「雑に死んでなるものか！」婚約破棄された悪役令嬢が破滅フラグに立ち向かう

「アイリーン、君との婚約は破棄させてもらう」。エルメイア皇国の皇太子・セドリックが、婚約者にこう告げるところから物語は始まる。そのときアイリーンに前世の記憶がよみがえっていた。「これはゲーム中の婚約破棄イベント？」そう、ここは彼女が前世でやりこんでいた乙女ゲーム「聖と魔と乙女のレガリア」の世界だったのだ。アイリーンはゲームのルートやエンド、キャラクターを思い出す。我に返ったアイリーンは、自分がプレイヤーが動かすヒロインのライバル・悪役令嬢であると気付いた。前世の記憶によると、彼女はこの婚約破棄から破滅の道を歩む。

　アイリーンは自身のバッドエンドを回避する方法を思いつき、魔王の生まれ変わりでゲームの“ラスボス”キャラクター・クロードへ会いに向かった。彼女はクロードを前に、初対面でこう言い放つ。

わたくしと結婚して頂きたいの！

　実はゲームでは、クロードがアイリーンの破滅フラグの起点なのだ。彼が人間に裏切られて魔王として覚醒することで、彼女はストーリー上“雑に”死亡する。これはほぼすべてのルートでそうなのである。

　そこでアイリーンは、クロードが人間を愛すれば覚醒が防げると考えた。しかも彼は魔王とはいえ元々は皇太子なのだ。おまけに容姿は超絶美形である。相手として申し分のないクロードとの恋は、アイリーンを振ったセドリックに対する意趣返しとしても最高だ。

　ゲームの攻略よろしく彼に近づくアイリーン。破滅を回避して生き延びるため、悪役令嬢は魔王に言い寄るのだ。

累計120万部突破！豪華スタッフによるテレビアニメも期待大

　原作は『やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中』（KADOKAWA）の永瀬さらさ。コミカライズ版の作画は柚アンコが担当している。柚氏は本作とともに、この『やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中』のコミカライズも手掛けており、まさにゴールデンコンビ。

　累計120万部を突破したヒット作がどう映像化されるのか、期待がふくらむ。キャストは主人公・アイリーン役に高橋李依。魔王クロード役に梅原裕一郎。皇太子セドリック役に増田俊樹。ゲームのヒロインだったリリア役を花澤香菜が演ずる。

　スタッフは監督に「100万の命の上に俺は立っている」を手掛けた羽原久美子。シリーズ構成・脚本は「見える子ちゃん」「異世界おじさん」の猪原健太。アニメーション制作はMAHO FILMが担当する。

悪役令嬢の皮をかぶったツンデレヒロインは真の主役になれるのか？

　本作の大きな魅力はキャラクターだ。主人公・アイリーンは、ゲームでは悪役で“やられキャラ”。しかし彼女はゲームのシナリオという運命に全力で抗う。「この世界はわたくしの物語」と強い気持ちをもち、知恵を働かせて大胆な行動にうってでて奮闘するのだ。人と魔物に分け隔てなく優しくでき、事業を経営・成功させるなど能力も高い。多少気の強いところはあるが、彼女はハイスペックな正統派ヒロインである。

　アイリーンの周りの人物たちも非常にいい。クロードの従者で人間のキースは聡明だが謎めいた青年。同じく従者のベルゼビュートはクロードの右腕を自称し、服従を誓うマッチョな魔物だ。アイリーンの幼馴染のアイザックは悪役令嬢で嫌われ者の彼女に味方をし、事業の経営時に活躍する。乙女ゲームらしく、彼ら以外にも男っぷりのいい青年たちが数多く登場するので楽しみにしてほしい。

　そして登場人物たちのなかでキーになるのが、クロードとセドリック皇子の恋人になるリリアだ。クロードは美しく、強く、クール……なのだが少々チョロい面もある。こんなに“かわいげ”のあるラスボスなら、アイリーンならずとも攻略したくなるかもしれない。

　リリアは、アイリーンも前世でプレイした「聖と魔と乙女のレガリア」本来のヒロイン。だが彼女はただの美少女ヒロインではない。秘密を抱えたリリアとアイリーン“のどちらがこの物語の主役なのか”この決着も見所である。

　はたして悪役令嬢は魔王を飼いならし、愛を育むことができるのか。アニメでどこまで描かれるのかは分からないものの、元々のゲームの筋書きにはないハッピーなエンディングが見られるのか、楽しみにしてほしい。

文＝古林恭