10年前の連続殺人と酷似した手口の殺人事件が発生――捜査に進展をもたらす“厄介者”からの情報…『罪の轍』著者の圧巻犯罪小説!
公開日:2022/9/27
暑すぎた夏も去って、いよいよ秋。秋といえば食欲にスポーツに…そしてダ・ヴィンチWeb的なおすすめはもちろん「読書の秋」だ。過ごしやすくなってくる秋の夜長は、どっぷりミステリにはまりたい! そんな気持ちにばっちり応えてくれる「骨太」な1冊が登場した。
直木賞作家・奥田英朗さんの新刊『リバー』(集英社)は、600ページ超えとボリューミーだが(つまり外観からして太い)、緊迫感のある展開にぐいぐい引き込まれ、気がつけば一気読み必至。ミステリ&サスペンスのスリリングな味わいを堪能できる「贅沢時間」を約束してくれる。なお奥田英朗さんといえば、そのバラエティ豊かな作品群でも知られているが、本作はTVドラマにもなった『オリンピックの身代金』(講談社文庫)や『罪の轍』(新潮社)などと並ぶ圧巻の犯罪小説系。そのラインの奥田作品が好きな方には待望の1冊でもあるだろう。
群馬県桐生市と栃木県足利市を流れる渡良瀬川の河川敷で、相次いで女性の死体が発見された。全裸でうつ伏せ、両手は後ろで縛られ絞殺された死体の状況と手口は、10年前に桐生市と足利市で起きた未解決の連続殺人事件と酷似していた。同一犯なのか、模倣犯なのか――街中が震え上がる中、10年前の雪辱を果たすべく群馬県警と栃木県警はすぐに共同捜査を開始。地道な聞き込み捜査、防犯カメラ映像の検証、かつて容疑をかけられたものの証拠不十分で不起訴となった男への再聴取…全力で捜査を進めるもなかなか手がかりは見つからない。そんな中、ある不審車両の目撃情報が犯人捜査に大きな進展をもたらす。その情報を寄せたのは、10年前に娘を殺された被害者の父親。執念深くひとりで犯人捜しを続けることから、警察からも厄介者としてマークされていた人物だった――。
捜査にあたる刑事たち。かつて容疑をかけられた男。取り調べを担当した元刑事。10年前に娘を殺された父親。事件取材に不慣れな若手新聞記者。一風変わった犯罪心理学者。浮かび上がる新たな容疑者。工場の期間工。出稼ぎの外国人労働者。彼らが集まる街場のスナックと店のママ。そして暑い夏――北関東特有のどこか乾いた風景の中で、さまざまな人物の視点が交錯し、ドラマはじわじわと深まっていく。緊迫感のある事件の謎解きを主軸にしながらも、不確かさ、おろかさ、哀しさ、面白さなど人間のリアルを絶妙に描き出すのはさすがの奥田ワールド。会話も巧妙で小気味よく、群像劇としての味わいもたっぷりで、人間の「業」や「情」についてもじっくり考えさせられる。
10年という年月は事件を風化させ、人も変えていく。だが事件が未解決のままでは、後悔と無念と情念…さまざまな感情は積み重なり、心の傷は膿み続ける。そんな中でも10年前と変わらぬ姿を見せるのは渡良瀬川だ。事件を起こした愚かな人間を見つめ、悲しく川辺を彷徨う人間を見つめ、平和に喜ぶ人々を見つめ――人間たちの澱を流すかのような「川」の存在が、静かに心に残ることだろう。
文=荒井理恵