や人間関係も描かれていたんですけど、それぞれみんな悩みを抱きながら学生生活をおくっていた時期だったので、あまり深い部分までは描かれていなかったんです。でも、きっと深い部分で彼女も葛藤していて。そこが『RWBY 氷雪帝国』で描かれているんだなと。
――『RWBY 氷雪帝国』ではワイスの内面を、ひとつの世界(帝国)として具体的に描いていましたね。
小清水:私が感じたのは、ワイスの優しさです。痛みをよく知っているからこそ、人の痛みもわかるし、人に優しくできる。それを深く感じましたね。同時に、ヤンにも悩みがあって。私が本当になりたいものは何だろうと考えているんですよね。だから、もしタイミングがズレていたら、ヤンも崩れていたかもしれない。みんな、明日は我が身という予感があったから、メンバーみんなで力を合わせてワイスを助けにいくんだろうなって。
――ワイスの氷雪帝国をご覧になってどんな印象がありましたか。
小清水:いろんなワイスを見せていただきましたね。ロリっ子ワイス、巨大化したちびワイス、ウィンターお姉さんを感じさせるネガワイス……。ワイスの憧れや恐怖みたいなものを反映しているのが面白かったですね。弟のウィットリー(・シュニー)がコウモリのようになっているけど、現実にいるときのワイスにはウィットリーがそういうふうに見えていたのかもしれないなって(笑)。作品の登場人物たちはすごくシリアスな状況にいるんですけど、視聴者としては心躍るような気持ちになる世界でした。
――ヤンはバイクに乗って登場しますね。
小清水:ヤンはバイクに乗ることがすごく好きだから、バイクに乗ったときのバトルシーンは声でも爽快感を出そうとしていました。
――夢の中のヤンもちょっと違うイメージがありましたね。
小清水:ヤンはムードメーカーの一面が強く出ていたので、あまり悩んでいる顔を出さないようにしていました。たくさん考えているんだろうけど、考えても答えが出ないことを考えてもムダだろうと割り切っている感じがあって、それでチームのバランスが成り立っているなと思いました。ほかのメンバーよりも明るいトーンでセリフを言っているのは、ヤンなりの真剣さの表れでもあるというか。そのバランス感覚を大事にしています。ルビーのことが心配で不安だけど、その気持ちを抑え込んで。「わかった、リーダー」っていうセリフに少しだけ不安な気持ちをにじませています。このインタビューを読まれた方は、『RWBY 氷雪帝国』を見直すときに、そういうヤンの微妙な心情を感じていただけると嬉しいです。
本当にお疲れさまと、日笠(陽子)に伝えたい
――日笠陽子さんが演じるネガワイスの印象はいかがでしたか。
小清水:今回、ワイスは主役ですからね。日笠(陽子)が一番大変だったと思います。ネガワイスは、感情の組み立てや言葉の構築が普段のワイスとは違っていると思いますし、それだけでなく……今回ワイスがたくさん登場するじゃないですか。ワイスだけど、ワイスじゃない役を何役もやっているわけで、それぞれニュアンスを違う芝居をしないといけない。本来のワイスだったら、厳しいことを言いながらも優しさを隠せない、クールだけどクールさを保っていられないという感情のブレを見せていくことになるんですけど、今回のネガワイスは厳しい感情や、クールな感情を一定に貫かないといけない。そうやって感情をブレさせないことは意外と難しいんですよ。一本調子になってもいけないし、ひとつの感情をしっかりと見せないといけない。
――大小さまざまなワイスが登場して、中でもネガワイスはファウナスのブレイクに対して敵対心をぶつけていく。ネガワイスは、ずっとネガティブな感情を出していますよね。
小清水:そうなんです。いろいろなネガティブな感情をずっと演じていたわけですから、しんどかっただろうなって思います。アフレコをした日はフラストレーションがすごかっただろうな。私の場合はヤンを演じていると、フラストレーションが全く溜まらないんですよ(笑)。ヤンは感情を思いっきり出して、フラストレーションを発散できるので、アフレコをしたあとはすっきり気分良くなるんですよね。私はすっきり収録していている横で、日笠が大変な収録をしていて、ずっと気になっていました。本当にお疲れ様と、彼女(日笠陽子)に伝えたいですね。
――『RWBY 氷雪帝国』の後半戦で、小清水さんがもう一度見たいシーンをあげるとすると、どんなところでしょうか。
小清水:まず、最終回(Chapter 12)の学食(食堂)バトルですね。収録の時に見た映像では、ヤンがチキンで戦っているカットがあって。ここにきて、ノーラ(・ヴァルキリー)が活き活きしちゃうんです。このバトルはとても印象に残っていますね。あとは、ネガブレイクですね。この取材を受けている段階では、まだネガブレイクがどんなビジュアルとして登場しているのかわからないので、そのシーンの映像がどうなっているのかが楽しみです。ちょっとだけ嫉妬する部分としては、ネガブレイクは、アイツの仮面を模したものを身に着けているんですよね。そこはヤンを演じる小清水としては、ほんのちょっとだけワイスを応援したくなりました。あと、ヤンとブレイクで言うならば、手をとって助け出すシーンはやはり大事なシーンなので、そこは何度でも見ていただきたいです。この作品で描いているものは、ワイスをめぐる物語ではあるんですが、最後のシーンでルビーたちみんながどんな表情をしているのかをぜひ、じっくりと見ていただきたいです。
――『RWBY 氷雪帝国』ではナイトメアというグリムが登場します。人に憑りつき、その人のネガティブな部分を強調して夢の中に世界を作り上げてしまうグリムですが、小清水さんにナイトメアが憑いたらどんな夢の世界を作ると思いますか。
小清水:私が虫全般がめっちゃ苦手なもので。だから、ナイトメアがいたら、虫がたくさんいる世界を作ってしまいそう(笑)。そんな世界になったら、おぞましくて恐ろしくて、本当にイヤです(笑)。
――『RWBY氷雪帝国』もついに放送を終えました。小清水さんは今後の『RWBY』シリーズにどんな期待をしていますか。
小清水:原作の『RWBY』シリーズがこれからどうなるのかは、私もわからないのでなんとも言えません。でも……もし可能ならば……。もし叶うならば、『RWBY氷雪帝国』を手がけた日本のクリエイターの方々と、『RWBY』シリーズを手掛けたオリジナルのクリエイターがいっしょに新たな作品を作ってもらえたらなあって思います。日本のクリエイターの良さと、海外のクリエイターの良さが活かされた一本が生まれたら良いなあ。ぜひ、これからも続く『RWBY』シリーズの応援をよろしくお願いします!
取材・文=志田英邦
プロフィール
小清水亜美(こしみず・あみ)
主な出演作品は、『スイートプリキュア♪』北条響/キュアメロディ役、『マクロスΔ』美雲・ギンヌメール役、『リコリス・リコイル』中原みずき役など。
Twitter:@AMISUKESHIGOM