凶悪な極道が異世界を救う英雄アムロに転生?
公開日:2022/9/27
ガンダムシリーズ専門の漫画雑誌『ガンダムエース』で、2001年発売の創刊号から連載されている大和田秀樹の『機動戦士ガンダムさん』。世界一のロングランガンダムコミックは、9月26日に発売された最新第20巻で、シリーズ累計発行部数350万部を突破した。
アニメ『機動戦士ガンダム』のパロディ4コマ漫画として始まった本作だが、長い連載期間を通して、4コマ形式ではない短編シリーズも数多く誕生してきた。モビルスーツが擬人化された世界を舞台にした『隊長のザクさん』は、ギャグ中心の内容から熱血展開や人情物の要素も濃いストーリー漫画へ路線をシフト。何度もタイトルを変えては完結と復活を繰り返す人気シリーズとなっている。医者の卵という設定もあるヒロインのセイラが働く保健室へ、敵味方問わずさまざまなキャラクターが相談(?)に訪れる『女医セイラ』も近年の人気作。訪問者の相談を鋭く切り捨てる、気だるげなセイラさんが刺さる人も多いはず。
これら短編形式の作品も含めて、ほぼすべての作品の元ネタが『機動戦士ガンダム』というのが『機動戦士ガンダムさん』の大きな特徴。著者は多彩なアイデアで、20年以上も一つの作品だけをネタにしてきたのだ。現在は、定番の「異世界転生もの」も連載中。それが18巻からスタートし、最新20巻には大ボリュームで収録されている『ガンダム転生』だ。
敗戦直後の広島で闇市を仕切っていた喪蛭組(もびるぐみ)の悪室霊(あむろれい)は、慈音組(じおんぐみ)との抗争で死亡。しかし、目が覚めると、そこは異世界と言っていいほど未来の「ガンダム界」だった。世界を救うはずだった伝説の勇者アムロ・レイが手違いで死んでしまい、魂は別の世界に転生。その代役として悪室の魂が前世の人格と記憶を持ったまま勇者アムロの体に入れられたのだ。
意思を持ったロボットのハロにサポートされながら、転生時に授かった「モビルスーツ操縦SS」のスキルでガンダムを操り、天才パイロットのアムロとして「機動戦士ガンダム」の物語に沿って世界を救うはずだった悪室。ところが、武闘派の凶暴な極道がハロの思惑通りに行動するはずもなく……。物語から逸脱した行動を制御できなかったハロは、悪室の危険性を謎の黒幕「マスター」に報告するが取り合ってもらえない。しかも、「ガンダム界」には存在しないはずの他の転生者も現れて、事態は混迷。
20巻では、悪室の外道ぶりがさらにエスカレート。『機動戦士ガンダム』の物語を知っていても、先が読めない展開の中、本来の物語以上の悲劇も続出。それを止めるべきハロは、悪室に弱みを握られて涙を流す。そして、ついにマスターの正体も判明。悪室の物語はクライマックスへと突入していく。
また、20巻と同日発売の『ガンダムエース』(2022年11月号)では、『機動戦士ガンダムさん』の特集を掲載。著者の大和田秀樹と、『機動戦士ガンダム』でアニメーションディレクターを務めた安彦良和の対談など、より深く『ガンダムさん』や『ガンダム』を楽しめる情報が詰まっていそうな特集で、ファンならば併せて読みたいところだ。
文=丸本大輔