良好な関係がある人には使わないで! 3000人超を取材してきたインタビューのプロが初めて明かす「悪魔の傾聴テクニック」
公開日:2022/10/13
この人の本音を知りたい。恋人や友人、取引先に対してそんな欲求を抱いたことはないだろうか。実はその願望、『悪魔の傾聴 会話も人間関係も思いのままに操る』(中村淳彦/飛鳥新社)を読めば、叶うかもしれない。
著者は長年、AV女優や風俗、介護に関する社会問題を取材している、ノンフィクションライターの中村淳彦氏。中村氏は、2019年本屋大賞ノンフィクション本大賞にノミネートされた『東京貧困女子。 彼女たちはなぜ躓いたのか』(東洋経済新報社)や、2度も劇場映画化された「名前のない女たち」シリーズ(宝島社)などで、見過ごされやすいSOSを訴えてきた。
そんな取材のプロが、相手の本音を暴き出す「悪魔の傾聴テクニック」を公開。ここには、20年以上の人物取材で培ってきたノウハウが詰め込まれている。
会話の初めには相手の話を潰さない「ピックアップ・クエスチョン」を
実は中村氏自身、人見知りな性格だという。そこで、失敗を繰り返しながら、聞き手が必要最低限しか話さない「悪魔の傾聴」を生み出したのだそう。
“悪魔の傾聴とは「相手から本音を聞き切ること」、または「本音を引きだすことで、相手の問題や疑問、現状の答えを相手から導きだすこと」になります。”
そう定義された悪魔の傾聴は、相手に対して「~をしない」不作為の技術が中心であるため、コミュニケーション能力に自信がない人でも取り組みやすい。
まず、身につけたいのが、基本技術である「ピックアップ・クエスチョン」。これは、相手が発言した言葉をフックにして、短い質問を投げかけながら、相手の興味関心や話したいことを探っていくというテクニックだ。
〈例〉
相手:「実はアイドルが好きで。特に好きなのはハロプロですね。この前、Juice=Juiceのライブに行ってきたんです」
NGの返し:「知らないなぁ。ハロプロだったらモーニング娘。だよね。俺は○○とか好きだったなぁ」
OKの返し:「Juice=Juiceってハロプロなんだね? 知らなかったよ」
NGの例では、自分の知るネタにすり替えて、相手の話を潰してしまっています。中村氏によれば、人は話したいことを聞いてくれた相手に好感を持つため、会話が発進する段階では、相手の話に寄り添うことが重要なのだとか。
なお、会話を膨らませるには、人の行動には必ず理由があり、理由の中には必ずなにかしらの欲望や感情が存在すると考え、相手の「欲望と感情」に着目。ピックアップ・クエスチョンで得られた相手の返答から「欲望」の部分を拾いあげ、話を転がしていくのだ。
〈例〉
相手:「私、6月30日で会社を辞めました。来月から隣町の携帯ショップで働きます」
自分:「えー、どうして辞めちゃったんですか?」(ピックアップ・クエスチョン)
相手:「給料安いし、上司にパワハラされてうんざりしたんです。時給が50円も高い隣町の携帯ショップで働きます。カッコいい男の子もいるし、けっこう楽しみ」
(※欲望に該当するのは、「カッコいい男の子もいるし」の部分)
自分「へー、新しい職場にカッコいい男がいるんだ?」
※ここから、相手が思う「カッコいい男」のタイプや恋人を欲しているのかなどを探っていく
相手の欲望と感情に着目するという傾聴テクニックは、斬新。このテクニックはあらゆる場面で役立ちそうだ。
話がズレた、沈黙が続いている時の対処法は?
会話中は、予測不能な事態に慌てることも。例えば、相手がズレた話をし始めた場合、困惑しながらも、遮るのは失礼だと思い、脱線話に付き合うことは多いもの。だが、中村氏は間ができた時にすかさず質問を入れ、話を戻すことを推奨している。
よくあるのが、第三者のことや誰かから聞いた二次情報で脱線するパターン。こうした時は、「で、○○さんは、そのときどう思ったのでしょうか?」や「で、○○さんは、どのような行動をされたのでしょうか?」と、「で」という言葉で終止符を打ち、相手の名前を入れて問いかけると、相手も語っていることが本来の話題からズレていたと気づき、会話が修正できるのだそう。
ポイントは、ズレをなるべく早く矯正すること。20~30分も聞いてしまうと、軌道修正が難しくなるので注意したい。
また、相手が沈黙し、重苦しい雰囲気になってしまった時の対処法も参考になる。慌てて声をかけたり、質問したくなったりするが、「否定をする」「自分の意見を言う」という絶対にしてはいけないミスを犯していないのであれば、語りの最中の沈黙は、いま現在の相手の間であるため、待つのが正解なのだとか。
相手の沈黙は、破らない――。簡単なようで難しいこの傾聴テクニックも、しっかりと頭に刻んでおきたい。
他にも、中村氏は傾聴時に意識したい座り位置や場所も具体的に解説。悪魔の傾聴をする上で行いたい心の調整法や上級者向けのテクニックも知れ、幅広い人が会話を振り返るきっかけを得られる1冊となっている。
“しゃべれなければ、聞けばいい――それだけで、本当にあらゆることが好転するのです。”
本書を手に取り、そんな中村氏の言葉を実感してみてはいかがだろうか。
文=古川諭香