平野レミ&和田明日香、正直者同士だから嫁姑関係がうまくいく!「タダほど怖いものはないんですよ(笑)」
公開日:2022/9/23
「料理レシピ本大賞2022」で、料理家・平野レミさんの書籍『おいしい子育て』(ポプラ社)がエッセイ賞を受賞。同じく料理家で食育インストラクターの義娘・和田明日香さんも『10年かかって地味ごはん。』(主婦の友社)が料理部門で入賞。初の母娘W入賞となった2人にお話を伺った。
『おいしい子育て』は、レミさんが、夫でイラストレーターの故・和田誠さん、そして2人の息子との暮らしを振り返り、子育てと料理の喜びを詰め込んだエッセイ集。『10年かかって地味ごはん。』は、まったく料理ができなかった和田さんが、今ではお米が炊けるまでの数十分で作ることもあるという、作りやすくて飾らないレシピをたっぷり載せた一冊だ。
2人は世間から見れば“嫁姑”という難しい関係だが、メディアでよく対談しているし、仲がいいのは周知の通り。その理由を探るつもりでインタビューに臨むと、漫才のように弾むトークの中に、お互いをリスペクトする言葉がちらほら。おのずと、嫁姑仲良しの秘訣が伝わってきた。
(取材・文=吉田あき 撮影=内海裕之)
平野レミ、“お母さん”としての新しい一面
——まずはレミさん、受賞おめでとうございます!
平野レミ(以下、レミ):お料理のほうで授賞されずに文章のほうで授賞されちゃったから、料理家としては反対じゃないかと思って(笑)。
和田明日香(以下、明日香):そんなことないですよ。実際、料理も紹介してるし、両方載ってるからこそ説得力があると思う。
レミ:料理って写真がないとつまらなくない?
明日香:今はそれが新しいのかも。正解が示されていない分、自分で想像するから、作りやすい人がいるかもしれない。
レミ:想像力は掻き立てられるね。うんうん。
——『おいしい子育て』は、もともと97年に刊行された本に加筆・修正を入れたもの。それが今あらためて評価されたことになりますね。
レミ:まだ子どもが小さい頃の出来事とか、子どもが苦手になりがちな野菜のレシピとか、いろんなことを考えて、時には夫に相談しながら書いた本。子育てって、今も昔も変わらないのよね。
明日香:私が驚くのは、和田(誠)さんが家事や子育てを積極的にやっていたこと。今では当たり前になってきたけど、当時は珍しかったんじゃないかなと思います。
レミ:完璧な夫で、私は本当に幸せでした。この本が評価されて、天国の夫も喜んでいるんじゃないかな。お父さん…(天を仰いで)聞いているね…。
明日香:夫(和田家の次男・和田率)も、こんなに大切に育てられてきたんですよね。それを知って、今まで以上に大切にしなきゃと思いました。
——読者からの声は届いていますか?
レミ:「レミさんの新しい一面を知りました」っていう声があるみたい。言われてみれば、私もなかなかいいお母さんしてたなと思って。喋り方がちょっとヘンだからクレイジーばばあみたいに見えるけど、ほんとはちゃんとしてるのよ~。
明日香:まあ、世間から見たら…(笑)。でも、お母さんって本当にピュアで、何事にも真剣に向き合うタイプ。私、嫁いだ頃からこういう感じで、お母さんに言いたいことを言ってきたけど、それがお互いに良かったと思います。無理していい嫁を演じようものなら、お母さんが混乱して大変だったんじゃないかな。
レミ:そうよ。お互いに正直者なのよ。ありのままで~♪ってね。
明日香:家では、意外と丁寧で繊細なんです。鼻歌を歌いながら鯛のアラでダシをとったりして。メディアではみなさんを楽しませたくてサービス精神旺盛ですが。私はそんなお母さんのもとに嫁いで、運が良かった。
レミ:私もいいお嫁さんが来てくれたと思ってるわよ。学費も出してないし洋服代もかけてないのに、全部できあがった人間がタダで来ちゃったんだから!
