RED・椿麗さん/歌舞伎町モラトリアム⑦

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公開日:2022/10/12

 自身もホストクラブに通いながらも、社会学として歌舞伎町を研究する佐々木チワワ。そんなチワワが歌舞伎町で活躍する様々な「エモい」ホストと対談し、現代のホストクラブについて語りつくす新連載、「歌舞伎町モラトリアム」。

 今回は歌舞伎町ホストクラブ「RED」で4年連続1億円を売り上げ、現在はレジェンドプレイヤーとして活躍中の椿麗さんにお話を伺いました。

歌舞伎町に来て10か月で1300万プレイヤーに

佐々木:ホストは8年目ということですが、ずっと歌舞伎町なんですか?

椿:元々横浜で3年ほどやっていて。規模が小さいのもあってあまり売れてなかったです(笑)。歌舞伎町に来て10か月目でようやく1000万売れましたね。

佐々木:その当時は今ほどポンポン1000万プレイヤー生まれてなかったですよね。その時に売れているのはすごい…。1000万売ったときの事今でも覚えていますか?

椿:もちろんです。イベントを2日間やる予定で、1日目のシャンパンタワーを引き受けてくださったお客様が1週間前にやっぱり今回は難しいかもしれないという話になってしまって。イベントを1日だけに変更しようと思ったのですが、2日目のタワーをやってくださる予定だったお客様が『それなら2日とも私がやるよ』と。両日タワーをしてくださったんです。そのお客様が800万、ほかのお客様達で500万あげて1300万の売り上げでした。

佐々木:その姫カッコよすぎますね…。最近、Twitterではタワーをすると担当と切れるというジンクスがウワサされていて(笑)。確かにタワーって華やかだし楽しいけど、使いたいときに使うのではなくホスト側の都合に合わせて大金を使うじゃないですか。楽しかったから結果300万使った、のと、最初から300万使うって決まっていて「楽しめるかな」って不安なのは確かに心の持ちようが違うし、切れる要因にもなるかもなと思いまして。

椿:タワーを楽しくない風にさせる方が難しくないですか? アフターをバックレたとかするくらいしか…。あとは、タワーの際のホスト側のお礼コメントが薄いとかは影響がデカいと思います。当時は酔って忘れてしまわないように、女の子に伝えたいことをメモしてちゃんと用意していました。

佐々木:自分のために時間をかけて言葉を紡いでくれるというのがもう尊いですね。高額使ったときに、お金をかけたからこそその好きとか特別という言葉に価値が生まれる。

椿:間違いないです。

ホストの真価は言葉に宿る

佐々木:ホストって容姿とか接客もだけど言葉とか文章力大事だなと。

椿:最近は薄いなと感じることも多いですけどね。遊ぶ人が増えて、お金を稼げる子が増えて、お金があふれてるから簡単にお金が使ってもらえるようになっちゃって。その結果薄いというか、誰にでも言えそうな言葉を並べているなと。目の前にいるお客様を喜ばせたり、お客様一人ひとりにしか伝わらない言葉を選んだりするべきだと思いますけどね。

佐々木:売れているホストさんはSNSでは見込み顧客向けのブランディングとして、誰にでもの中でお金を使ったら特別感を味わえるんだな、ちゃんと自分の事を「見て」くれるんだろうなぁって言葉を紡いでいる方が多い気がします。逆に女の子でツイッターやってるホス狂とかどうですか? 最近だと、担当公認で担当を指名してる話とか、全部書いちゃう子とかが容認されている気がしますが。

椿:担当とお客様本人が、そして指名してるほかのお客様が嫌じゃなければいいと思います。僕自身はお客様が有名人だからどうとか気にしてません。お金を使ってくださっているお客様が優先ですし、知名度は関係ないです。

ホストクラブで救われる女の子達

佐々木:ホストクラブって、普通の人が助けなかったり、一般社会に見つけてもらえない女の子たちが、お金さえ使えば優しくされて居場所を確保できる場所としての側面があると思っていて。興味を持ってかまってあげるって、福祉で一番大事なところを補っているんじゃないかなと思うんですよね。何者にもならないでも誰かに見てもらえるって、ある種の救いなんじゃないかなって。

椿:前は自分がお客様をちゃんと見てあげたらずっと通ってくれたりしたんですけど、今はホストが多すぎるんで、簡単にほかに行っちゃうんですよね。ほしいときに連絡がなかったり、電話に出られなかったりとかで簡単に離れていく。ちょっとした承認で、ホストの価値関係なく簡単にお金を使っちゃったり。よくないなと思うときはあります。簡単にパパ活とかで稼げるようになっちゃったかもしれないけど、お金ってもっと大事に使わないと。だから、厳しい言い方をしてしまいますが、価値のない売り上げだけのホストさんも増えたなと思います。

佐々木:同じお金でも、誰がどう使うかで全然価値が変わりますよね。

椿:そうそう。

佐々木:“夜職の10万と昼職の10万、どっちが大事か”みたいな論争がたまにありますけど、どんな手段で稼いできたかなんてどうでもよくて、本来は相手に何を感じてそれだけの金額を使ったかってところをみんな見るべきだと思うんですけどね。

