発売前重版&累計発行部数10万部を突破した話題作! 2022年夏アニメのスピンオフ小説『リコリス・リコイル Ordinary days』
公開日:2022/10/4
2022年夏、大きな話題になったテレビアニメが『リコリス・リコイル』。秘密裏に国家の安全を守るエージェント・錦木千束(にしきぎちさと)と井ノ上たきな、ふたりの少女が主人公の物語である。
アニメは放送が開始されると一気にブレイク。地上波放送時には何度もTwitterのトレンド1位を獲得し、狂騒ともいえる盛り上がりを見せ、ついに完結した。そのさなかに発売されたのが本書『リコリス・リコイル Ordinary days』(アサウラ:著、いみぎむる:イラスト、Spider Lily:原案・監修/KADOKAWA)である。
本書はアニメ原案のアサウラ氏による書き下ろしで、公式ストーリーの幕間を書くスピンオフノベル。イラストをキャラクターデザインのいみぎむる氏が描き下ろしているのも魅力だ。こちらの発売情報が出ると予約が殺到し、発売前に重版が2回かかり累計発行部数10万部を突破するという異例の状況となった。ちなみに私が何とか手に入れたのはすでに3刷であった。
本稿では、話題の小説版『リコリス・リコイル』と作品そのものの魅力について紹介する。
ハードな世界で精いっぱい生きるふたりの少女の物語
アニメ『リコリス・リコイル』の舞台は近未来の“平穏すぎる”日本。その平穏は国の秘密組織「DA」(Direct Attack)によって保たれている。「DA」は街を監視し、テロや凶悪な犯罪を未然に防いでいた。
「DA」のエージェントは「リコリス」と呼ばれる十代の少女たちで、彼女たちは都市に溶け込む学生服のような制服に身を包み、武器の所持と殺しのライセンスを携えてひそかに戦い続けている。
そんな「リコリス」で歴代最強と言われているのが錦木千束だ。ただ彼女は「DA」本隊と離れ、「喫茶リコリコ」の看板娘として働いている。「喫茶リコリコ」はカフェでありながら「DA」の支部でもあるのだが、受けるオーダーはコーヒーやスイーツの注文から、子どものお世話、買い物代行、外国人向けの日本語講師など「リコリス」らしからぬものばかり。
ある日、腕は確かだがワケありのリコリス・井ノ上たきなが「喫茶リコリコ」に配属になる。千束は明るい楽天家で、モットーは「やりたいこと最優先」。クールで効率主義のたきなは、そんな彼女に最初はいらだつ。
だがコンビを組んでいくうちにたきなは変わっていく。千束のことを知り、彼女が教えてくれる“新たな視点”、“思いもよらなかった考え方”などを素直に受け入れられるようになるのだ。ふたりはやがて「DA」と日本を揺るがそうとするテロ計画と“千束自身を巡る陰謀”に立ち向かっていく。
ファン待望!喫茶リコリコで起こる“ありふれた非日常”を描く
本書『リコリス・リコイル Ordinary days』のポイントは、まず設定の細かい解説だ。アニメだけで見せられたリコリスの制服と装備、先端部に特徴的なコンペンセイターが付いた千束が持つ銃の詳細な解説などは「おおっ」となった。
さらにアニメの魅力のひとつ、バトルやガンアクションを丁寧に描写しており、“画”が頭に浮かぶようである。また食事シーンの表現が秀逸なことも忘れずに書いておきたい。香りと味と食感が口の中に広がるようで、まさに活字の“飯テロ”。夜中に読む場合には要注意だ。
そして内容。アニメでは描かれなかった“ありふれた非日常”が書かれている。常連客との人情ドラマ、リコリスとしての能力を見せつける手に汗にぎるバトル、たきなの心情の変化と恋物語(?)、ロードムービー風の番外編的なエピソード……これらが互いに絡み合う構成になっている。全般的に、アニメで繰り返し描かれた「人助けがしたい」という千束の想いがあふれていると感じた。喫茶リコリコでは「どんなご注文も……おまかせあれ♪」なのだ。きっと「こういうのが読みたかった」と思うファンは多いはず。
ここで私が印象に残った部分を紹介したい。
後悔したところで意味はない、
その時間がもったいない、ならば今の状況を良しとして次へ行くのだ。
それが錦木千束という生き方なのだ。
ファンならば、かなり意味深に感じるだろう。他にもアニメを観ていれば「なるほど」となる表現や描写がちりばめられているので、注意深く読んでほしい。
『リコリス・リコイル』は考察しがいがあり、伏線回収も見ていて心地いい作品だ。情報量の多い設定や、奥行きのある世界観、巧みな構成は視聴者の楽しむ幅を広げてくれている。
ただやはり本作の最大の魅力は、精いっぱい「やりたいこと最優先」で生きるふたりの少女なのだ。
嵐のような3カ月間のアニメ放送が終わり“ロス”になっている人は多いことだろう。彼女たちの物語を補完できる本書をじっくりと読み、作品世界に、千束とたきなの物語に、まだまだどっぷりとひたってほしい。
文=古林恭