明日香:タダほど怖いものはないんですよ(笑)。
なんてことない、当たり前の料理でいい
——いっぽう、明日香さんの『10年かかって地味ごはん。』は、料理部門の入賞でした。
明日香:はい。自分を肯定してもらえたようで嬉しかったですし、自信が持てました。ここまで10年かかったけど、そのプロセスを嘘偽りなく詰め込んだから、この本は私にとって履歴書みたいな存在。今までやってきたことは間違ってなかったんだなと。
レミ:嫁いできた頃は、全然お料理ができなかったのよね。息子が「お母さん、あーちゃんは料理ができないんだ。どうしよう」って心配してたけど、子どもが産まれてから料理をするようになって。本当に上手なんですよ。
明日香:ただのかぼちゃの煮物みたいなレシピもあるから、本当にこれでいいのか迷ったけど、私にとっては、なんてことないかぼちゃの煮物を作れるようになるまでが大変だったし、それはこれからお料理を始める人も同じだと思って。そういう気持ちに寄り添っていたいし、「地味な料理でもいいよね」って声を大にして言うのが私の役割。受賞は嬉しいですが、料理家の山があるとしたら、頂上なんてまったく見えてないです。
——友だちに教える感覚で書かれたレシピが画期的で明日香さんらしく、好評ですね。
明日香:作る人の隣に立って「あ~、もうちょっと焼いたほうがいいねえ」ってサポートしているような感覚を伝えたくて、文字での表現も工夫したので、それが伝わったことが嬉しくて。意外だったのが、「仕事を引退したから今度は自分が妻に料理を作ってあげたい」とか、「一人暮らしを始めるから料理を学びたい」という男性の読者さんも多かったこと。そういう方こそ、お母さんの味が恋しくなるのかも。あとは酒飲みの方も多いです(笑)。
レミ:あーちゃんが酒飲みだからね(笑)。
明日香:「この料理、ビールに合いました!」と言われて、だよね~って(笑)。
レミ:あーちゃんは、私が食べたことがないような料理を作るのよね。
明日香:え、もともとはお母さんのレシピってことも結構ありますよ。レシピが膨大すぎるからきっと覚えていないだろうけど。
レミ:あははは、そうだったんだ(笑)。まあ、野菜をお肉の3倍食べようっていうのは和田家の習わしだからね。まずは野菜を食べてからメインの料理。だから、あーちゃんちの子どもたちがうちに来ると、長女が言うのよ、「お肉はまだ! お野菜から食べるの!」って。偉いのよね。
あと15分でご飯ができるけど食べに来る?
レミ:嫁姑で仲が良いって言われるけど、それは私が自分で仕事を持っているからだと思う。やりたいことと求められることが一致していて、すごく幸せ。時間がすぐに経っちゃうし、人生楽しくて。「あの子、今何してるんだろう」なんて気にならないもの。
明日香:仕事の話もしますよね。明日どんな仕事なの? 朝早いの? とか。
レミ:そうそう。何でも話すのよ。今日も電話がかかってきて「○日は何してるの?」って言うから、てっきりご馳走でもしてくれるのかと思ったら…。
明日香:3人の子守りをお願いしちゃいました。ちょっと焼き鳥を食べに行きたくて(笑)。
レミ:あははは。でも、いつもご馳走になっているからね。
明日香:いえいえ。「あと15分くらいでご飯ができるけど食べる~?」って大体子どもたちが電話してくれて。来てくれる日もあるし、お腹いっぱいのときは来ないし。
レミ:そうそう。それで私は自分が飲みたいワインを持っていって、ひとりでコクコク飲んでいるのよね。いつもそんな感じ。
——明日香さんは、レミさんから子育てのアドバイスを受けることも?
明日香:私が気づかないところに気づいてくれたり、直さなきゃって思っている子どもの良くない癖に「その子の個性だからいいのよ」と教えてくれたり。アドバイスというより、私はそう思う、私はこう思う、ってお互いに話すだけだから、意見の食い違いはないんです。子どもの話はしょっちゅうするけど、恐縮することがなくて。
レミ:何も言う必要がないほど、いい育て方してるもん。いつも自由に育てていて、3人とも本当にいい子。ただ、子どもたちが大きな声を出していると、「うるさい!」なんて声をあげてるわよね(笑)。
明日香:あはは。うるさいときは言います(笑)。
レミ:あの子たち、自分たちが美味しそうなものをもらうと、自分だけ食べないで、「あげるね、はい!」って私にもくれるの。可愛いのよね〜。教育がいいのよ。
明日香:それは、お母さんが大袈裟に喜んでくれるからだと思う。「すごい~! わ~! 天才だ~!!!」って。子どもたちも気持ちがいいんでしょうね(笑)。
——おふたりの本に共通するのは、家族のために料理を作っていることだと思います。家族のために作る料理のコツはありますか?
レミ:いつも美味しく作ってあげようって思うことかな。愛情みたいな気持ちがスパイスになって、不思議と料理が美味しくなるのよ。それに、私の場合は家族が、「お母さんのご飯はいつも美味しいね~」って言ってくれるから、やる気になっちゃって。
明日香:それはありますね! ただ、私がお母さんほどいい母親じゃないかもって思うのは、自分のために作る料理も多いこと。もちろん、子どものために味や素材は工夫しますけど、私だって美味しいものを食べて1日を終えたいんです。だから、無理しすぎず、自分が食べたいものをワガママにならない程度に作ることが、毎日続けるコツかなって思います。