椿:普通のご飯屋さんでも、お客様に何で稼いできたかなんて聞かないじゃないですか。それと一緒で、別にわざわざ知る必要性はないと思ってます。使わせたホストが悪い、って言う人は偽善者だなと感じてしまう。

佐々木:犯罪スレスレの裏引きとかを姫に勧めるホストとかも私は違和感を覚えてしまいますね。

椿:「裏引いてきてよ」って言えるホスト凄いですよね。ヤバいと思います。

佐々木:女の子がホストに価値を感じて、いい思いをしたくて勝手にやったことならまだ自分のキャパシティーが追い付かなかったんだなって納得いくんですけど。とにかく最近の歌舞伎町は「たかが1000万」みたいな感じでお金の価値が軽くて怖い。

椿:本当に怖い。

佐々木:歌舞伎町ではお金を使ってる子が優先されるのは当たり前なんですけど、使った金額の数字より、自分が何に価値を感じたのか、なんでお金を使っているのかを言語化できる力の方が大切なのかなと思っていて。当てつけのようにお金を使う子もいれば、担当の目標を応援したくて使う子もいる。数字もだけど、そういう中身に歌舞伎町のエモさや良さは凝縮されているなと感じます。いいホストを指名すれば同じ金額でもいい使い方ができるんだろうなとは。

椿:ホストのレベルが高いと、無駄なことにお金を使わなくなるとは思いますね。たとえばサブ担が必要なくなったり、イライラしてバーで飲むことがなくなったりとか。一度僕から離れたお客様が戻ってきたりしますけど、「ホストに行かなくなると仕事すらも行く気がなくなってなにもなくなるから、多少なんか関係性があった方がいい」って言われたり。

佐々木:メンクリか…?

椿:ホストは心の薬なのかもしれないですね(笑)。

ホストと姫の「濃い関係」

佐々木:椿さんからお客様を切ることはあるんですか?

椿:短気なので、すぐ「もういいよ」って言っちゃうんですよ。八つ当たりしてしまったこともあるし。切るときは「絶対連絡してくんなよ!」とか言うけど、心の中では戻ってきていいよ、って思ってたり(笑)。距離感とかあんまり考えずに、好きなように担当と過ごせばいいと思ます。

佐々木:椿さんは話を聞いているとすごくお客様と向き合っているなと感じるのですが、そういうのが「濃い関係」を作っていくのでしょうか?

椿:僕にお金を使ってくれたお客様達には、いろんな自分の身の上話もしたし、相手の話も聞いたし。お互いに知らないことがほとんどなくて。何してどこにいるかも知ってるし、休日の過ごし方とか、友達と飲んだ時にどんな酔い方するのかなっていうのまでわかりあってました。これが「濃い関係」だと思います。後輩に「あの女の子今何やってんの?」って聞いても知らない人の方が多い。ああ、そんなもんでいいんだなぁって感じる時もありますね。

佐々木:確かに担当のことを把握していると、不安になることも減るし、連絡が遅くても「何かしたかな、もしかして女といるのかな」っていうより、「疲れてるんだろうな、昨日喧嘩したから返したくないのかなー」とか相手の思考と行動が読めるから安心できますね。お互いに会っていない間何してるかを報告できる関係は、濃いし、なかなか得られない信頼関係だと思います。お金使った上で思いやりを持てるのは向き合っているからこそかもしれない。

椿:そうそう。僕の事を知ってくれていた方がお客様も嫌な思いをしないし。安心させられるので。

佐々木:だからこそ、最初に女の子に対して仕事とか使える金額をすぐ聞いてきてそこから仲良くしてこようとするホストは薄いと思ってしまうし、趣味とかお互いの事を話すようになると自然に長続きするなと。

椿:まずは相手に興味持って仲良くなっちゃった方が早いと思いますね。売り上げは後からついてくる。

佐々木:結局ホスト通いの究極の承認欲求って自分に興味を持ってもらう、だと思うんですよ。お金での一時的な主役感だけだと、もっと華やかな演出があるお店とか場所に惹かれたりする。そんな中で人として向き合ってくれて自分に興味を持ち続けてくれるホストがいたら緩やかで穏やかな沼だなと。

椿:逆に言えば僕に興味ない方には、こっちも興味ないですからね!(笑)。

ホストは天職

佐々木:最後に、椿さんにとってホストとは何ですか?

椿:天職かなぁ。プレイヤーとしては(笑)。全部やめて田舎で暮らすか、と思ったときもあるけどそれは将来後悔するなって思い直して。ずっとプレイヤーでいたかったなと時折思います。今は色々考える時期でもあるんですが、でもまだ20代だし新しいこと全然できるな! と思ったり。今は色々勉強する時期だと思ってます。

<第8回に続く>
佐々木チワワ(ささき・ちわわ)/2000年生まれ。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)在学中。10代から歌舞伎町に出入りし、フィールドワークと自身のアクションリサーチをもとに「歌舞伎町の社会学」を研究する。歌舞伎町の文化とZ世代にフォーカスした記事を多数執筆。現在、初の書籍『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認』(扶桑社)が好評発売中。