歌舞伎町での取材で見えてくる“ホストクラブの沼”の実態
更新日:2022/10/11
初めに断っておくと、ホストクラブに通う女性は、必ずしも現実社会で満たされないからホストにハマるわけではない。ホストクラブに通う動機や理由は人それぞれあり、彼女たちは皆何らかの「事情」を抱えている。そうした、百人百様の「事情」を、聞き取り調査や参与観察によって浮かび上がらせたのが、大泉りか氏の『ホス狂い』(鉄人社)である。
本書によれば、ホストクラブに耽溺する女性には、いくつかの類例があるという。たとえば、女性客がホストクラブにお金を落とす快楽を覚え、お金の力でホストに言うことを聞かせるケース。お金を出すことで「姫」と呼ばれて上機嫌になるお客も多いそうだ。特に、本命のお客は店外でも(時に疑似的な)恋愛関係にあり、休日にはデートや旅行に赴くこともあるとか。
また、ホストクラブは承認欲求を満たしたい女性にとっては、桃源郷のような場所だという。お金を使えば使っただけホストから優遇され、うまくいけば本命になれるかもしれない。その悦楽を一度知ってしまったら、もう、お金を使わないわけにはいかなくなるのだ。推しているホストにとって自分が特別な存在だという錯覚を抱くなら、もうホストクラブという沼にハマってしまった証だろう。
著者によれば、ホストクラブの宣伝の仕方も大きく変わったという。歌舞伎町の浄化政策により、ホストは路上でキャッチをすることができなくなった。その代わり、TwitterをはじめとするSNSや、Tinderなどのマッチングアプリが、ホストクラブの集客ツールになっている。
Tinderに「ホストです、指名してください」と書かれていたり、Twitterでお客を呼ぶためにアピールしていたりする場合もある。また、ホストクラブは初回体験が居酒屋より安いこともあるくらいなので、好奇心から初回案件を渡り歩いている女性も多いらしい。
しかし、ホストも楽ではないようだ。有名ホストと女性の間で深刻なトラブルが起こることも多く、刃物で刺されたホストもいるという。また本書によると、歌舞伎町を歩いていると、投身自殺を図った女性が上から落ちてきて、巻き込まれるから気をつけろ、なんて噂もあるそうだ。
“ホス狂い”と呼ばれる女性たちは、風俗で働いてる人も少なくないという。ホストクラブに膨大なお金をつぎ込むのには、そうでもしないとやりくりができないからだ。だが、ホストクラブに通うのをやめても、交際や結婚の相手に風俗で稼いでいたことをカミングアウトするのは難しい。だからといって、過去の自分を完全に隠し通してつきあうのも、それはそれでつらい。ばれたらどうしよう、というストレスに苛まれることになるのではないか。
自分の中での「推し」を作って、夢中で応援するのはいつだって楽しい。アイドルグループのファンでも、サッカーチームのサポーターでも、好きなバンドの追っかけでも、自分が後押しすることで、推しに少しでも多く活躍してもらいたい、という想いは同じはずだ。そしてホストクラブにハマる女性たちもまた、そうした心性を持っているように映る。
なぜそんな高価な遊びに時間と労力とお金を膨大に使うの? ホストクラブに縁のない女性は、そう疑問に思われるかもしれない。だが、本書に登場した推しにすべてを賭ける女性たちは、実に充実した時間を過ごしているように見える。だから、ホストクラブという沼にハマる彼女たちの振る舞いを、無謀な行為と切り捨てることは筆者にはできない。本書にもあるように、“ホス狂い”には大きなリスクがつきまとう分、リターンがあった時の悦びは至上のものだと思うからだ。さぞかし楽しい場所なんだろうな、ホストクラブ。
文=土佐有明