SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第15回「私はあなたを「あなた」と、呼ぶ。〜ありがとう、校長先生〜」
公開日:2022/9/27
どうして私がライブ中に「みんな」や「あなたたち」ではなく、「あなた」という言い方をするのかというのが今回のお話。
フロアに向かってあなたと発し始めてから、十年近く経つ。昨今あなた呼びでフロアに向けて発するバンドも増えてきたが、私がそう発し始めた当初、少なくともバンド界隈で誰も居なかったと思う。
どうして、「あなた」なのか。これは小学校の時分の校長先生の話がきっかけであった。このような切り口にするとハートウォーミングな話が始まりそうなものだが、悲しいかな真逆の話だったりする。
今考えてもあながち間違いではない気もしているが、当時は全校朝会で聞く校長先生の話ほどつまらないものはこの世の中に存在しないんじゃないかと思っていた。どうしてこんなに面白くないのか考えてみようと、炎天下、倒れた村田さんを保健室に運ぶ手助けをしながら幼い頭を回した。内容如何などではなくきっともっと原因は根の部分な気がする。必死で回し続けた頭は一つの答えに辿り着いた。
話を大多数に向けているからだ、と。
いや当たり前なのだ。ただ、個人が集まった結果の大多数なのか、それとも個人という概念が欠如した大多数なのか、で大分違うと思う。校長先生の話はまず間違いなく後者であり、一人一人に別の考えがあって、それぞれに違う景色を見て生きているというそもそもの思考がきっとないのだと思う。個人と対話しているのではなく、大多数という象徴に投げっぱなしているのだ。だから言い方は少し悪いが、私のようなたかが子供にも話を聞いてもらえないんだろうなア。と、そんなことを思った。
のを、思い出した。
メジャーから落っこちて、自分たちの音楽を軸に人の温情に気が付く瞬間が増えた。その時に改めて、「なんで音楽やりたいんだろう」と思った折にだったと思う。
オンステージして人と対峙するのは、何かを受け取って欲しいから、そして自分も受け取りたいから。そしてそれは決して誰でも良いわけではなく、フロアで一緒に音楽をしてくれているその人とがいい。だから伝えたいと、伝えて欲しいと思うなら目の前に何人いようが一つ一つの人生を蔑ろにしてはいけない。それぞれに受け取ってもらって、それぞれに投げ返してもらいたい。だとするならば、「あなたたち」ではなく「あなた」に歌いたい、と。そう思うようになったのです。
と、ここで少し脱線して、ただでさえ校長先生の話が入ってこなかった私が、ああ内容とか、意識とか以上に、結局は人間じゃん、って思ってしまった出来事を一つ。村田さんを運びながら思考を巡らせた一ヶ月後くらいだった。
しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催。現在「都会のラクダ TOUR 2024 〜 セイハッ!ツーツーウラウラ 〜」を開催中。
自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中